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第十話 レニー咆哮す

 カイザーが地を蹴ったその瞬間、魔獣から放たれたブレスが岩を焦がす。獲物に放ったはずのブレスが岩に当たっている、魔獣は外したことを認識しキョロキョロとその姿を探すが、カイザーの姿を見つけることが出来なかった。それもそのはずである。


「うわあああああああ!!!なにこれ!凄い!飛びすぎ!!!!」


「馬鹿野郎!レニー!落ちるぞ!!ええい!左手に意識を集中!盾をイメージしろ!」


「盾!盾!たてえええええええええええええええ!!!!!!」


 必死に生きることを念じ、生き抜くために跳躍した結果、その力は過剰となり天高く跳躍していた。このまま落ちても普段のカイザーなら問題は無いのだが、現在命を預けているのは素人のレニーである。姿勢を制御できず今まさに岩盤に叩きつけられ様としている左側にシールドを張らせたのだ。


 轟音と共に天からカイザーが降り立った。いや、落ちたと言うべきか。しかし、シールドのおかげで機体・パイロット共に損傷は軽微である。


「あいたたたた……」


『カイザー、この娘のイジェクトを推奨』


「まあまあ…後から後から…」


 さて、どうすっかなこのレニー……。才能はある、間違い無くあるが今はほんとにダメだ。苦心して作ったプラモを親戚の子供に仕方なく触らせている状態、それを想像して欲しい。どうだい?胃が痛くなるだろう?俺なんて我が身だぞ?スミレだって機が機じゃ無いだろうな…だが……、今は耐える!耐えて貰う!



「スミレ、ハンドガン…はないのか…そうか…」


『すいませんカイザー、例のアレの時に護りきれず……』


 レニーが居るため、機密案件であるアレを上手いこと誤魔化している。なんだかますます人間くさくなってきたな。



 さて、武器が無い。武器は無いが……石ころは沢山有るな…よおし。


「レニー、残念ながら今の俺は武器を持っていない。ちょっと事情があってな。だが、辺りを見ろ、沢山転がってるだろ…?武器が…さ」


 そう言われキョロキョロとモニタを見回すレニー。なるほどなるほどという顔をして石、と呼ぶにはちょっと大きめの物に向かって歩いて行く。

「武器?そんなものどこに?」と聞き返されると思ったが、話が早いな。やはりこいつは化けそうだ。


「なるほど、流石ですねカイザーさん。手持ちが無いなら周囲を味方につけろ、ですね。」


 が、こちらに気づいた魔獣共が一気に距離を詰めてきた。3匹が鏃の様に並び、生意気にフォーメーションを組んでいる。戦闘の1匹を斃しても奥の2匹に挟まれる…か。不味いな。ここは一度距離を取って……ん?


「お、おい…?レニー?どこに向かって…おい!レニー!?レニーさん???」


 俺は「石を投げろ」と言いたかった。レニーも恐らくはそう解釈したのだろう。だが、レニーが俺に持ち上げさせたそれは石と呼ぶには大きすぎて、そしてその使い方も想定外だった


「固まって……来るのなら……好…都合ぉおおおおおおお!!!!!!!!」


 レニーが投げた小屋ほどもある”岩”は魔獣には向かわず真上に飛んだ。それを見て失敗だと思ったのか、速度を下げること無くこちらへ向かってくる。


 レニーはニヤリと笑うとギュッと下半身に力を集中させた。連動するようにしっかりと大地を踏みしめるカイザー、そして……


「逃げないでくれて…ありがとおおおおおおおお!!!必ッ殺ッ!!!!クラッシュバレットォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


 上昇を止め下降してきた岩に渾身の拳を叩き込む。岩は砕け散り、拳の生んだエネルギーに引かれるように礫となって前方に向かい飛んでいく。


 その礫は破裂音を置き去りにし、次々と魔獣に突き刺さっていく。慌てて回避行動に入ろうとするが、其れは敵わず見る間に礫に打ち抜かれ蜂の巣になっていた。


「見たか…私の拳…ッ!!!燃える拳を……ッ!」


「……」


『……』


 辺りには魔獣だったガラクタと呆然とした俺とスミレ、そして……。


「どう……でした…か?…カイ…ザー…さ……」


 ドヤ顔のママバタリと倒れたレニー。



 辺りに再び静寂が訪れた。



「気力切れ…か……」


『そのようですね、カイザー』


 「して、スミレ。君はこの子をどう見る?」


『私個人、スミレとして申させていただければ……ぶん殴りたいですね!カイザーの身体をこんなにもボロッボロにして……なんですか、あのパンチ?常識知らずですよ?音速を超える礫を生成する威力ですよ?私が制御システムに全リソースを注ぎ込んで反動を吸収していなかったら腕ごと吹き飛んでいたと思います!!!まったく!肉体があったらあの魔獣の様にボロぞうきんにしてやりたいですね!』


 めっちゃ怒ってらっしゃる……。


 いや、俺としてもめちゃくちゃなことをされた訳なので、多少のお説教はするつもりだ。ただ……なんだよ…あの熱いセリフ……。おじさん照れちゃうよ……。

 でも嫌いじゃ無い……。むしろ…いいよね…クラッシュバレットォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!なんだよなんだよー!女の子だからどうかな?って思ったけど、めっちゃ精神コマンド熱血もってるじゃないか。ド根性もあるなこれは。


 っと……。


「まあ、俺も後で指導はする予定だ。で、戦術サポートAIとしてのスミレさんはどう見る?」


『はい、悔しいですが優秀なパイロットになるだろうと推測されます。最初こそ力の制御に手こずっているようでしたが、跳躍し、シールド展開後は別人のようでした。不本意ながら言いますが、あのクラッシュバレットォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!ですか?あれは当機体の能力をフル活用した結果と言えるわけですが、常人にはやろうと思っても出来ませんね」


「だよな、常人がアレをやろうと思えば輝力が尽きて技が出る前に気絶していただろうよ」


 この機体を動かすには輝力が必要だ。「気力」とはちょっと別の意味合いで、人が持つ気の力…それを動力炉をもたらした存在は「輝力」と呼んでいるらしい。それを媒介として球のようなアレ(操縦システム)に意識を流し操縦する仕組みだ。


 無茶なことをしようとすれば輝力は見る間に消費され、気を失ってしまう。アニメのような動きは適正者、つまり常人より輝力が高い熱血馬鹿じゃなければ無理。故に適当なヤツをパイロット登録してしまうと本来俺が持っている能力を出し切れないため、慎重に慎重にやる気があるヤツを待ってたわけだが……。


「まあ、挫けず何度も何度もこの毎週飽きずに登山してたあたりからして適正は感じてたけどな」


『そうですね、直後気絶した辺りから本当にギリギリだったのかもしれませんが、あの岩を投げた上であのパンチを撃てることに驚きです』



「最も、仕留め損なっていたらと考えればゾッとするから、気力の使い方を踏まえて訓練が必要だな」



『肯定です、カイザー。あの野生児にマナーという物を叩き込んでやりましょう。戦闘のもそれ以外のも…』



「ははは、お手柔らかにな……」



 翌朝になり漸く目を覚ましたレニーは全身を襲う異常な筋肉痛と俺とスミレによる合体技、多重回転説教により死ぬより辛い目に遭うことになった。


 あのシステムは輝力以外にも体力をめっちゃ使うからな。良い薬になっただろう。


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