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第百三十九話 鴉の恩返し

 鳥魔獣を従えるテイマー、それはレニー達と出会った異国の少女シグレだった。


 お約束展開か、と言う感想がほんのり芽生えたが、重く沈んだパイロット達を見るととてもそんな事を考えてはいられない。


 しかし、シグレとは今後も出会うことがあるかも知れない。

 彼女との付き合い方をどうするのか、これは俺が判断することではない。

 親交を深め、他人では無くなった彼女らの判断に任せることにしたい。


 まずは話し出す切っ掛けを投げてやるとしよう。


「例のテイマー、シグレと言ったか。詳しい情報を教えてくれないか?」


 ビクッとレニーが反応する。

 恐れているのだろう、彼女を敵として扱う、殺さないまでも拘束し、アルベルトに引き渡し尋問させることを。


 だが、今したいのはそう言う話ではないのだ。


「あー……すまん。変な意味では無いんだ。敵としてのシグレでは無く、君達の友達としてのシグレの話をして欲しい」


「……インカムであたい達の話を聞いてたんじゃ無いのか?」


「任務に関わる時はそうだが、流石に休暇中まで聞き耳を立ててはいないさ」


 たまに様子を見るためにちょっぴり聞くことはあるけどね。


「シグレちゃんは……、ルナーサの東から来たって言ってた。

 詳しい話をしなかったから、フォレムに向かうハンターかなって思ったんだけどね……」


「一緒に屋台を回って色々食べましたわね……。何を食べても美味しい、美味しいって」


「ああ、あたいもびっくりの食欲だったな」


「そして、必ずお礼を言ってくれたんだよね。ありがとうって」


「シグレは迷子だったんだよな。申し訳ないがその辺はまだこちらに音声が流れてたんだ」


「そうそう、なんだっけ、梟の巣?とかいう宿を探してるって言っててさ、あたしの顔を見てびっくりした顔してたけど……ああ、そっか。その時点で気づいたんだ」


「今まで何度か出会ってたのですもの、当然レニーを見て直ぐに気づいたでしょうね」


「でもよ、こちらに探りを入れるとか、罠を仕掛けるとかそんな事はしなかったよな」


「うん、なんだか普通に……、ほんと普通に街を楽しんで、ちょっぴりお話をしてくれてた」


「宿まで送り届けたら何度も何度もお礼を言ってさ、……変な奴だよな」


 恐らくはその宿も重要拠点なのではなかろうか。

 そんな所に敵対しているレニー達を連れて行く。


 普通に考えれば罠で在り、何か仕掛けられていてもおかしくは無かった。

 しかし、念のためにスキャンをかけたがレニー達には何も仕掛けられてはいなかった。


 シグレは本当に迷子で在り、心から街を楽しみ、レニー達との時間を友として過したのでは無かろうか。


 シグレのことを話すレニー達の表情は怒りと言うより悲しげな表情である。

 俺もまた、あの表情、レニーを見つめる悲しげなシグレの表情を見てしまった。

 

 甘い話だとは思うが、シグレの件は慎重に取り扱い、出来れば今後敵対しないように持って行きたい。


「……さて、予め言っておくが本件に関しては俺はとやかく介入しない。

 全て君達の判断に委ねることにする」


「つまり、それはどういうことなんだ?」


「シグレと敵対するのか、対話して友となる道を歩むのか。

 それを選ぶのは君達が相談して決めて欲しい」


「カイザーさんはカイザーさんらしい事をいいますよね、ほんと」


「なんだよそれは」


「あたい達がどうするかって……、そりゃ分って聞いてるんだろう?」


「さてな」


「私は人を見る目には自信がありますのよ」


「流石大商人の一人娘!」


「あたし、次に会ったらシグレちゃんとお話しするよ」

「ああ、例えシグレが立ち向かってきても話をしよう」

「それでもダメならあきらめますし、そうじゃないならお友達ですわ」


 恐らくまた、次のポイントで再会することだろう。

 そこでシグレの件に蹴りをつける。


 出来れば良い方向に話が付けば良いが、それは乙女軍団に委ねるしか無いな。



  ◆◇◆


 2日後、俺達はラウリン西部にあるポイントに来ていた。


 ここはまだ武器の発見はされていないが、見慣れぬ魔獣の目撃報告があったため念のためにポイントされていた場所である。


 ルナーサ西部のポイントはここが終点で在り、ここの調査を終えたら一度ルナーサに帰還し、報告を入れることになっている。


 さて、調査の結果から言えばここは当りであり、俺が装備できるシールドが地面に埋まっていた。

 ここに居たのは周辺には生息していないはずのブルーボアが魔獣化したもので、体長5m程の大蛇のような魔獣だった。


 これはミシェルがあっさりと寸断し撃破。

 

 他に同種の反応も無いことからシールドを回収し任務終了となった。


 さて……。


 盾を回収し、そろそろかなと思った瞬間、それはやってきた。


 しかし、何時ものようにバサりと俺の脇を掠めること無く、姿を見せたまま目の前に降り立った。

 足に包帯を巻いた少女は気まずそうな顔をしてこちらをチラチラと見ていたが、先にレニーが声をかける。


「シグレちゃん!やっぱり怪我しちゃったんだね……ごめんね、吹き飛ばしちゃって……」


 それを聞いたシグレは少し驚いたような顔をして、それに答えた。


「いやはや……レニー殿。心配されるとは思いませんでしたよ。

 私は貴方達をずっと付け狙っていた言わば敵ですよ?」


「敵だ味方だなんて関係ないよ。友達を怪我させたら謝る、これは当たり前なんだよ」


「……まだ私を友と呼んで下さるか……レニー殿には叶いませんなあ……」


 くしゃっとした表情のシグレは泣くのをこらえているかのように見えた。 

 念のため動作を監視して居るが、特に何か仕掛けてこようとしているわけでは無いようだ。


 では何故ここに現れた?


