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第百四十一話 パインウィード再び

 レニーのインカム越しにマシューの声が聞こえる。

 やれやれどうやらオルトロスとウロボロスがザックの元に着いたようだ。


 造形師のザックがスミレを見たらどうなるか。

 それは火を見るより明らかである。


 それなのにスミレはらしくもなく、のうのうとレニーに同行しザックに捕獲されてしまった。


 今日は休息日とはいえ、それなりに急ぐ旅だと言うことを忘れちゃだめだぞ。


 どうやら今日のところは30分ずつ2体のデッサンをすると言うことで話はついたようだ。


 まあザックのところに置いといても誰彼が好き勝手に乗り込むなんてことはできないし、今や端末経由でバックパックに物資を転送できるから補給に支障が出ることもない。


 ここまで強行軍で来たんだ、多少ならこう言うイベントにも目を瞑るとしよう。


 一番の当事者であるマシューが気を病みすぎても良くないしね。


◆◇◆


「いやあ!まさかお仲間の機体もかけるなんて!」


 レニー達が買い物から戻ってもまだザックは一生懸命筆を動かしていた。

 レニーがのぞき込んでくれたのでスケッチブックがよく見えた。

 2機のロボを前から後ろから横から。

 重要なパーツは丁寧に、俺と似ているパーツは大体に、そんな具合に書いているようだ。

 

「さっきの人形の作者、本当に分らないのかー?」

「良いから今は筆を動かして!ほらほら、時間が無いよ!」

「うおお、もうちょっと!もうちょっとだから!」

「……残念ながら時間ですわね。続きはまた今度ということで」


 今回は時間に余裕がない、と言うことで、時間になるとミシェルがピシャリと終了を告げていた。


「ええ~?そ、そんなあ……うう……わかった……」


 ザックは少し残念そうにしていたが、それでも得るものはあったと感謝を述べていた。


 そして前回の礼として約束どうり俺のフィギュアがレニーに渡されたようだ。

 完全変形は流石に無理だったようで、ロボ形態と馬形態とそれぞれ作ってくれたようだ。


 俺のフィギュアをベースに食事可能な義体を……なんてちょっと思ったけど、帰ってきたレニーが大切そうにしているのを見て諦めることにした。

 

 ……冷静に考えれば自分のフィギュアを魔改造とかちょっとアレだしな。


 この件が終わって余裕ができたらザックと相談して見るのも良いだろうな。

 無論、その時はレニー経由では無くて俺からだ。

 徐々にでは有るが、俺の正体……、「喋る機兵」と言うことが広まりつつある。

 次に来た時にはザックに打ち明けて、共に熱いロボトークでもしてみたいものだ。


◆◇◆


 その後も俺達は変わらぬペースで移動を続けた。

 フロッガイで大量に買い込んだおかげでリバウッドでは時間に余裕が出来、じっくりと身体を休めることが出来た。


 ギルドに顔を出したレニー達を待っていたのは満面の笑顔のナナイさん。

 北の街道の開通を心待ちにして居た商人は少なくは無かったそうで、改めてお礼を言われた。

 

「ほんっと、ブレイブシャインの皆様にはなんとお礼を言って良いかわかりませんわ。

 あ、パインウィードの支部長にはきちっとお話しをしておきましたので、お立ち寄りの際は是非ギルドにも顔を出してあげて下さいね。

 きっとあの子も喜ぶはずですので」


 ……笑顔が少し怖い。


「パインウィードでは一泊する予定だから顔を出す予定ですよー。

 あれから村がどうなったか気になりますしね-」


「そうですかそうですか、あ!それと……ってパインウィード寄るんですよね?

 じゃあ、まあいっか」


 ……何かまた面倒な事でもおきてるのかな?

 だとしてもちょっと今は余裕が無いぞ……。


 ギルドの帰りに屋台に寄ったらしい乙女軍団が満足そうな顔で帰ってきた。

 オンオフがしっかりと出来ているというかなんというか……。

 大物なんだろうな、この子達は。



◆◇◆


 そしてリバウッドを出てから一昼夜。

 俺達はとうとうパインウィードまで戻ってきた。

 

 村はすっかり見違えていて、沢山の商人が屋台を出して賑わっていた。

 よく見れば村の屋台も出ていて、名物である鹿肉の串焼きやシチューが売られている。


「あ!カイザーさんだ!おおい!みんなー!ブレイブシャインが戻ってきたぞお!」


 俺達の姿に気づいた若者が大きな声で周りに声をかけている。


 商人達はなんだなんだという顔をして居たが、ヒッグ・ギッガの件を聞かされて成程と頷いている。

 たちまち俺達は村人達に囲まれて歓迎を受けることになった。


「随分と見違えたな、驚いたよ」


「へへ、そうだろう?これが本来のパインウィードの姿さ。

 それもこれもブレイブシャインのおかげだぜ、なあ皆!」


「そうだそうだ!」

「マシュー親分ー!俺だー!」

「レニー!飲めるようになったかー!」

「ミシェルー結婚してくれー!」


 皆口々に好きなことを叫んで盛り上がっている。

 乙女軍団達は微妙な顔で手を降ってそれに答えている。


「折角だから何日か泊まっていきませんか?

 皆あんた達が帰ってくるのを待ってたんだよ」


「ありがたい申し出だが、ちょっと急ぐ旅でな。

 折角だから今夜は一泊していくが、明日の朝にはもう出発する予定だ」


「そうかあ、カイザーさん達だからなあ、またすげえ事やってんだろ?

