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第百四十五話 黒騎士のパイロット

黒騎士アランドラサイドの説明回です。

 時は遡りカイザー達がトレジャーハンターギルドに向かっている頃、帝国軍暗黒騎士団所属の若き騎士、アランドラ・ヴェルンは一人船上に立ち大陸を眺めていた。


「ったく、なんで俺がトリバなんて田舎に行かなきゃねえんだよ」


 そう毒づくアランドラを船員が苦笑いをして遠巻きに眺めていた。


「たまには船旅も悪くはないでしょう?」


 そんなアランドラを宥めるのは副操縦士して同行するリリイだ。


「おめえはいいよな?俺の後ろに乗ってぼんやりしてりゃいいんだからよ」


「……別にただ乗ってるわけではないでしょう?計器の情報を読み取り、周囲の変化を伝えることに寄って貴方は有利に戦えるんですから。

 それにこの機兵は二人じゃないと動かせないんですよ?わかってます?」


「へいへい、わーってるよ、せいぜい頼むぜリリイ様よ」



 魔導高速艇、マキャレル。


 横たえた黒騎士団専用機「シュヴァルツ弐型」を運搬するそれは大型の魔導炉を2基搭載することにより通常の船舶を圧倒する速度で海を渡ることが出来る。


 今回の任務で出されたのはアランドラのみ。

 これは正式な手続きを踏まず、トリバに密入国する事になるため艦隊を組むわけには行かないというのもあるのだが、何より単騎の方が身軽に行動出来ると言う理由が大きい。


 上陸するのはトリバ北西の岬で、未開拓地域である。

 稀にハンターが探索に来る程度で、トリバ防衛軍が哨戒に来ることは無い。


 大陸北部の旧ボルツ領は今だ最開拓されていない荒れ地で、其れより北にはどの国にも属さぬ小さな村がぽつりとあるくらい。


 トリバとの国交が無く、仮想敵国として見ている帝国を警戒する場合は大陸南部の沿岸を哨戒していれば良い、トリバの軍部はそう判断していた。


 それには理由がある。


 機兵中心の文化が発達した現代において、それが不利となる海上の移動は想定されていない。

 沿岸沿いに補給をしながらの移動であれば機兵の運搬も現実的ではあるが、陸から見えぬほど距離を取った沖合の移動はトリバの技術からすると自殺行為に等しい行為として考えられている。


 それは逆回りでも同じ事で、どちらにせよ補給の問題があるため海路を使って秘密裏に密入国する事は不可能であるとトリバの軍部は判断していた。


 しかし。


 マキャレルであればそれは可能だった。

 沿岸部での水不足解消のため作られた浄水の魔導具。

 それは海水を飲料水に浄化する力を持ち、マキャレルにも搭載されている。


 そして、何より無補給を実現する要が所謂フリーズドライ食品であった。

 誰が開発したのか、どうやって作るのか、それは機密扱いで非公開となっているが、糧食自体は帝国軍で広く普及している。


 傷まず、かさばらず、お湯や水で簡単に戻すことが出来る其れのおかげで今回の極秘任務は実行に移せると言っても良いだろう。


 現在マキャレルは上陸ポイントまであと数日という場所まで来ていた。

 アランドラは改めて今回の作戦について考える。


(目標は遺物の回収、だったな。そんなのトレジャーハンター共にやらせりゃいいじゃねえかよ。

 そもそもそいつがある場所っつーのもトレジャーハンターギルドなんだろ?

 ギルド同士で話をつけりゃいいだろ……)


 アランドラは知らなかった。

 何故、わざわざ自分が派兵されたのかを。


 トレジャーハンターギルドを落とすだけであればわざわざ黒騎士を出す必要は無かった。

 上層部はマシューの存在を危惧していたのだ。


 トレジャーハンターギルドの頭領で有り、謎の機兵に乗るマシュー。

 そしてその頭領はカイザーなる機兵と、ウロボロスなる機兵に乗るパイロットとパーティーを組んでいる。


 シグレから送られていた報告を受け、ブレイブシャインが遺物を追ってルナーサをトリバに向かって移動している事は軍部に伝わっていた。


 奴らは何かに気づき、遺物を調べている。

 そして、トリバのトレジャーハンターギルドにも其れが有ることを知らない筈は無い。

 

