第百五十五話 大空は俺達のもの
アズベルトさんからの連絡待ちのため、少々時間が出来た。
この間にやっておきたいことは色々とあるが、まず初めにやるべきなのは飛行訓練だろう。
「飛べるんですよ」なんて得意げに言ったは良いが、あくまでヤタガラスと合体すれば飛べると言うのを知っているだけ。
シャインカイザーとなった「俺」がその身で空を飛んだ経験があるはずもないわけで、俺の練習がてらパイロット達の訓練をしてしまおうというわけだ。
方々に話を通してもらい、さあ飛ぶぞとなった時に飛べなかったら色々問題があるからな。
夕食の際にそれとなく話題に出すと、意外な事に皆ノリノリで承諾してくれた。
シグレはわかるんだが、他のパイロットはもう少し空に抵抗があると思っていたので少々拍子抜けした。
こちらに来てから空を飛ぶ乗り物を見た事はないし、もう少し空を飛ぶという事に畏れを抱くと思ったのだが。
とは言え、誰からも飛行を拒否されなかったのは有難い。
リーンバイルは島国である。
この大陸からリーンバイルまでどれだけの距離があるのかはわからないが、場合によっては丸1日以上飛ぶ事になるだろう。
仮にルナーサから飛び立ったとしよう。
その後リーンバイルまで足元にあるのはひたすらに海である。
怖くなったので降りよう!と言われた所で降りることは出来ないわけだ。
そもそも空を恐れた場合は飛行自体使えなくなってしまうので、本当に皆恐れ知らずで助かった……。
◆◇◇
翌日、朝食後に早速飛行訓練をはじめた。
現在俺は全ての僚機と合体し、真の姿、シャインカイザーになっている。
もう少し感動するかな?と思ったが、ウロボロスと合体した時に完全体と勘違いをして思う存分感動してしまったからな。
背中の違和感がようやく消えたぜ、くらいの感覚だ。
そしてコクピットは賑やかである。
最前中央に座るのはレニー。その後ろにマシューとミシェルが並んで座り、一番奥の席にシグレが乗っている。
4人部屋となったコクピットにはキャアキャアとはしゃぐ声が響いていて、およそロボットのコクピット内とは思えない空気が漂っている。
無論、スミレもその環に混じってキャアキャアしているわけなので、尚更賑やかだ。
「ごほん、では飛行訓練に移ろうと思う。飛行形態は操作系統が独特なんだ。
メインの操作はあくまでもレニーで、手足の輝力制御はマシューとミシェルの役割、これは変わらない。
ただし、空での移動の主役はシグレ、君なんだ」
「私ですか?」
「ああ、レニーが操縦するのは俺本体。シグレは飛行ユニットを操縦することとなる。
つまり、俺をぶら下げたガア助を操作すると思ってくれればいい」
「成る程……」
『シグレ、万が一の時は己が自分で動かせるでござる。
あまり気負わずやってみるといいでござるよ』
「そう言えばカイザー殿や機兵の皆は自分で動けるのだったな。
うむ、なるべく落ちぬようにするが、もしもの時はガア助、頼りにしているぞ」
そう、俺達にはいざという時自分で動けるという最大の武器がある。
パイロットが意識を失っても制御を保つことだって出来る。
なので、ある程度安心して軽いノリで訓練に向かうことが出来るというわけだ。
「では、行くか!レニーは姿勢をそのまま維持してくれ。
シグレはコンソール……操縦桿に手を当てて自分がガア助の羽を使って空を飛ぶイメージ……空を飛ぶ姿を思い浮かべてくれ」
「空を飛ぶ……空を飛ぶ……空を……」
背中に羽から高い音が聞こえてくる。
間もなく反重力ユニットに火が入り、俺の身体がふわりと宙に浮いた。
いつの間にか野次馬に来ていたトレジャーハンター達から歓声が上がり、俺の身体はどんどん上昇していく。
「ひゃあ!森がどんどん小さくなっていくよ」
レニーが興奮気味に声を上げる。
「おっ!向こうに見えるのはグレートフィールドか!てことは……あった!ギルドだ!」
「かなり高くまで上昇できるんですね。まるで本当に鳥になったみたいですわ」
っと、このままじゃこの惑星を飛び出してしまうな。
「よし、シグレ。そろそろ水平移動をしよう。ガア助となって空を飛ぶ姿を思い浮かべるんだ」
「ガア助……ガア助……」
上昇が止まり、空を旋回し始める。
なるほど、こうやって俺達を見張っていたんだなー!
「良いぞ、その調子だ。では次に姿を消してみよう。やり方は同じだ、がんばれ」
「消える、消える……周囲に溶け込む……」
レニーが俺の腕を動かし、カメラの前に持ってくる。
ジワジワとそれが透明になっていくのを見て乙女軍団が盛り上がっている。
「うむ、成功だな。暫くこの状態を維持して森の上空を飛び回ってみよう」
涼しい顔で指示を出しているが、俺も興奮で叫び出したい気分だ。
カイザーとしての記憶というか、感覚があるため、飛ぶという事自体は自転車に乗るくらい当たり前の「飛べて当たり前」という感覚はあるのだが、「人間の俺」としての感覚が空を自在に飛び回っているというこの状況が嬉しくて楽しくて気持ちが良くてたまらない。
ぐるぐると旋回していると神の山が目に入る。
ずいぶんと高度を上げているため、神の山を見下ろす具合になっているわけだが、あそこで目覚めレニーと出会い、ブレストウルフと戦ったんだなあ、なんて感傷に浸ってしまう。
ようやく……夢が叶ったんだな……。
「カイザー、感傷に浸っている場合じゃありませんよ」
「む、どうした?何か問題が起きたか?」
「シグレがグロッキーです。輝力を使いすぎて間もなく意識が……」
「あっ」
『シグレは輝力を使うということが無かったでござる。
今後はその修業もしないといけないでござるなあ……』
ヤタガラスが制御を代わってくれたおかげで墜落をせずに済んだ……。
そうだよなあ、マシューだって最初は輝力切れに悩まされてたんだ。
「あのひでえ訓練の日々を思い出すよな、レニー」
「そうだね……。シグレちゃんなら直ぐコツを掴めそうだけど、訓練はしたほうが良いね」
「面白そうですし、お父様から連絡が来るまでやりましょうか」
「えー……」
マシューは余程アレが堪えたのだろう、一人不満の声を上げていた。




