第百五十一話 ヤタガラス
翌朝、修復を終え再起動したガア助は以前の記憶を取り戻していた。
『いやあ、己としたことがまさかカイザー殿と敵対してしまうとは……ふがいない……』
「そこは気にするな。俺だって記憶を失っていたし、足を撃ち抜いたのはこっちだ。
それにオルトロスとだってやりあったんだからな」
『そうだよー。カイザー強かったねー』
『こっちも負けてなかったけどね~』
「それで、その口調……は置いといて、何時からリーンバイルで世話になっていたんだ?」
『話せば長くなるが……』
と、ヤタガラスが語ってくれた話は概ね納得がいく内容だった。
彼もまた他の僚機と同じく射出された。
しかし、落下した先がまずかった。ドボンとした感覚に周囲を見ればそこは大海原。
どうしたものかと暫くそのまま漂っていたが、やがて防衛モードが起動しスリープ状態に。
「そして眠りから覚め、目を開けてみれば何かの建物の中。周囲に居た人間が驚き己を取り囲んだので『ここはどこ?俺は誰だ?』と尋ねたんだ」
この続きをシグレが引き継いで語った。
「そこに居たのが若き頃の前頭領、つまりは私のお祖父様。神獣の像と祀ってきたものが喋ったものですから、それはもう大騒動ですよ。
それからガア助は神獣として家につき、稀に神託を下しながら父上や母上と友になり、そしてその子供である私ともこうして仲良くしてくれているというわけです」
その他、話してくれた内容から推測すると、どうやらヤタガラスの目覚めは俺の起動……、正確にはスミレの起動に反応したものだったと推測される。
そして本部が無い今、データの遠隔アップロードがされないため俺のもとに向かうことが出来ずに今日までそのまま。
そしてこのカラスモードのままだったのは、OSの故障もあったが、純粋に忘れていただけだったということだ。
「で、俺の僚機であるヤタガラス……いや、ガア助もまた機兵に変形できるぞ」
「本当ですか?よし、ガア助ちょっと……でな……そうだ」
『なるほど、それは良き案でござるな……』
ガア助が変形すると聞いて乙女軍団がわらわらと集まってきた。
先頭にいるのは勿論レニーだ。
「では、いくぞガア助!超変化壱の型!」
『応!壱の型ァ!迅雷!』
なんだかわからんが、謎の掛け声と共に変形動作に突入した。
まさかオリジナルの掛け声を打ち合わせするなんて……やるじゃないか。
そして、変形が終わりスラリとしたロボットが現れる。
身軽な動作とステルス性から忍者と呼ぶのが相応しいその姿。
あるべき所に拾われたと言わざる得ないな。
「おお!ガア助凄いぞこれは!母上の様な素晴らしい影の姿だ!」
『本当でござるか?か、カイザー殿!己の映像をこちらに!』
「俺の記憶より忍者らしい雰囲気がしてるぞ、ほら」
『おおお!確かにタマキの様な影の姿でござるな!おお……これが己……』
「……いやお前、自分の姿覚えてないのか?」
『過去のデータと今あらためて見るのとでは感動が違うではござらんか。
それにやはり、どこか以前とは雰囲気が影に近くなっているというか……』
そういうもんかね。ま、データの欠損も無いようでほっとしたよ。
「……こうして4機並ぶと……壮観ですね……」
感極まったレニーが外からシミジミと言う。
揃った、今度こそ本当に全機揃ったんだなと俺も感極まる。
シャインカイザー最終話のシーンも今でははっきりと思い出せる。
つまり本当に余すところなく失った仲間たちが全て集結したということになる。
4機合体をしてより感動を深めたい気持ちが強いが、今はまずやるべきことを優先させねばな。
◇◆◇
朝食を済ませた俺達はシグレ・ガア助を含めた4機編成で洞窟を目指し移動を始めた。
機兵に乗ったことがないというシグレにガア助形態で移動すると良いと伝えたが、今後のために鍛錬をしたい、無理なら直ぐガア助で飛ぶというのでロボ形態のまま移動を試してもらうことになった。
「……なんでかなあ」
「どうしたレニー?」
「ミシェルやマシューはわかるよ。練習してたわけだからさ。
でもさ、シグレちゃんは違うよね……どうしてかなあ」
シグレが操縦するヤタガラスは危なげ無く見事なバランスで歩いている。
森の中という不安定な場所なのにもかかわらず、転ぶこと無く歩みを進める。
「機兵の訓練はしていなくとも、ああいう仕事をしている以上は肉体的な鍛錬を幼い頃からやってたんだろ。
俺達の操縦は機兵の操縦とは少し違うからな。パイロットの精神力や運動神経も大いに関わってくる。
幼い頃からウロボロスに乗る訓練をしてきたミシェル、トレジャーハンティングで慣らしたマシュー、鍛錬を続けてきたシグレ。
そんなパイロット達に追いついたと考えろ。レニー、お前はなんだかんだで凄いヤツだと俺は思うぞ」
「……カイザーしゃあん……あたしの事をそんな評価してくれてたんでしゅねえ……。
あ、ありゃがとうごじゃます……うう、ぐす……」
「わか、わかったから泣くな!ほら、転ぶから!ちゃんと操縦しろ!」
レニーのいいところ、それは頑張りやさんで努力家であるところ。
なにか目標を見つけたら諦めず、ただひたすらに向かっていく所。
俺はそんな熱血主人公めいたところをとても買っている。
他にも生存本能が高い……というか、運がいいと言うか……。
『レニー、マシュー聞こえるかい?洞窟の反応を拾ったよ。マークしてた反応、全て健在だ』
『動きからするとみんな平気そうね。さ、早く元気な顔を見せてあげましょう』
コクピットにウロボロスの声が流れ込んできた。
どうやらギルドメンバー達は無事らしいな。
「よっしゃあ!ありがとなウロボロス!」
「ジンさん達なら平気だろうって思ったけど…ほっとしたよ」
「さあ、最後まで気を抜かず行きますわよ」
「では殿は私におまかせを!」
そして間もなく俺は新たな仲間と共にジンの元、紅の洞窟に到着した。




