第百三十五話 サウザン再び
翌日の会議は良い案が出たような出なかったような微妙な結果に終わった。
「身体を透明にするって言うなら、塗料かなんかかけたらいいんじゃねえか?」
マシューが良い笑顔で閃きを言葉にする。
確かに、普通に考えればその手は有効だろう。
周囲の景色を身体に映すような仕組み、その手の光学迷彩であれば十分可能だ。
「でもさ、上に乗ってた飼い主?わかんないけど、人の姿も消えてたよ?密着してる物も消えちゃうんじゃないかな?」
「その可能性は大きいな。一応案としては取っておくが本命にはしにくい」
「だめかあ……」
「それなら、空気の流れを読み取ってみるのはどうかしら?
一流の剣士はそれを読み取り目を瞑っていても避けられると言いますわ」
俺達はそこまで強い剣士ではないが、代わりにセンサーやレーダーを備えている。
確かに、センサーの対象を大気の流れに設定し、リアルタイムで観測をすれば姿を浮かび上がらせることは可能だろう。
「有効な手ではありますが、おすすめはできません」
「何故かしら?その言い方だと出来るのですわね?」
「出来ますが、本来その様に作られていないため、新たに分析機能を急造する必要がありますし、急造となれば分析に割くリソース……ええとつまり負担がかかりすぎて戦闘に支障が出ます」
スミレは非常に優れたAIなので、本来カイザーが持たない機能も自ら作って実装する事が出来る。
こうして何気なくレニー達と会話をしたり、本を読んだり出来ているのもそのおかげだ。
しかし、それを実現するためにかなりの年月を費やした。
データを集め、プログラムを組み、無駄が無いよう練り上げ出来たのがこの世界専用の翻訳システムだ。
大切なのが無駄を省くという作業だ。
演算ユニットにかかる負荷を極限まで減らすプログラムのダイエット。
これは中々に時間がかかるそうだ。
気軽に何か頼むとスミレの機嫌が悪くなるのはそのせいで有る。
「なるほど……居場所が分かっても万全で挑めないのでは意味がありませんわね……」
「万全どころじゃ無く弱体化するからな。あまり無茶はしない方が良いだろうな」
・・・と、そんな具合で結局良い案が浮かばないままサウザンまで戻ってきていた。
煮詰まってる時に無理をしても良いことはない。
早朝に野営地から出発したおかげで昼過ぎには辿り着けたため、昼食がてら遊んでこいと乙女軍団を開放してやった。
◆◇◆シグレ視点◆◇◆
不覚だった……。
あの白い機兵、ガア助の足を撃ち抜くとは……。
装備していたあの武器、恐らく池から引き上げた遺物だろう。
まさか本当に銃だったとは……。
どんな手を使っているのかは分からぬが、魔導障壁を剥がすあの力……侮り難し。
恐らく失われたと言われているかつての秘術、魔術を使っているのだろうな。
生活魔術程度なら今でも使える物は居るが、障壁を剥がすのは無理な話。
それに、あの武器だ。
手に入れて間もないというのに、まるで自分の武器のように扱っていた。
監視中にみた連中の姿と言えばそこらの気が抜けた少女と変わらぬ感じだった。
池で遺物を構えているのを見た時はふざけた連中だとばかり思っていたが、あれを銃と確信して引き上げたのであれば別だ。
遺物を一目見て銃だと見抜き、直ぐに構えて心地を試していたというわけか。
……魔術を使い武器に造詣が深いパイロット、間が抜けた顔をして居ると思っていたが……
なるほどなるほど、ふふ、なかなかやるようだ。
今日の定期連絡は実の多い物となるだろうな。
確か今夜"鳥"が来る宿はこの辺りにある筈だが……。
…………。
ここは何処なんだ?
頭領は「おめえは方向音痴なんだからガア助から降りるなよ』と言うが、街中で乗るわけには行かぬ。
大体にしてなんだこの街並みは。
無駄に似たような建物が多すぎるのだ。
私ともあろう者が……おのれ……かくなる上は……!
