第十五話 機兵の価値
「機兵って、そう易々と手に入れられるようなもんじゃないんですよ-」
悲しそうな顔で首を振る。
「手先が器用で知識があるものは自分で創る事が出来きますが、そうでないものは機兵工房に依頼を出し作って貰うか、完成品を購入することとなりますね」
パーツを生産できるわけでもなく、魔獣からの入手に頼るしかないわけだ。一体いくら掛かるのだろう?その質問にレニーは苦笑いで答える。
「そうですね、工房に置いてあるのを買うと1機あたり金貨50枚から白金貨1枚、といったところでしょうか……。普通は無理なので自分で素材を用意して組んでもってようやく金貨30枚。私みたいな5級じゃ工房産のは手に入れられませんねえ」
「スミレ、貨幣の価値って日本円でどんなもんなの?」
『今日まで集めたデータから推測すると1金貨あたり10万円ですね。白金貨は1枚1000万円程度のようです』
うわあ……高級車じゃん……。いやでもロボットだから安いもんなのかな?実際実用レベルで稼働するロボットって実際に売られてた訳じゃ無いから価値がわかりにくい……中古の油圧ショベルでも900万円くらいしてたからそんなもんかな……
「なので大体の人は先にライダーライセンスだけ取得しておくんです。コツコツと細かい仕事をしながらお金を貯めて、機兵購入を目指す機兵無ライダーも数多く居るんですよ」
「ぜ、ぜんら?」
「私が正にその機兵無ライダーなんですけどね、女の子なのに全裸ですよ、全裸。「おい、レニー!全裸卒業できたか?その様子だとまだのようだな!ガハハ!女の子が全裸じゃよくねえよなあ」なんて他のライダー共にからかわれるんですよー」
レニーが心底嫌そうに説明する。なるほど全裸とは言い得て妙だ。この時代において機兵無しでハンターをすることは全裸に等しい無謀な行動と言うことか。
「で、それだけ重要な機兵すよ?他人のを盗んでやろうとする奴が後を絶たなかったんです。なので機兵を盗難から守る取り決めが出来たんです。」
機兵を用意できたハンターはギルドに持って行き、簡単な検査と共に機兵登録をすることが義務づけられるようになったそうだ。
ギルドから発行されるシールのような魔道具、認識票をボディに貼ることによりパイロットと紐付けられるらしい。パイロットがシールにドッグタグを近づけることにより反応して発光し、持ち主本人であることが証明できると。
「見た目は簡単に剥がれそうなんですけどね、パイロットかギルマスじゃ無いと剥がせないらしんです。だからギルドに持ち込まれた機兵はプレートの有無をチェックされ、その確認を経て初めて登録がされるんです」
「剥がせないなら上から塗料で塗ってしまえば分からないのでは無いか?」
「それを試した不届き者も存在したらしいんですけどね、剥がれないという時点で疑うべきなんですよ。
プレート自体が強力な魔道具で、そんな対策をしていないわけが無いって。その場は綺麗に色が塗るんですが、少しするとそこだけ綺麗に色が抜け、偽装したのがバレるらしいですよ」
そういや元々この世界は剣と魔法の世界だっただったな……。我々のせいでどちらかと言えばスチームパンクめいた世界観になってしまったようだが。
ここまで黙って話を聞いていたスミレだったが、"プレートを貼る"というのが引っかかったようで嫌そうな声を出した。
「う~……、カイザーにそんなものを貼るんですか?必要ないですよ?そもそも貴方の身体には認証紋が既に刻まれているのだから…」
それを聞いてびっくりするのはレニーだ。
「に、認証紋?刻まれている??ええ…?入れ墨かなにかですか?こ、困りますよ嫁入り前の娘なんですよお」
本気で焦っているようなので補足してやる。
「大丈夫だ、普段は見えないから。そうだな、俺の前に立ち手をかざし輝力をそこに集中してみろ」
「こうですか?」
と、レニーが手をかざすと手の甲にユニコーンの紋章が浮かび上がった。
「わわ、なんですかこれ?い、いつのまに?」
「俺とお前の輝力が反応して現れる認証紋だ。最近まで忘れていたが、パイロットと俺との間で契約がされると浮かび上がるようになるらしい。それがあれば何かの事情で俺とお前が離されても互いに居場所がわかり、救出の手助けをすることが出来るってわけだ」
はえーと、手を見ながら感心するレニーを見て思い出す。第にじゅうなな…わ…うっ…クソっ!またか!何かを思い出したはずなのにデータにアクセスできない。
今…思い出そうとしたのは…カイザーの元ネタ…そうだ…アニメの話で……おかしい…あれだけ、あれだけ見たのに最終話が思い出せない。
最終話どころか他の話も思い出そうとしても無理だ……1話からいくか…。
第1話…カイザーが…そうだ…竜也と出会うため降り立ったが……運悪く不良に解体されかけるんだ…。第2話……パイロット契約が済み……、自立出来るように…なった……。うん、これは…覚えている…。くそう、他の話を連鎖的に思い出せないか考えてるがだめだ……。
第3話…戦闘訓練中に敵に襲われ…実戦に……そして4話………!
あと少し、あと少しで思い出せそうだったがだめだ。
やはり何かが俺の記憶に強烈なロックがかかる事態が起きている。興味深いのは今の今までアニメの話をしようともしなかった自分のことだ。
じんわりと思い出してきたが、俺という存在はロボットアニメが好きすぎるあまり何かと名台詞を口にしていたような気がする。いや、していたはずだ。それがついさっきまで出ようともしなかった。
以前までと違うのは…自立…自立の時に解除された俺達が知らなかった機能…?
「イザー…カイザーさん!聞いてますか?カイザーさん!」
っと、レニーに呼ばれて我に返る。まあ、考えていても仕方が無い。長く眠りすぎたせいでデータがおかしくなっているだけかもしれないし、そのうちなんとかなるさで後回しにしておこう。
「もう!カイザーさんったら!とにかくまあ安心しましたよ。普段はまったく見えませんし、私すら気づいてませんでしたからね。でもプレートは貼らないとダメですよ?認証紋で納得するのは私達くらいだけですからね」
『まあそうでしょうね…はあ、わかりました。ただしかっこわるいものだったら足の裏に貼らせますからね』
「もー!お姉ちゃんは直ぐそういうー!」
”女子”達がキャッキャと盛り上がっているが、貼られるのは俺なんだよなあ……。なんだか犬の鑑札みたいでちょっと嫌な気分だが、ナンバープレートという言葉を思い出し自分を納得させる。
いいですよね、ロボにナンバープレート。なんだかリアリティがあってとてもいい。おまわりさんが乗るロボット…いい…。




