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第九話 カイザー大地を蹴る

「今日は娘っこ来ないね」


『私としては嬉しいですよ,カイザー』


「まあそう言うなよ。魔獣とかの話ポロッとしてくれるかもしれないしさ…」


『……。』


「スミレ、また何か知って黙ってるね?」


『い、いえ…カイザー…』


 スミレを問い詰めようと頑張っているとセンサーに反応があった。娘っこだ。が、どうも様子がおかしい。普段より移動速度がとても速い…何かに追われている?


 娘っこが可聴範囲内に入ったようで必死な声が飛び込んでくる。


「はぁ…はあ…はあ… もう!しつっこい!」


 やはり何者かに追われているようだ。賊か獣かはわからないけど、詳細を見たい。

 

「スミレ、レーダー拡大。娘っこ周辺をサーチして」


『了解、カイザー……これは…まずいですね』


 小さな点、これは娘っこだ。あの小さな身体にしてはスタミナも切らさずなかなかの速度で走っている。問題はその後ろから迫る3つの大きめの点だ。


「なんだか分からないが、動きからすると…動物のようなものに追われている様だな」



「もーーー!!!なんでよー!!!あっちいきなさいよ!!!」



 やがて娘っこの姿が見える。そこらの石を拾っては投げ、拾っては投げしていたが、やがて顔色を変えてこちらに駆けよってきた。



「やばいやばいやばい!めっちゃ怒ってる!やばい!今日はやばい!!」


 駆けよるなり俺によじ登り両手でコクピットハッチをガンガンと殴りはじめた。相変わらずのパワープレイだな。殴ったところで開くような物でもないんだが……。



「ねえ!お願い!ハッチを開けて!!!じゃないと!!!!死んじゃう!!!」


『小娘の心拍数さらに増加、追従する敵性生物脅威度LV5、……ただし小娘に対してですが』


 娘っこを追って来た敵性生物の姿が見えた。それはクマの様な体格の大きなオオカミに見える生命体…と呼んでいいのだろうか?昔組んだプラモや、オープンワールド狩りゲーで見たことがあるような”モノ”だった。


「機械生命体……?」


 そんなのが3体、フォーメーションを組んで俺達を取り囲んでいる。標的はどう見ても娘っこ。飛びかかってやろうと隙をうかがっているようだ。



「おねがい……おねがいよお…開けて…開いてよお……」



 泣き声を出しつつもけして涙は流さず、そして諦めて叩くことを止めずに少女はコクピットに、俺に願い続けていた。



「何も出来ないまま…死ぬのだけは…嫌だよ……お願い…力を…貸して…」


「スミレ」


『……』


「スミレ!!!」


『カイザー、私とて鬼ではありません。しかしこのままハッチを開けると小娘は反動で落とされてしまいます。

 ですのでカイザー、少女に少し位置をずらすよう、指示を出して下さい。……その声に驚いて落ちるようであればそれまでと言うことで私は知りませんからね』



「スミレ、ありがとう!」


 音声を外に外部に切り替え少女に声をかける。


「そこの少女よ!聞こえるか!?俺はカイザー、このロボット、お前達が機兵と呼ぶものだ」


「!?喋った?えええ?ほんとに?ほんとに喋った?」


 俺の声にビクっとするが、ハッチから落ちること無く、むしろなんだか興奮し始めた。


「色々聞きたいことはあるだろうが、それは俺も同じさ。ただな、生きていなければそれは無理な話だ。さあ、ハッチを開けるからそこから少し奥にズレるんだ。開いたら直ぐに乗り込め、奴ら来るぞ!」


 少女が奥に動いたのを確認するとハッチを開けた。今だ!乗り込め!と、言う間もなく、するりとコクピットに収まった少女は興奮気味にキョロキョロとしている。


「うわ、うわ、うわーーーーー!!!凄い!凄いよ!?これが憧れの機兵の中?うわあ、コクピットもフカフカしてて!!!うわあ!!!」


『カイザー、強制射出の許可を……』


「気持ちは分かる、分かるが待て……」


「あっすいません!私ったら興奮して!えっと、連中を斃したいんですが、動かして良いですか?ええっと機兵さん!」


「俺のことはカイザーで良い。動かしたいか?一応保護のために乗せただけではあるんだが……スミレ良いか?」



『……カイザー…知りませんよ…』


 スミレが色々と不安がっている。俺だって不安だ。出来ればもう少し様子を見たい。だが……


『訂正しますカイザー、敵性生命体、当機体に対しても脅威度LV4と推測。軽微ではありますが、外部装甲にダメージを確認。速やかなる撃破を推奨します』


「だとさ、ええっとお前名前は何だ?」


「私はレニー・ヴァイオレット…でも、今は皆レニーと呼びます!だからレニーとお呼び下さい!カイザーさん!」


「ようしわかった、レニー、ただ先に謝っておくことがある」


 いきなり謝ると言われてキョトンとするレニー。


「それはな、まずこの機体、カイザーこと俺はパイロットにある程度の適正が必要だ。それは体力だったり精神力だったりするんだが…まあ、そこに二つの球があるだろう?そこにそれぞれ手を乗せてくれ。それに反応が無ければどうしようも無い。俺達と一緒に祈ってくれ!すまんな!」


 レニーは物怖じすること無く、言われるままに白い球のような物…操縦桿のような役割をする物に手を置いた。途端、其れから失われていた光が点り球は紫色に輝いた。


「良かったな、適正者と認められたようだ。そういえばレニー、お前の家名はヴァイオレット、お前もスミレか。なんだか神様のいたずらを感じるぜ」


『……』


 なんだかスミレのイライラしたような気配と神様の焦るような気配を感じたが後者は兎も角前者は気のせいであって欲しい。


「よし、両手を球から離すなよ。戦闘は俺とスミレ、そしてお前の3人の協力が不可欠だ。サポートしてやるから頑張れよ!」


「はい!カイザーさん!」


『左舷より高エネルギー反応!回避を推奨』


「よし、レニー!右手に意識を集め避けるイメージを高めろ。避ける、避ける、避けるんだ、避けないと死ぬ、死ぬぞ!さあ!避けろ!」


「うわああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 レニーの咆哮、カイザーの目に紫色の光が点り全身に力が漲っていく。この世界に来て始めて、6000年近い年月を経て始めてカイザーが大地を蹴った。


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