「すまぬ、そこの者。私は今どこに居るのだろう?」
決死の覚悟で声をかけたのは銀髪の邪気のない顔をした少女。
……しまった、こやつは例のパイロットではないか……。
しかし、少女はこちらを見て首をかしげている。
「何処?何処と言われても……私も旅人なので、サウザンですよ、としか言えませんよ」
「そ、そうか……いや、すまなかったな、引き留めて」
そうか、失念していたが街の者全てが地元民というわけではないのだな。
しかし助かった。
いくら私とは言え標的と過すのは神経がすり減ってしまう。
早く宿を見つけ姿を隠さねば。
「この子が迷子ですの?随分大きな迷子ですのね」
「そんな言い方しちゃダメだよ……」
先ほどの少女が別の者を連れて戻ってきた。
確か此奴は紅い機兵に乗るタチの使い手……。
なんてことだ……私の正体がバレていたというのか?
ふふ……、それでこそ我が好敵手!
しかし奴とて街中でやろうとは思っては居ないだろう、であれば……ん?
「さっきはごめんね、この人はミシェルで私はレニー。で、あっちに居る赤いのがマシューね」
どうやら風向きがおかしい。
まさか此奴、本当に私が心配で戻ってきたというのか?
油断は出来ぬが、少し様子をみてみよう……。
「お、お主、この街の者では無いのだろう?何故戻ってきたのだ?」
「ああ、私はわかんないけど、こっちのミシェルはルナーサの人なんだよ。
サウザンも少しはわかるって言ってたから行きたい場所があれば聞いたら良いよ」
これが人情か……。
国から離れ長きに渡る任務に心が疲れかけていたところだ……。
見ず知らずの私のため、わざわざ地の利が有る者を連れてきてくれるなんて。
敵ながら天晴れ、ここは一つ少しだけ甘えさせて頂こうじゃ無いか。
「ありがとう!レニー殿!私は……そうだな、シグレと呼んでくれ。
それで、西通りにあるという宿屋を探しているのだが……」
「西通りの宿屋……それなら梟の巣ですわね」
「そ、そうか!ありがとう、ほんとうにありがとう!ではすまぬがこの辺で!」
と、駆け出そうとする私をミシェルとやらが引き留める。
っく、やはり作戦か。
見事に騙されかけたが、ふふ、もう油断はしないぞ。
「あの、失礼だけど貴方西通りがどこかわかってらして?」
「むう?ここは西通りでは無いのか?」
「ほらな、レニー引き留めて正解だったろ?」
なんと言うことだ、私としたことが通りを一つ間違えていたか……。
この赤いのはマシューとか言ったか。
良く分からぬ武器を使うが筋は良く気が抜けない相手だ。
ふふ……その戦闘慣れしたカンで私が道を知らぬのを見抜いたのであろうな。
「西通りは方向が逆ですわ。ここは東通りです。
貴方を見ているとレニーを見ているようでハラハラしますし案内しますわ」
逆どころの騒ぎでは無かったようだ……。
が、いつまでも標的と一緒に居るわけには行かぬ。
ここは心を鬼にして!
「いやいや、見知らぬ方にそこまでお世話になるわけには……」
「いいんだよ、えっとシグレちゃん。自己紹介をしたらもうお友達なんだからさ」
友達……。
記憶から消えかけていた単語を聞いた気がする。
父上……いや、頭領から任務に就くに当たって甘い感情は捨てろと常々言われてきた。
それは己の弱点となると。
元々厳しい修行で友など作る暇など無かった。
友と呼べる者はガア助くらいで、街で遊んだことなど一度も無い。
……。
っく、惑わされるな。
うむ、そうだ任務だ。
潜入任務なのだこれは。
相手のことを寄り深く知るためには懐に入るべし、頭領も言っていたでは無いか。
何故だかわからない、わからないがレニーという少女が見せる不思議な笑顔を前にするとどうしても甘えたくなってしまう。
それはそれとして、任務なのだ、これは任務だ任務!
だから私は頭を下げ、レニーに案内を頼んでしまった。
「そういう事であれば……、短い間ではありますがよろしくお願いします」
「うん、任せてよ!あ、でも私じゃなくてミシェルに任せた方がいっか、あはは」
「あははじゃねえよレニーはさ。ま、そんなわけで行こうぜ、えっとシグレ」
「私達はこれからご飯を食べますのよ。良かったらシグレさんも一緒に、ね?」
こうして私はつかの間の友と数刻だけの短い休暇を過すこととなった。




