第百五十三話 中間報告
ウロボロスのシステムとリンクし、アズベルトさんの通信機と接続する。
先程ミシェルが連絡をしていたから無事なのは伝わっているだろうけど他にも色々あるからね。
「カイザーです。連絡が遅れて申し訳ない」
「ああ、構いませんよ。ミシェルからも連絡はありましたしね。
トレジャーハンターの皆さんには申し訳ないことをしてしまって……」
「今は水を得た魚のように調査計画を練ってるようですし、まあそこは……っと、詳しい報告をしますね」
黒騎士戦の一通りの流れとシグレの話を細やかに伝えた。
黒騎士が北から上陸したことを告げると、驚いてはいたが納得をしたように「やはりか」と言っていた。
「帝国軍が何か新しい船を開発しているという情報は掴んでいたんだ。
うちからも、トリバからも見つからず回り込むにはより沖合の航路を使う必要がある。
補給ができないわけだからね、従来の船舶では無理なんだ。
まさかもう実用化されていたとは……」
また、黒騎士が槍ではなく剣を使っていたという話には
「アランドラは本来剣の名手だからね。得意武器を装備してきたってことは君達を警戒してたんじゃないかな」
と、結論づけていた。
その割にはなんだか呑気な登場シーンだったが……。
フォトンライフルが奪われたことについては、まず俺を慰めてくれた後、帝国への警戒を深める事になると言っていた。
あのライフルは他の武器とは違い完全に輝力が抜け落ちている。
なので魔石を使って無理矢理動作させていたようだが、逆に言えばアレには動物を魔獣化させる力は無い。
なので、その辺りについては問題は無いのだが、本来の用途通り武器として調査・研究された場合、帝国に余計な力をつけさせることとなってしまう。
なんとしてでも取り戻す必要があるだろう。
そして話はそのままシグレの報告に移る。
謎多き少女、シグレ。
彼女の正体がリーンバイル王家の末裔であり、今もそこに住まう一族の命により行動している。
この報告を受けた際、アズベルトさんは一番驚いた。
「リーンバイルが存続しているのかい? ミシェルが振る雪月華、あれはリーンバイルから送られたものだという説明はしたよね。
あれはルストニアとリーンバイル両国における悠久の同盟を誓う儀式の際に交換された物らしいんだ。
こちらからは何か特殊な弓が贈られたそうなんだけど、詳しいことは残されて無くてね」
そう言えばそんな事を言っていたな。
リーン刀を見た時はまさかな、と思ったが、シグレやヤタガラスを見ていると異世界お約束の日本めいた国なのかも知れないな。
シグレ達の方言は俺達が理解しやすいように翻訳されているので、厳密には時代劇調の口調をしているわけでは無いのだろうけど。
「なるほど、シグレ殿が使役していたものは魔獣では無く機兵、しかもカイザー殿の僚機であったと……」
「ええ、それでシグレ本人は仲間となって行動すると言ってくれているのですが、一度実家に挨拶に行く必要があるそうで……」
「実家というと、リーンバイルですよね……。
今までも勿論リーンバイルの島に様子を見に行く船はあったのですが、島は複雑な海流や岩礁帯に護られています。
定められたルートを通らないと見当違いの方向に流されてしまったり、座礁してしまったり、酷い時は沈没すらしてしまう魔の海域。
現在はその地図が失われているため、近寄るためには再度の調査が必要となるわけですが、リーンバイルが国を閉ざしてから長い年月が経つうち、気にかけるものもいなくなってその……」
「どうでもよくなったのでほっといたって事ですよね。ざっくりいうと」
「……その通りなのですが、もう少しこう、柔らかい言葉で……」
リーンバイルに行く必要がある、それを聞いたアズベルトさんが何を言いたいか。
内容的には国が関わる話に関係があるため、政治的な色々もあるだろう。
しかし、今一番言いたい事はシンプルに「どうやって海渡るの?」であろう。
例えば船で行く場合。トリバのイーヘイにも立派な港があるらしいが、そこから帝国領沖合を回って行くーというのは相手が相手だけにいただけない。
なので、一度ルナーサに戻ってそこから出港する必要があるわけだ。
しかし、普通の船でも渡るのは難しいのに俺達を乗せてとなると尚更それは難しくなる。
するとシグレはどうやってこちらに来たのだろうという話になるわけだが、仲間は恐らくリーンバイルに今も伝わるルートを元に来ているはずだ。
でも恐らくシグレは別ルートで来ていることだろう。
そしてそれは俺にも使える方法で……。
「アズベルトさん、海路で行くのは難しい、そういうお話ですよね」
「ああ、そういうことになるね。カイザー殿達を乗せていくとなると、シグレ殿からルートを聞いても難しいと思います」
「少々練習が必要になりますが、海路以外の方法、取って置きの方法がありますよ」
「ほう、其れは興味深いが……無茶な方法じゃないよね?」
「空から行きましょう」
「……そら」
「はい、ヤタガラスが仲間になった今、俺達は……飛べます!」




