6 意外とあの子はぼっち系
6/10 いつもお読みいただきありがとうございます。第5話の最後の方を改稿しました。話の筋が少し変化しておりますので、ぜひご確認ください。
「とにもかくにも、士昏くん。あなたはさっきの試験に無事、合格したわ。見事ね」
「試験?……お腹の音を聞かれたから口封じ、じゃなくて?」
……。
「本当に鮮やかな手際だったわ!惚れ惚れした!」
「いや今の間はなんだ!?絶対にさっきの口封じだったよね!?ごまかすの下手か!」
冷静にツッコみつつも僕は花多葉さんの口から「惚れた」との言葉を聞き逃さなかった。
嘘でも嬉しい、ビクンビクンッ!
「というわけで!あなたは正式に、BBFのメンバーとして迎えられます!拒否権はありません!これからは影となり日向となり、わたしを腹鳴りから救ってください!」
……取りあえず僕は、周りにいるBBFの構成員と思われる方々に話を振る。
「……あの、皆さんもこんな感じで、加入させられたんですか?」
「そうでござるよ、ブヒィィィィィ!」
一人が目出し帽を脱ぎ去って、でっぷりと太った顎を晒した。
小太りな男だ。僕を襲撃してきた(いや、正確には“させられた”か……)一人だ。
見たところ僕らと同じ高校だろう。
「いやはや不肖私岩本卓雄、ついうっかり憧れでござった花多葉殿が、お腹を鳴らしているところに遭遇してしまい……」
やはり皆同じか。
しかし、それだけじゃわざわざ一個人のためにこんなことする理由としては弱いだろう。
もっと強制力のある理由があるはずだ。
例えば、弱みを握られたとか。
僕は探りを入れる意味で、卓雄と名乗る小太りの男に耳打ちした。
(こんなことになって、大変でしょう)
「まあ、正直楽な仕事ではござらんな……」
よしよし。この調子でこの人物がBBFに加入した経緯を詳しく聞き出せば、この組織と花多葉さんに関する秘密を暴くことが……。
「……まあ、大ファンだったあかり殿のお傍に仕えることができるという喜びを思えば、些細な労苦は屁のツッパリにもならんでござるよ!」
嬉しそうに言い放つ岩本卓雄が、太腿をボンと叩くと、ポケットから写真がバラバラと落ちてきた。
それには全て、花多葉さんが映ってる写真だ。
はあ、と僕はため息をつき、もう彼から聞き出すことはないと、他の構成員に目を移す。
……正直床に落ちてる写真全て拾い集めたい衝動を抑えて。
『ワタシもそんな感じですよー、士昏さん』
車内スピーカーから声。
BBFのオペレーターを務める、音掛さんだ。
『下校途中に偶然彼女のお腹の音聞いて……って感じですかね。士昏さんと似てます』
そこまで言うと音掛けさんは急に涙声になり、
『……その後にBBF加入をお願いされて。断ったら……』
ゴクリ。
そうだ、そういうのを待っていた。
『ワタシが大好きな、購買部のエクレアシューケーキ、毎日毎日全部買い占めてやるって脅されたんですよ?!ひどくないですか?!』
……。
なんだ……、それ、本当に信じたのか?
『あ、なんか「コイツ本当にソレ信じたのバッカじゃね?」的な顔してますね士昏さん。サザンカコーポレーションの代表を務める花多葉さんの財力を舐めたらアカンですよ!』
……バッカじゃね、とまでは思ってないが、結構バレバレだった。
それにしても、花多葉さんがサザンカコーポレーションの代表?
元は小さな投資信託会社だったが、あの1年前から急成長を果たし、今ではIT系など各種分野へ進出している、あの注目企業。
そこの頭が、この女子高生だというのか?
もちろんクラスの誰も知らない事実である。
花多葉さんの方に目をやると、すっごく自信満々に胸をエッヘンと張っていた。
相当な努力で会社を成長させてきたのだろう。その胸には積み重ねてきた自信が見て取れる。……眼福。
ゴッホン!でもまあ、自身の腹鳴りを抑えるためだけに巨額の投資でこんな組織を作り上げるなんて、財力の使い道としてどうかと思うのだが。それはともかく。
続いて僕の視線の先には。
金髪ヤンキー風の男が目に留まる。
いかつい格好してるが、目鼻立ちは整っている。
「あの……」
「俺は賭け麻雀に負けた分花多葉に肩代わりしてもらったから、その分働いているだけだ」
僕は普段日常会話に慣れてない分(戦地での暮らしが長かった所為にしようと思ったが、まあ多分絶対普段ぼっちだからだろう否定できない)、このヤンキーはスパッとこちらの意図を汲んで返答してくれた。逆にそれ以上、話す気はないというようにそっぽを向かれた。
てか賭け麻雀の肩代わりとか中々設定がヘビーだな……。前二人があまりにもくだらなすぎた反動か……ゴホンゴホン。
そして、次。
僕は、目の前の東欧系美少女に話かけ
……ようと、思ったのだが、声を、かけられなかった。一度染み付いたぼっちの習性とは恐ろしい。花多葉さんには襲撃された直後だったので勢いで喋ってしまったのだが、いざこうして落ち着くと、見知らぬ女子に話しかけるというのはなんと勇気のいることなのだろうか。
それでもまあ、僕から話しかけないと、進まないだろう。
わざとらしい深呼吸をして、僕は、
目の前の、絶対に銀髪ツンツン系美少女に話しかけてみる。
「あの……君は……」
彼女が、応える。
「…………私は…………」
彼女は、頬を朱に染めて、どもった。
あれ?
意外に彼女も、僕と同じ、
ぼっち系?