第百二十四話 水場
その日の夜、昼間集めた情報を元に明日以降の活動方針について打ち合わせをした。
「というわけで、昼間連絡したとおり、乾物屋の主人から飛行魔獣について聞いたのですわ」
「今まで居なかった魔獣が現れた、ってのはリブッカの移動に関係がありそうだけど、どうもな」
「そうだね。それが沢山居るのなら話は別だけど、1匹ならもっと別の事情がありそう」
ヒッグ・ギッガの様に大きく、また地形を変えるほど暴れ回るような魔獣であれば話は別だが、
空を飛ぶ魔獣である以上、地形を変えるようなことはして居ないはずだし、そんな事をして居ればここに来るまでに気づいていたはずだ。
また、目撃したのが一人だけ……と言う事であれば、恐らく居るのは1匹だけ。
1匹だけであればリブッカが捕食を嫌って大移動すると言うことにはならないだろう。
「そうそう、あたいが聞いた話だと足を怪我しているリブッカが多いらしいんだ」
「足?どうして足なんだろ」
「それは分からないが、逃げてくるリブッカは大体足を怪我してるんだと」
「ううん……、あまり聞いたことが無い話ですわね」
これはかなり大きな情報だ。
何かリブッカの足を囓る存在が現れた。
それを嫌ってリブッカは大移動をはじめた。
これだけでは弱いが、飛行魔獣より現実味がある。
「取りあえず、明日こそはちゃんとポイントを調査してみよう」
「いやほんと頼むぜカイザー、あんたが頼りなんだからさ」
「うむ、今日は帝国寄りを通ってきたが、明日は中央を通るようにしよう。
それならば昨日と違った何かを見つけられるだろう」
「では、範囲が狭まりますが、明日はより細かく判別出来るレーダーを張りましょう」
「そうだね、頼んだよスミレ」
普段使っているレーダーは人か魔獣かをざっくり見分けられるだけのものだ。
しかし、高精度レーダーは範囲こそ狭くなるが、登録されている物であればレーダーの光点にそれぞれ識別名称が表示される便利な仕様だ。
明日はそれを使って、見落としていた何かを探すのだ。
◇◆◇
―そして朝がきた。
昨日の遅れを取り戻すべく、我々ブレイブシャインは早くにチェックアウトを済ませ原野を移動している。
周囲に見える光点は今のところ見知った物ばかりだが、徐々にリブッカの数が減ってきている。
そろそろ何か見えてきてもおかしくは無いだろう。
見た目的には変わらぬ景色が続いている。
1m~5m程の草が多いしげり、ちょいちょい大きな木が茂る林が存在している。
ただ、昨日移動していた帝国側と違い、地面が少々ぬかるんでいる。
レーダーによれば、大小の池が点在していて、辺りは湿原のようになっているようだった。
機械生命体である魔獣であっても水は欠かせないものだ。
奴らの生態は面白く、植物や鉱石、または他の魔獣を食べ体内でパーツを生成し生長していく。
水もまたそれに必要な物であり、冷却水として体内を循環する重要な存在だ。
この周辺は池が多く、魔獣の数も多い。
水場として重宝して集まってくるのだろう。
そして、本来であればリブッカもここを生息地として使っていたはず……
だが、何かが起きて大移動をはじめた、それは一体何か……。
「カイザー、Unknown反応多数!」
「Unknownだと?詳細を頼む!」
「体長は2m前後、数は23体、未知の魔獣です!」
ガサガサと何かが草をかき分け移動しているのがわかる。
が、草の背が高く、目視で確認することが出来ない。
「ウロボロス、この辺りで魔獣が多い場所を教えてくれ」
『250m先、左側にある大きな池だ』
『その周囲と中に集まっているわ』
集まっている……か。嫌だなあ、数が多くなると小さくてもちょっと大変だぞ。
「聞いたかみんな、今からその池に向かう。
足下にも未知の魔獣が居ると思われる。油断せず引き締めていくぞ」
「おう!」
「はい!」
「わかりましてよ!」
移動中も絶えず足下を何かがガサガサ、チョロチョロと移動している。
向こうから何かをしてくるわけでも無く、様子を伺うように足下をうろついている。
辺りを伐採して姿を捕らえることも考えたが、それは止した。
無駄に敵対しても面倒だし、なによりこれから向かう先、池の中にも同型の反応がある。
池の中には草が生えていない、つまり刈らずとも行けば見れると言うわけだ。
間もなく、問題の池が見えてくる。
一応心配していたが、水草に覆われて見えないと言うことも無く、多少濁っては居るが中の様子がよく見える。
「驚いたな……」
そこに居るのは50体程の見慣れぬ小形魔獣。
見た目はカワウソに近い生き物だ。
こいつらがリブッカの足を噛んでいるのかはわからないが、取りあえず暫くこの辺りで観察をした方が良さそうだ。
「よし、各機周辺の水場を監視してくれ。リブッカとUnknown……暫定的にカワウソと呼ぶが、その2体の関連性について調査する」
「倒しちゃダメなのか?」
「だめだ。調査が終わった後、資料として何体か持ち帰るが今は手は出さず観察に徹してくれ。
今は相手に警戒されてしまったら失敗と思え」
俺の合図でそれぞれ周辺の池に散り、息を潜ませる。
デカいので目立つが、静音モードにしておけば岩か何かだと思ってくれるだろう……多分。
俺達はそのまま中心となる大きな池で息を潜めていた。
と、スミレが何かを見つけ驚いたような声を出す。
「カ、カイザー、池の中央を見て下さい」
「む?おお、何かうっすら光ってるな?濁っていてよくわからんが、ぼんやりと白く光っている」
「ディープスキャンをかけてみたところ……アレの正体がわかりましたよ……」
「その口ぶりからすると……もしかして……」
「はい、どうやら貴方の武器です」




