第百四十六話 黒騎士到着まで残り……
ジン達が出発して6時間が経過した。
ウロボロスからの報告で無事森に到達したと聞き、まずはほっと一安心だ。
「まずは第一目標、達成というわけだな」
俺の発言に皆頷くが、表情は固く引き締まっている。
ウロボロスの広範囲レーダー、それはジンたちの様子を伺うため、そして黒騎士を警戒して展開していた。
そしてそれはジン達の反応ではない、怪しげな反応を拾ってしまう。
『なあ、カイザー。これはもしかしてもしかするよね?』
『待ち人来たる、っていう奴かしら?あらやだ、別に待ってなかったわ』
ウロボロスのその発言、それは海からの来客を示すものだった。
その時点でジン達が出発してから4時間。
現在俺が表示できるマップは自分でマッピングしたものと、アズベルトさんから見せてもらったざっくりとした地図のハイブリッドである。
とは言え、そのおかげでまだ見ぬギルド北部の沿岸の地形がざっくりとは言え把握できているわけだが、そこからここまでは平地であっても2時間は余裕でかかる筈だ。
まして、途中にはケルベラックが聳え立っている。
反対側がどうなっているかは分からないが、そう簡単にここまでたどり着くことは出来ないはず。
しかし、安心はできぬと俺達は緊張の時間を過ごすこととなったのだ。
「ウロボロス、目的は今どうなっている?」
『あいつ脚が早いよね。もうケルベラック登ってる』
『しかも結構速いわよ。このペースならあと1時間はあれば来ちゃう』
「1時間……か……」
ここから森まで俺達の脚ならギリギリ届く。
しかし、ギリギリであって確実という訳ではない。
森に入るところを見られたら、ここにライフルがないことに気付いた黒騎士は追ってくるに違いない。
幸い相手の反応は1機、大してこちらは3機だ。
……どうする?
なるべく戦わない、そう決めて出てきたではないか。
1機とは言え未知の機兵、侮るのは危険だ。
「さて……、残り1時間。森に逃げるにはちょっとギリギリだ。
ここで皆の意見を聞いておきたい、どうする?」
「あたしは……、ギルドの皆が危険だと言うなら戦います」
「ああ、あたいもそのつもりだ。今から逃げたら森に行くのがバレるかもしれない。
そしたらじっちゃんや皆が危険な目に遭いかねないよな」
「私は応戦を提言しますわ。もう少し時間があれば私も退避案を支持しましたが……
こうなってしまったら戦ったほうが成功率は高いと思いますわ」
パイロット達の意思は固い……か。
ではロボ達はどうだろう?情報は足りないが一応聞いておこうじゃないか。
『私達はー戦うよーここは私達のおうちだもん』
『うんうん、マシュ~と僕達の大切なおうちさ』
『俺個人としては退避をお勧めしたいところだけどね。
帝国の技術力は侮れない。後発の国だけど技術力は凄いんだよ?』
『そうね、トレジャーハンター達の発掘がそのまま建国に繋がったような国。
それがシュヴァルツヴァルト。そこの特別機よ、油断はできないわ。
でもね、私は戦いたい。ミシェルのお友達で私達の仲間……マシューの大切なものは守りたいわ』
オルトロスは勿論そういうと思ったが、ウロボロスは割れたのか?これは。
確かにあの国は不気味だ。
歴史を見れば建国は一番遅い。
しかし、"うーちゃん"が言うとおり、その技術力は侮れないと聞く。
戦うにしろ、十分な警戒は必要だろう。
「さて、スミレさんはどう思う?」
スミレはじっと腕組みをして皆の意見を聞いていた。
彼女なりにシミュレーション等していたのかもしれない。
「うーん……、わかりませんね」
「わからない」
「ええ、そもそも黒騎士の情報が足りなすぎるのです。
幸いな事に相手は1機。対するこちらは3機ですので……、勝機はあります。
しかし、必ず勝てる、そう確信もできません。
状況からすれば、交戦をし、罠に嵌めて撤退というのが一番生還率が高いのですが、その罠を張る時間はありません」
「つまりは、当たって砕けろということか」
「砕けないでほしいのですが、当たってみるしかありませんね……」
やはり結局こうなってしまうのか。
ならば、今のうちに出来ることをやっておくしかないな。
「皆の意見はわかった。俺達はギルドを護る、それでいこう」
「そうこなくっちゃ!」
嬉しそうなマシューの声が飛び込んでくる。
しかし、忘れてはいけないぞマシュー。
「いいか、改めて作戦の勝利条件を確認するぞ。
一つ、ギルドメンバーの避難。これはほぼ達成出来ていると言っていい。
二つ、ギルドの防衛。これは頑張るしかないな……。
三つ、フォトンライフルの防衛。下手に隠すとギルドを破壊される可能性がある。
よって、不本意ながらわかりやすいところにおいて戦うことにする」
ここまでは事前に取り決めしておいた通りだ。
1は確実に達成しなければいけないもの。
2と3は条件付きで達成しなければ行けない物。
その条件とは、勿論……
「最後に四つ目、全員の生還だ。ギルドとライフルの防衛、これは確かに重要な目標だ。
しかし、誰かの命を犠牲にしてまで達成しなくてはならないとは俺は思わない」
「ああ、ギルドはあたいやオルトロス、じっちゃん達にとっても大切な場所さ。
でも、レニーやミシェル、カイザー達を失ってまで守りたいと言えば違う」
「皆待ってる人いるからね、誰一人欠けてもあたしは悲しいし、悲しませたくないもん。
無理そうならなんとしてでも逃げる、そうするよ!」
「そうですわね。私に何かがあったら戦争が起きちゃいますもの……うふふ……」
ミシェルのそれは冗談なのか本気なのかわからんから怖いが……。
命を大事に、これが今回の作戦の根っこということで意思統一が出来たな。
『っと、お客さんきたぜえ……?君達準備はできてるか?』
『反応1,西から来るわ。北から来なくてよかったわね』
北から来るとギルドの裏山で戦う羽目になったからな。
高低差がある場所での戦いは御免こうむる。
どうやら敵は堂々とグレートフィールドに降り立ってやってくるようだ。
隠密行動じゃなかったのかよ!
「カイザー!敵機、目視できます」
「……黒いな……」
「はい、どことなくカイザーににていますね」
と、聞きなれない声が荒野に響き渡る。
「聞こえてるかあ?トレジャーハンター共ぉ!俺は山賊だあ!
おめーらが隠しているお宝、頂きに来たぜ!」
……変な奴が来てしまった……。




