第百四十四話 撤収
一通り説明を聞いたギルドメンバー達は複雑な表情をしていた。
何か言いたそうに口を開きかけるが、ジンの様子を見て口を閉ざす。
先ずはジンがどういう反応をするのか、それを待っているのだろう。
ジンは腕組みをして唸っていたが、こちらに歩いてきて俺を見上げる。
じっと俺の顔を見つめていたが、何か決心したかのような顔をして
「色々と納得できねえ、できねえが……俺もお前さんの作戦に賛成だ」
その声を聞いたギルドメンバー達が堰を切ったかのように口を開く。
「おいおい、頭領そりゃねえよ」
「マシューや嬢ちゃんたちだけでどうするってんだ!」
「いくら強い機兵があるつってもよお!俺達だって居るんだぞ!」
「頭領!俺達にも戦わせてくれよ!」
「うるせえ!」
怒気が篭ったジンの一括に静寂が戻る。
「おめえらはちゃんと話を聞いていたのか?カイザーだって別に戦おうっちゃ言ってねえ。
最大の目標は俺達ギルドメンバーの脱出、そしてそこに転がってる鉄砲の回収だ。
俺だってむざむざここを放棄して避難なんてこたあしたくねえ」
ぎゅっと拳を握りしめ、ジンは話を続ける。
「だがよ、帝国から黒騎士が出張ってくるんだ、黒騎士だぞ?俺達の機兵なんざそこらのゴミクズ同然だ。
そうなりゃどうなる?足手まといがいたらどうなるよ?マシューや嬢ちゃん達の負担になるだろうがよ。
無事に逃げられたらそれでいいじゃねえか、ほとぼりが冷めたらまた戻ってこれるんだ。
今はカイザー達の言うとおりおとなしく避難しようじゃねえか、なあ…」
「……すまねえ頭領……カイザー達も……」
「そうだよな……、俺達じゃ何も……」
ジンの言葉に冷静になったのかギルドメンバー達がシュンとして口々に詫びの言葉を言ってくる。
勘弁してくれ、そんなのらしくない。
「頭を上げてくれ。こうなったのもある意味は俺のせいだ。
だから俺が君達を助けるのは当然のことだし、ギルドはマシューの家なんだ。
手を貸すのは当たり前だろ」
ギルドメンバー達を見渡してさらに言葉を続ける。
「それに、こんな事が無くたって紅き尻尾に依頼を頼みに来る予定だったんだ」
「依頼だあ?一体何をさせるつもりだったんだ?」
「どうやらそこに転がってるやつと同様、俺の武器があちこちに散らばってるのは間違いないようなんだ。
俺の武器は言わば遺物みたいなもんだ、君達の得意分野だろ。
だから君達は無事にここから避難をして、無事に拠点ができたら俺達の武器を探して欲しい」
「拠点については当家の洞窟を使って下さいな。
お父様から許可は得ていますし、遠慮なく使ってくださいな」
おお、ミシェルナイスアシスト。
いつの間にそんなやり取りをしていたんだ?
ミシェルがジンに洞窟への地図を渡す。
「おいおい、ここって悔みの洞窟じゃねえか」
「入ったら悔やむようにご先祖様が仕掛けをしておきましたの。
中には既に何も……いえ、遺物が一人眠っていますが、それはそっとしておいていただければ何も起きませんわ」
「眠ってる遺物ってよ……まあいい、わかった!取り敢えずそこを目指そう。
ようし、おめえら!荷物まとめろ!ずらかるぞ!」
「そんなこと言ってるとほんとに盗賊みたいじゃないっすかー」
「ちげえねえ」
「「わっはっはっはっは」」
「うるせえ!さっさと荷物まとめろ!後はオルトロスが積んでくれるからよ!」
「「うっす!」」
ジンの一声でギルドメンバー達が再び散り、荷物整理に向かっていった。
問題は外に出ているメンバー。
取り敢えず今いるジン達には用意ができ次第先に出発してもらう。
これは万が一避難中に黒騎士と遭遇してもジン達だけであれば戦闘になることはないと踏んだからだ。
奴らの目的はあくまでも俺の武器。
そして、それを手に入れる鍵となる俺という存在。
恐らくはここでライフルを手に入れたらそのまま俺を鹵獲に向かったはずだ。
そんな俺がここに居ればどうなるか?喜んでこちらに向かってくるだろう。
ならば安全圏までジン達と別行動を取る、というのが正しい選択というわけだ。