 であれば、万が一と言うことも考えられた。


 ブレイブシャインが運悪くギルドに戻ってきていた場合、量産機では歯が立たないかも知れない。

 しかし、黒騎士であれば単騎でも撃破は可能で有ろう。


 シグレからの情報である程度ブレイブシャインの戦力を分析している軍部は判断したのだ。


 アランドラは17歳という若さで黒騎士に抜擢された。

 

 かつてヘビラド半島にトド型の魔獣、トゥーヴァルガンが上陸したことがあった。

 漁村からの連絡を受け、派兵された小隊はその大きさに驚くこととなった。


 体長20m、あまりにも巨大なその魔獣は村で破壊の限りを尽くしており、駆けつけた小隊もまた、次々に倒れていった。


 そんな中、若干14歳のアランドラ少年は最後まで諦めること無く立ち向かい、類い希な剣技で其れを討伐することに成功した。


 海獣殺し、それがアランドラにつけられた異名である。


 その後もアランドラは数々の魔獣を屠り、その名を上げていく。

 が、騎士団において彼は浮いた存在であった。

 

 チームワークなど考えないアランドラは味方の命など考えず、敵を倒すことだけを考え行動する。

 時には僚機毎魔獣を斬ることさえあった。


「勝てばよかろう」


 それがアランドラの口癖である。

 味方は減れば補充をすればいい。

 しかし、勝負に負けることは許されない。

 

 上官の命令に背くことは多く、しばしば処罰を受けてはいたが戦歴だけは立派なため、厳しい処分を受けることはなかった。


 そんな扱いをされているため、ますますアランドラは調子に乗り、昇進こそは出来るわけがなかったが、気ままに魔獣との喧嘩を楽しんでいた。


 そんなアランドラに目をつけたのが黒騎士団団長、ジルコニスタ・ヴェンドランである。

 

「飼い主の手を噛むくらいが猟犬には丁度いい」

 

 ジルコニスタは皇太子にそう進言し、彼がジルコニスタと共に計画を進めていた黒騎士団に入団することとなった。


 最初こそ面倒くさそうにしていたアランドラだったが、強者揃いの黒騎士団での訓練は歯ごたえがあり、戦闘狂のアランドラにとって天国同然。


 また、黒騎士にまで回ってくる任務はどれもが強敵揃いで仕事が与えられる度、胸を躍らせていた。



(なんでまた……俺がゴミみてえなトレジャーハンター共を狩りに行かなきゃねえんだよ……。

 久々の対人任務だと聞いて喜んで受けてみりゃこれだもんな。

 はあ、さっさと片付けて帰るとするか……)


 くそ、くそ!と船の壁を蹴ってモヤモヤを発散させるアランドラ。


 そんなアランドラを溜息一つ付いて見つめているのがリリイ。

 24歳の彼女はアランドラのお目付け役であり、パートナーだ。


 黒騎士団専用機シュヴァルツは旧機兵時代の技術を応用して作られた機兵であり、それを動作させるにはパイロット自身の魔力が必要となる。


 カイザー達同様の仕組みで輝力の代わりに魔力を使用して動かすわけであり、エーテリンの補給が要らない夢のような機兵であったが、勿論それにも欠点はある。


 パイロットが持つ魔力量だ。


 魔力量には個人差が有り、それが少ないものはいくら技術が優れていたとしても長時間の起動は不可能である。


 そして、その魔力量に恵まれていないのがアランドラであり、恵まれているのがリリイ。

 

 入団後、魔力量が多くはないことが判明したアランドラは長時間の戦闘が出来なくなり、悔しい思いをすることが多かった。


 しかし、間もなく新造されたシュヴァルツ弐型は複座であった。

 ある意味アランドラ専用機とも言えるシュバルツ弐型は魔力量が乏しいパイロットを補うべく、副操縦士から魔力を得る設計となり、その座には当時通信士として働いていたリリイが抜擢されたのだ。


 二人三脚の操縦に最初こそは苦戦したが、今では黒騎士団の中でもかなりの戦力になっている。


「おい、リリイ!わかってんだろな?着いたら即出発するからな!

 ボヤボヤしてたら俺一人でいくからな?」


(まったく、私が居なけりゃまともに動かせないくせに。

 生意気なやつですよ、バチが当たればいいのに)


「はいはい、わかってますよー」


 

 ―そして三日後、船は上陸地点に到着した。

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