新入生オリエンテーション
導入的な話です
高校1年 3月末 小泉広人
1時間電車に乗り、目的の駅に降り立った。ここへ来るのは合格発表以来だ。今日は合格者のオリエンテーションということで高校に呼ばれた。
駅は制服の高校生たちで溢れている。ほとんど新1年生だろう。ワイワイガヤガヤとよく騒ぐ。ド田舎の村からただ1人合格してきた僕に知り合いなんているはずも無く、人の波に乗り、目的地へ向かう。いかにも都会に育ちましたというような女子3人が横に並び、大きな声で喋りながら僕の道を塞ぐ。よくもまあこうも車道を我が物顔で歩けることだ。軽い見下し、哀れみを向けつつ彼女らの横を通り過ぎた。
「教室は4階でーす!!外履きはこの袋を使ってくださーい!!」
案内に従って階段へ向かう。ただただ1人、上る。単独も、複数人の固まりも、目を合わせようとしてこない。もちろんこちらも合わせようとは思っていない。
上りきると、左に普通、右に理数と貼られている。右に向かい、自分の教室に着いた。
さて、どんなやつがいるのかと見渡す。ここにいる者は、何にせよ県内トップクラスの頭脳を持っているはず。その場にあった顔をひと通りチラ見した。
黒板に貼られていた座席表を見て、自分の席に着いた。右から2番目、後ろから2番目、なかなかいい。オリエンテーション開始まで5分。このまま何もせず過ごすことになりそうだ。2つ前の席に、知り合いであろう、3人の女子が集まって話している。今1度周りを見渡してみる。僕と同じ状況にある男子、女子が4人ほど見つかった。少し安心感を覚える。まあ、最初はこんなものだろう。
頬杖をつき、2つ前の女子たちの話を盗み聞きながら待つことにした。
「部活どうする?」
「やっぱりテニス気になるなぁ」
「マネージャーとかもどう?」
「でも塾との兼ね合いもあるしさぁ、それも考えないと」
他愛ない雑談だ。自分のことを語りたい、という欲が見え隠れする程度である。
開始時間となり、皆が席に着く。うちの担任はまだ来ない。男子5人ほどで後ろに集まっていたうちの1人が右隣の席に座った。
首はそのままに、目線のみを右へ向ける。背は高く、かなり日焼けしていて、スポーツマンといった印象だ。足を机の前まで投げ出して座っている。あまりそこのところのしつけは良くないのかと思った。まあ、頬杖をついている僕が言えることではないのかもしれないが。
僕の視線に気づいたのかはたまた偶然か、彼は首をこちらへ向けた。目が合う。気まずい。
「あ、えーと、よろしく」
幸い、向こうから切り出してきてくれた。よそよそしさに溢れた小さなあいさつだ。敬語ではなく初めからタメ語のタイプらしい。さすがに僕も首を右へ回し、軽く会釈をする。
「よろしく。」
「うん、あのー、たしか小泉くんだよね。自分は、大川秀征。」
おそらく黒板の座席表を見て覚えていたのか、僕の名前を知っていたようだ。
「ああ、どうも。小泉広人です。大川……くん、よろしく」
そこで会話は途切れた。担任が入ってきて、オリエンテーションが始まった。
こいつも、このいかにも運動部系のやつも、合格してきたのか。まあここにいるということはそうだ。もちろん、いかにも勉強者系の合格者しかいないとは思っていなかった。ただ、現実にそうでない合格者と対面すると、僅かな憎さを抱いた。異族に対して生じる嫌悪だろう。まあ、どうせ勉強に自分を捧げてきた僕には勝てない。その、はず。詳しい彼の実情は知らず、あくまで見た目、雰囲気による主観の判断であるが。
こいつには負けたくないという、自分と異なる者への対抗心、敵対心。こいつには負けるはずがないという、心の内で自分より下に見ている者への見下し、蔑みの念。二つが混じり合い、焦りと余裕が共存する。
しかしこの頃の僕は、この余裕も、焦りの一種であることを知らなかった。余裕がないから、焦りがあるから、人を見下し、蔑み、弱い自分という現実から逃げるのだ。
僕は頬杖をつき、担任の話を静かに聞いていた。
次でおそらくオリエンテーション終わります