王家の森に入ってしまえば他のハンターの目に触れやすくなるし、こっちのもんだ。
「と、今のうちにフォトンライフルを試しておくか」
「おっ、そういやいよいよアレを普通に使える時がきたってわけか」
「そうだそうだ、あれカイザーさんやオルトロスだとだめなんだよね」
「前に言っていたウロボロスの武器…ですわね」
「ああ、ウロボロスを僚機だと疑った時からずっとこの時を待っていたんだ」
『通りで必死だったわけだ。まったく困ったカイザーだなあ』
『でもしょうがないわよ。使える武器があるのに使えるロボが居なかったんだから』
「そうだぞ。俺やスミレがどんなに悔しかったことか。なあ、スミレ」
「いえ、私はそこまでは……」
「スミレ……」
というわけで、さっそくウロボロスに装備をしてもらう。
フォトンライフルがあれば対黒騎士戦に突入したとしても良い戦力になってくれるはずだ。
威力は既にお墨付き。
従来の運用方法では手間や危険がつきまとっていたが、正規の方法ならそんなことはない。
『じゃ、接続するよ……ケーブルを出してっと……』
『……ん?あらあ?ちょっとなによこれ入らないじゃないの』
「はあ?そんなバカな」
『いやいや、ほんとなんだよこれだめだ違うよ』
『カイザーのと違って私達のは専用端子なんだから…無茶させないでよね』
「そんな……まさか……。スミレ、どういうことかわかるかい?」
「うーん、どういうことでしょう…?ジンが弄ったことにより端子が変形してしまったとか……」
「みんなの端子は違うと言っても微妙に違う程度だからな。
歪みが発生すると上手く刺さらなくなるかもしれないな……」
前世でPCのCPUを換装しようとしてやらかしてしまったことを思い出して嫌な気分になる。
あれちょっとやらかしただけでピンが曲がって面倒な思いをするんだよね……。
「しょうがない、時間もないし後で修理を試すことにしよう」
フォトンライフルをロックし、バックパックに収納する。
……あれ?
アラートと共にエラー表示が現れバックパックに収納することが出来ない。
おいおい、嘘だろ?今度はバックパックがぶっ壊れたのか?
試しにジンが作ったフォトンライフルの外部操作パーツをロックし、収納を試す。
「あれ、入るな」
しかし、フォトンライフルをしまおうとすると入らない。
「ううん、スミレ先生、これは一体」
「誰が先生ですか……。いやしかしこれは私もわかりませんよ。
何か……制限がかかっているような感じはしますが」
「制限?それは一体」
「本部から許可が降りず武器が使えない状況のような、というか。
現在本部が存在しないため、そのシークエンスはスルー出来るはずなんですが……」
うむ、わからん!
やっぱり壊れているんだろう。
洞窟に付いたら修理出来ないか試してみよう。
「おーいカイザー、みんな準備できたってよー」
パタパタと駆けてくるレニーと、オルトロスからこちらを呼ぶマシューが見える。
ミシェルはバックパックから食料を取り出してギルドメンバー達に配っているようだな。
「そいじゃ、俺達は先に行くぜ。カイザー、マシューを頼んだぞ」
「ああ、直ぐに追いつくから安心して逃げてくれ」
「へん、逃げるんじゃねえよ、休暇だよ休暇」
「ったく、口が減らないじっちゃんだな!ま、あたい達に任せてさっさと逃げな!」
「口が減らねえのはどっちだよ……ま、無茶すんなよマシュー。
よっしゃ、おう、おめえら行くぞ!ぼやぼやしてたら置いてくからな!」
「「「うっす!!!」」」
メンバー達が揃ってこちらに礼をして森を目指して去っていった。
前に俺達が置いてきた素材で作ったのだろう、戦闘にも耐えうる機兵が何機か増えていた。
あの分なら森の街道も安全に抜けられることだろう。
「俺達はこのままここで待機。6時間後、ここを発ち紅き尻尾を追う予定だが、気を抜くなよ」
「いつでも出られるよう、カイザーさんに乗ってるよ」
「うん、あたいも今日はオルトロスから降りねえ」
「ウロボロス、索敵頼みましたわよ」
用意は出来た。
時間がきたらフォトンライフルを担いで去るのみだ。