「っと、カイザー殿と言いましたな。そんな鋭い視線で見ないで下さい。

 今日私は戦いに来たのではないのですから」


「すまないね。俺は君達のことをよく知らない。

 だからレニー達ほど甘い目で見ることは出来ないんだよ」


「カイザー!」

「カイザーさん!」


 レニーとマシューに怒られてしまう。

 しょうがないだろ、一人くらい監視する目が無いと何かあったら大変だし。


「ははは、レニー殿達は良き指導者をもってますな。

 今日は皆さんに情報を持ってきました。信じる信じないは自由です。

 攪乱と思われるかも知れませんが、どうか聞くだけ聞いて下さい」


「情報……?」


 なぜ情報をくれるのだ、そう尋ねようと思ったが有無を言わさずそれを語りはじめた。


「皆さんお気づきの通り、一連の騒動は帝国領のとある組織が関与しています。

 そしてその目的は素材を目当てとした新種の作成と既存魔獣の変異化実験……と言うことでしたが、

 この間、私が貴方達から奪ったアレで帝国の方針が変わりました……」


「アレ、というのは武器か……。まさか、その武器自体に目を向けたと?」


「はい。そもそも私が貴方達についたのは実験に使っていたキャリバン平原に近づく者としての監視というのが理由でした。

 しかし、貴方達は池からアレを取り出した。

 帝国がいくら手に入れようとしても触れることが叶わなかったあれを取り出した。

 そこで一つ奴らの動きが変わりました」


「なるほど、取れる状態にしてから奪えということか」


「ええ。そしてまんまとカイザー殿からアレを奪った私は連絡を入れ、それは帝国に流れていきました。

 その後、どうなったのかは分りませんので、あくまでも推測ですが、ある方のお眼鏡にかなったのでしょう。

 今度は武器としてなんとでもかき集めよ、その様に命令を変更したわけです」


「なぜ、その情報を我々に話す?帝国が触れないのなら俺達はほっとくだけで良いはずだろう?」


「……そうは言っていられないのです。お忘れですか?誰しもが触れる状態の武器があることを。

 それは堂々と目立つ場所にあり、その気になれば強奪できると言う事を」


「おいおい……まさかそれって……うちか?」


「はい、マシュー殿の御実家であるトレジャーハンターギルド、そこに備え付けられている武器です」


「じゃ、じゃあさ、シグレちゃん。教えてくれてるって事は見逃してくれるんだよね?」


「……正直に申し上げましょう。この件について私の役割は終わりです。

 私は本国へ帰還し、武器の入手は別の者に引き継がれます……」


「そんな……」


「そしてその者は……帝国の黒騎士、陛下直属の精鋭部隊の一人、アランドラです。

 彼はとても強い……貴方達でも勝てるかは分りません。

 しかし、帝国の機兵が無許可でトリバに入ることは出来ません。

 まして隠密行動、彼は船を使い大陸をぐるりと迂回してギルドに向かうようです。

 今から向かえば十分間に合います!親しい人を逃がすことは出来るでしょう」


 そして、言いたいことは言った、そんな顔をしてシグレは魔獣に乗り込んだ。


「信じてる信じないは貴方方次第です。でも忘れないで下さいね。

 私はあの日食べたご飯がとても美味しかった、あの時間は楽しかったと思っていますから!」


 最後にそれだけ言うと高く飛び上がり東の空へ消えていった。


「シグレちゃん……」

「……じっちゃん達……ぜってえ抵抗するだろうな……」


「アランドラは聞いたことがあります。漆黒の機兵を駆る精鋭部隊の若き騎士。

 何故彼を送り込むのかはわかりませんが、マシューの実家にある物はそれだけ価値があるものなのでしょうね……」


 なんだか不味い方向に話が動いているような気がする。

 かつて巫女が止めたと言われる騎兵大戦。


 その流れには絶対に持って行かせるわけには行かない。


 なにより巻き込まれようとしているのは大切な仲間達だ。

 なんとしてでも止めなければいけないな。


「皆、予定変更だ!これよりトリバはトレジャーハンターギルドへ向かう!」


「当たり前だよ!今すぐ行かなきゃジンさん達が大変だよ!」

「ありがとうカイザー!正直一人でも向かうつもりだったんだ!」

「マシューの実家には一度お邪魔したかったんですの。

 こんな機会なのは残念ですが、おもてなしして下さいね」


「ああ、とびきりもてなしてやるさ!」


 こうして俺達は急遽トリバを目指しルナーサを後にすることになった。

 なるべくなら大事にならずに済ませたいが……、根回しは必要だろうな。


「では、ブレイブシャイン、トリバへ向けて出動だ!」


「「「おー!」」」 


 

 章の区切りとなる回なのでキリが良いところまで……と

 書いたら倍くらいのボリュームになってしまいました……。

 と言うわけで次回から新章突入となります。

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