 じゃあ仕方ねえや!その代わり今日はめいいっぱいお礼をさせてくれ!」


 気づけばマシュー達は既に宿屋前にそれぞれの搭乗機を停め、村人と話を始めていた。


「おっとすまんレニー、俺達も行こうか」


「いやあ、なんだかびっくりしちゃって固まってましたよ。

 こんなに熱烈な歓迎を受けるなんて思ってなかったし」


「それだけの事をしたってことだろ、こう言うときは素直に喜んでおくと良い。

 その方が相手も喜んでくれるからな」


「ふふ、そうですね。じゃ、カイザーさん行ってきますね」

「ああ、楽しんでこい」


 ここからフォレムまでの距離はそこまで遠くない。

 場合によっては軽く挨拶をしてそのままフォレムに向かう予定だったが、これでは仕方ないよな。


 スミレはいつの間にかコクピットから降りて普通に飲み食いに参加している。

 村人達は事情を聞けば納得するだろうけど、商人達はびっくりするだろうな……。

 

 しかし、ほんと見違えたな。


 戦いのために作った砦は予定通り村を護る外壁として使われている。

 俺達が作った物にさらに手が加えられ、かなり範囲が広がっていて、安全になったおかげか、壁に近い所には畑が作られていた。


 その周辺には新たに何件か家が建てられていて、もしかしたら騒動前より村の人口が増えたのかも知れないな。

 

 そんな事を考えていると、ギルド係員のスーがこちらにやってきた。


「カイザーさん、その節はお世話になりました」

「おお、久しぶりだね、スー。元気そうで何よりだ」


「ええ、おかげさまで。いやあ、あの後ナナイ先輩……いえ、リバウッドの職員から怒られちゃいましてね……あはは」


 ピコピコと動かしていた耳がしょんぼりとたれ、尻尾もへにゃりと地に垂れた。

 マシューもそうだが、獣人族は耳や尻尾に感情が表れて可愛らしいな。


「そう言えば、何だか親しそうに話していたけど後輩だったんだな。

 先輩より出世して凄いじゃ無いか」


「いえいえ!支部長というのは名前だけですからね?別にギルマスに近い存在ってわけじゃないし。

 ただ単に村の駐在員みたいなもんですよ。小規模なギルドはマスターの代わりに職員を兼ねた支部長がつくことになっているだけですから……」


「なるほどな、そうやって実績を積んでマスターを目指すってわけか」


「その他にハンターとしての経験も必要ですけどねー。

 私がギルマスになるなんて何百年かかることか……。

 っと、世間話もしたい所ですが、お知らせがあるんですよ」


 来たか、リバウッドの職員が言いかけて辞めた話だな。

 パインウィードには思い入れがあるが、今は優先すべき事がある。

 何が来ても断らないと……。


「む、なんだ?こう見えて俺達は今ちょっと忙しい。依頼は受けられないぞ」


「恩人にそんな無茶な事は言いませんよ。と言うか良いお知らせです。

 ブレイブシャインがルナーサで面白いことをして居る、というのはバレバレなのです」


「なに!何処まで知っているんだ?」


 驚いた。

 一応、国の代表から直に受けた極秘依頼のような物だったはずだ。

 漏れるような行動は取っていないはずだが、まさかトリバの諜報部隊?

 シグレのような存在がトリバにも居て俺達を監視していたとでもいうのか?


「おわっと、急に動かないで下さい!潰れますって!

 いやほら、ルナーサの大店長、アズベルト氏から本部のギルマスに連絡がありましてね。

 ブレイブシャインがルナーサで発生している事態の収拾に貢献していること、現在もその依頼のため動いていること、それらが各ギルドに共有されたわけです」


 そう言えば念のためトリバの大統領に話を通して置いてくれと頼んで置いたんだったな。

 アルベルトさんの言い振りからすると何やら親しそうだったが、そこからなぜギルドまで情報が降りてくるのだろう。


「なんでまたトリバのギルマスにそんな話が来るんだ?」


「もしかしてカイザーさんはご存じないのですか?トリバの大統領、レインズ・ヴィルハート氏はハンターズギルド本部のギルマスなんですよ」


「合点がいった……。成程な、トリバらしいと言えばらしいな」


「それで、今後の任務で必要になるはずとのことで、余裕が出来たら最寄りのギルドに行って手続きをして下さい」


「手続きってなんの手続きだ?」


2級(セカンド)昇級手続きです。今日できれば良かったんですが、次のポイントでの任務が終わったら、という事でしたので、フォレムか何処かでその手続きをすることになりますね。

 はあ、本当は私がやりたかったんですけど、お達しなので仕方ないです……」


「そうか、報告ありがとうな。何処まで知ってるかわからんが、これから辛い任務が待っているんだ。

 この報告はパイロット達への良い燃料になると思う」


「そう言って頂けると嬉しいです。お暇になったら是非また来て下さいね。

 そして今度はスミレさんのように一緒にご飯を食べられるようになってると嬉しいです」


「……それは俺もほんとそう思うよ……」


「あ、ちなみにこの件を知っているのは各地のギルマスとギルドの重役だけですから。

 こんなキナ臭いネタは広めるわけには行きませんからね」


「それを聞いて安心した。配慮感謝する」


「こちらこそ。では、頑張って下さいね!応援してますよ!」


 ぺこりとお辞儀をしてスーがレニー達の所に駆けていった。

 昇格の件をパイロット達にも説明するのだろうな。


 リバウッドの職員はスーにこの役目を譲ったというわけか。

 自分で言うのもなんだが、恩人である俺達に自分から報告をしたかったに違いない。

 それを「ああ、リバウッドで聞いたわ」と言ってしまったら可愛そうだからな……。

 後輩思いの良い先輩だな。


 2級(セカンド)昇級が例の依頼にどのように絡むのか、実は多少の嫌な予感……というか、面倒な事になる予感がするのだが、今は素直に喜んでおくことにするか。


 

 加筆修正の結果倍くらいの長さになってしまいました……

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