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第百四十三話 早めの里帰り

 翌朝、日が昇って間も無く俺たちはフォレムを経った。

 工房の門には珍しくリックがアルバートと共に見送りに立っていて、レニーが雨でも降るのではないかと驚いていた。


 二人を見つめ、(任せてくれ)と頷くと、二人もまた(任せたぞ)と力強く頷き返してくれた。

 

 こうやって送り出し、待っている人達が居る。

 それだけで俺達にやる気が満ちあふれてくる。



 今回もまた、初めてトレジャーハンターギルドに向かった時と同様、森を横断する強行ルートを取る。


 街道ルートを通らないのは時間短縮という理由もあるが、万が一を考えてのことだ。

アズベルトさんの見立てでは黒騎士が到着するにはまだ余裕がある。

奴は船に乗り大陸を大回りして裏からやってくるわけだ。


 シグレから話を聞いた時点で既に出港していたとしても現時点で3日ほど余裕が残されている。

 しかし、それはあくまでも通常の方法で移動していた場合だ。


 話に聞いただけの情報しかないが、黒騎士という強力な機兵を持ち、俺の武器での変異にたどり着いたその国力は侮るわけには行かない。

 

 アズベルトさん達も知らない移動方法を持っている可能性もあるのだ。

 

 ここまで最低限の宿を取りつつ、多少ノンビリに見える行程を取ってきたのはパイロットのコンディションを考えてのもの。


 俺としてもかなり悩んだが、相手の戦力がはっきりしない以上、これは最善だったと言える。



 さて、万が一と言うのは既に上陸していた場合の話だ。

 森を抜けるルートを通る場合、ギルドに繋がる街道をショートカットしてグレートフィールドの端に出る。

 その直前でウロボロスの広範囲レーダーを使えばギルド周辺がすっぽりと索敵範囲に入り、敵が来ていればそれなりの手を打てるというわけだ。


 街道ルートで行った場合、ギルド北部の海側、つまり大狼の山(ケルベラック)が索敵範囲から外れるため都合が悪いのだ。



「レニー、随分上達したな」


「へへーん、でしょう?あれから経験を積んだからね!

 私だっていつまでも間抜けなレニーのままじゃないよ!」


「そう言えば、ギルドに来る途中、森で何度も転んだって言ってたっけ」

「まったくレニーさんらしいですわね、うふふ」


「だから!もうころばなっうわあああああ」


「調子に乗るからだ……。ほら、もう転んでる余裕は無いぞ。

 前みたいに怪しげな男じゃない、シグレのくれた情報なんだ。

 行けば何かが起こるのはほぼ間違い無いだろ?さあ、急ぐぞ」


「うん!もう転ばないよ!」


 そういう事では無くてだな……と思ったが、やる気があるのはいいことだ。

 変に水を差さずだまっておこう。


 ◆◇◆

 

 その後レニーが転ぶことは無かった。

 以前のように転びまくって10時間かかるようなことは無く、予定より早めに森の終点に到着した。

 砦……ではなく、ギルドの方角から何か不味い物が見えると言うことは無く、目視でわかる範囲は以前と変わらぬ平和そのもの。


 しかし、念には念を入れてウロボロスに索敵をお願いする。


『広範囲レーダー起動……うん、怪しい反応は無いな』

『ギルド内に機影が見えるけど、これは大丈夫な奴?』


 ウロボロスがオルトロスに映像を回しマシューに確認を取らせる。」


「うーん、そうだな。位置的に仲間のものだと思う。

 ちっこい点は人だろ?ほら、このチョロチョロしてるの見習いのマンジだわ」


 いつも通り、というわけか。

 なんとか黒騎士を出し抜くことが出来たというわけだな。

 

「よし、ギルドに急行して避難指示を出すぞ!」


「「「おー!」」」


 到着した俺達を出迎えたのはびっくりした顔をした懐かしき顔達。

 何人かは発掘に出ているらしいが、半分以上がギルドに残っていた。


「その機兵、マシューか?もう戻ってきやがったのか!」


 オルトロスの足下にやってきたジンが口調だけは不機嫌そうに言いながら蹴りを入れている。


 それにはコクピットハッチをひらいたマシューがこれまた口調だけ不機嫌そうに答える。


「ああ、しょうが無く戻ってきてやったよ!じっちゃんの顔にゃまだ飽き飽きしてんだけどね!」


「この野郎が!相変わらず口が減らねえ頭領だ」

「何言ってんだよ、あたいが居ない間はじっちゃんが頭領代理だろ!

 ほら、代理!人を集めてくるんだよ!働け働け!」


「ったく、偉そうに。まあいい、おいマンジ、皆を呼んでこい」

「ウス!」


 マンジと呼ばれていた見習いの少年を使いに出したジンは改めて俺達を眺めている。

 

「へえ、もう一機居たのか、同じようなのがよ」

「ああ、ウロボロスだ。パイロットは……」


 ウロボロスの方を見ると、ハッチを開けてミシェルが顔を出す。


「始めまして、私はミシェル・ルン・ルストニア。

 ルナーサの大店長、アズベルトの娘でウロボロスのパイロットですの。

 よろしくお願いしますわ、ジン様」


「おいおい、マシューはなんて大物を連れてきやがったんだ?

 ルナーサのお嬢様じゃねえか。いやはや、俺達もたまに世話になってるよ。

 あと、ジン様はやめてくれ、ジジイとでも呼んでくれや」


「それは流石に……ではジンさん、改めましてよろしくお願いしますね」


「ああ、それでいいや。で、おめえさんも喋れるんだろ?

 今更だぞ、自己紹介くらいしろってんだ」


『……まったく強烈な爺さんだな……。俺はウロボロス。

 ご覧の通りミシェルの愛機でカイザーの僚機さ』


『そして私もウロボロス。オルトロスのこと知ってるなら理解が早そうね。

 私達も二人で一人、二人一組の機兵なの』


「へっ、ほら見ろやっぱり変な機兵じゃねえか。

 マシューが世話かけてるな、ありがとうよ、お嬢ちゃん、ウロボロス」


 既に事情を知ってるというのもあるが、こうして驚かずに受け入れるのはちょっとびっくりするよな。

 其れを言ったらリックもそうなんだけど、噂が広まってこれが普通になってくれたら嬉しいなあ。


「っと、俺達が戻ってきたのはマシューの里帰りというわけじゃあないんだ」


「だろうよ、そろそろ来る頃だろうとは思ってたがそんな様子じゃねえからな。

 なんだ?ここにまた何かが起きるのか?」


 ジンの表情が真剣なものに変わる。


 丁度ギルドに残っていたトレジャーハンター達が揃ったようだし、そろそろ話を始めよう。


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