第百二十八話 犯人は誰だ
普段とは違う、仕事用の雰囲気でアズベルトさんは説明を続ける。
「カイザー殿は新種の発生は自分のせいである、そうおっしゃっていました。
確かに起因となったのはその武器なのでしょう。
しかし、先程も言った通り偶然にしては出来すぎている。
これら一連の件については我々も前から調査をしていました。
無論、パインウィードでのヒッグ・ギッガの件も……です」
「何?アレも帝国が関わっていると?」
「いえ、トリバ国内での事なので調査は出来ていません。しかし、ヒッグ・ギッガにより起こされた災害、今まで現れたことがない魔獣による災害です。
ここで話を戻しましょう。
まず、例の山上湖の決壊ですが、其れもまた何らかの新種による暴走ではないかと我々は疑っています」
「その根拠は何なのでしょうか?」
「あの大決壊はこちらからでもわかるほど大きな災害でした。
当時あの麓には小さな村が有り、被災したことは明らかでしたのでこちらから救援を出そうと打診をしました。
しかし……、にべもなく断られてしまいました。
そう、まるで何かを隠しているかのような態度で」
アズベルトさんは別の紙を広げながら話を続ける。
「その日から1年が経った頃でしょうか、各地で新種の存在が明らかになり始めました。
小さな物であればともかく、中には今まで見つからなかったのがおかしいほど大きなものまで」
広げられた紙には魔獣の絵が特徴とともに書かれていた。
ゴリラのようなもの、クジャクのようなもの、ゾウのようなもの……そのどれもが図鑑には載っていない魔獣である。
「はじめは我々も何かの大異変が起きている、そう思って調査をしていました……
が、ある日森で採集をしていたとあるハンターが見たのです。
街道もない森の中を歩く機兵を、いえ、機兵が居ることはおかしな話ではありません。
ハンターがいますからね。おかしいのはその装備です。
何か大きな箱を抱えて歩いていたのです」
「まさか、その中身が動物だっていうのかい?」
「ええ、そのまさかですよマシューさん。
機兵が箱を下ろすとどこからともなくもう1機機兵が現れ、其れを開けて中から動物を取り出し確認していたそうです。
動物は眠っているのか動くことはなく、再び箱に入れられ連れ立って森の奥に消えたそうです。
「それで、その動物は何処に行ったのかはわからないのですか?」
「はい……。そのハンターが不幸中の幸いだったのは機兵に乗っていなかったこと。
そのおかげで相手に見つからなかったのでしょう。
しかし、相手は機兵。気になって追うことは速度的には難しかったと言っていました」
「まあ、其れでよかったんだと思う。もしも追っていたら今頃命はなかったろうから……」
「そうですな。彼にはそのまま調査員になって貰っていますが、なかなかに有能です。
彼の報告がなければ外部から人為的に動物が持ち込まれていることに気づくのが遅くなっていたことでしょう」
「しかし、これだけでは帝国を攻める理由には弱いですよ」
「うむ、そうですなスミレ殿。それに我々とて確信しているわけではありません」
どんな事情かは分からないが、魔獣を作る実験をしていた。
その起因となるのは俺達の武器。
その武器は帝国領以外にもトリバやルナーサにまで散らばっている。
帝国は他国に侵入し、各地で実験を行っている。
少しひっかかるな……。
「アズベルトさん、帝国が俺の武器で魔獣化実験を行っているとして、なぜ回収し安全な自国領でやらないのでしょう?」
「その理由は簡単です。アレは回収できないのです」
「回収できない?」
「これは後で伝える予定でしたが、我々も一つ発見しています。
サウザン西部にある森林地帯で何か輝くものを」
「随分と曖昧な……見えないほど眩しく輝いているのですか?」
「それが、光自体は弱々しいのですが、どういうわけか姿をはっきりと捉えることは出来ず、
おぼろげながら剣のようである、ということしかわかりません」
成る程、認識阻害か。そんな機能もあったな……。
鹵獲されることを防ぐため目立たないように多少のステルス機能が発動するようになっている。
そして思い出したぞ、輝力漏れの原因こそが回収できない原因……
「そして近づこうにも近づけないのです。まるで見えない壁があるかのようで」
「バリア……、見えない防壁が出ているのであれば私の武器で間違いありません。
敵からの鹵獲を防ぐため、燃料が切れるまで防壁を発生させるのです」
「なるほど……であれば、尚更あなた方に調査をして頂きたい」
「調査というと……魔獣ですか?」
「いえ、魔獣のサンプルは既に手に入れています。
貴方がたにお願いしたいのは犯人の証拠集めです。
ほぼ帝国の仕業と見て間違いはありませんが、確信を持てる証拠を集めていただきたい」
「一ついいでしょうか」
ここでスミレが口を挟む。
「調査をしている中、我々の武器が見つかることがあるでしょう。
その場合、所有権はこちらにあると思って良いのでしょうか?」
良い質問だな、スミレくん!
俺達のものなのだから俺達のものだ、そう主張したいしリボルバーだって勿論のことだ。
しかし、起因となっている以上、研究に回される可能性もあるわけだし、
当然迷惑を被っている以上ルナーサにはその権利はある。
「その事でしたら問題はありません。我々が見つけた剣らしきものカイザー殿に返却します」
「む、いいのですか?」
思いがけない返事に少々驚いてしまう。
「あなた方は我々の恩人です。恩人の持ち物を返さない程恩知らずではありません。
それに我々は研究をしたいわけではなく、平穏を保ちたいだけなのです。
原因があれば取り除き、元の生態系に戻せればそれで良いのですから」
商人の国というだけあって、もう少しガメつく商材の研究につなげるのかと思ったらそうでもないようだ。
これは俺が反省をしなければいけないな……。
「そう言っていただけると助かります。であれば我々も全力で協力をさせて頂きましょう」
「こちらこそよろしくお願いいたします!こちらである程度成果が上がればトリバにも話をつけやすくなります。
この件はルナーサだけではなく、トリバにも影響が出ていますので……」
こうして俺達は秘密裏に大きな依頼を受けることとなった。
元々予定なんてあってなかったようなものだ、誰ひとりとして嫌な顔をするものは居ない。
そしてどうやらこの件はトリバにも及んでいる。
であればトリバに帰りながらでも十分にこなせるというわけだ。
……と、忘れるところだった。
「そう言えばウロボロスの加入により俺の機能が強化されたんですよ」
「ほう、それはどのようなものですか?」
スミレにお願いしてインカムをアズベルトさんに渡してもらう。
「それはインカムと言って、我々と連絡が取れる道具です。
本来その範囲はあまり広くはないのですが、ウロボロスにより範囲を大幅に広げられるようになりました」
「ほほう、それはどれくらいですか?」
「地形にもよりますが、条件が良ければフォレムからでも届くと思います」
「……なんと……。これが量産できれば世界が変わりますな」
「そうですね、生活は一変するでしょう。しかし、残念なことに私の知識ではその技術を伝えることができません。
端末自体を量産することは出来ますが、流石にウロボロスは増やせませんからな」
「はっはっは、それでは仕方がありませんな。
ウロボロスを量産されても困りますし、いえ、本気で行ったわけではありませんのでお気になさらず」
そして俺達は三日間ゆっくり休んだ後、調査の旅に出ることになった。




