高尚さからかけ離れたクズな世界
※あくまで主人公の理論です。不快に思われたら申し訳ございません
高校2年 6月 小泉広人
ひどい雨が降っている。
今日も重い教材を詰め込んだリュックを背負い、右肩には体操着を担ぎ、左手には傘を開き、僕はホームに立つ。
雨の中の満員電車は、通常の熱気に加えた湿度の上昇により、なおいっそう不快な空気を吸わなければならない。
電車が来た。車両の中ほどの定位置に立つ。今日もここで1時間過ごすことになる。目の前に座る、朝からスマホゲームに興じる他校生を心の内でうとましく思いながら、目を閉じる。
今日もまた、半分以上がカス授業の1日を過ごすことになる。夜ふかしのせいで頭がぐわんぐわんする。つかの間の、睡眠をとろう。
人の密集した駅まわりを抜けた。目を半分閉じながら学校への道を歩く。
背の高い同校生が、自分で自分のことを颯爽な歩きと思っているのだろう、ドヤ早歩きで僕を追い越していく。もちろん知らない奴。気にしない。
しかし結局僕と同じ信号で止まっているのを見ると、脳みそねえなお前、と心の内でからかってしまう。
どうにか下駄箱に着く。同クラスの女子が1人。
「おはよー!」
こういう場面の女子はおおまかに3タイプに分類される。なりふり構わず同クラスの男女にあいさつを振りまくタイプ。あいさつする相手を仲の良さで選ぶタイプ。何も言わずに素通りするタイプ。こいつは1番目だ。
「あぁ。」
会釈と言えないほど軽い会釈をし、小さな声で反応する。
「おおー、ねむそうだねー!」
そう、挨拶だけでなくこういう突っ込んだことを言ってくる場合もある。最もめんどくさいパターンだ。
頷きと言えないほど軽く頷き、表情を変えずに階段へ向かう。
当然彼女は去った瞬間に僕への興味をなくし、新たに現れた同クラスの女子に話しかけている。まあ、そういうものだ。
教室の扉を開ける。当然僕に対する反応は特に無い。机に突っ伏して寝ている男子、予習をする真面目な女子、後ろに溜まり共にスマホゲームに興じる男子。通常の風景だ。
朝のホームルームまであと10分。濡れたリュックを嫌々ながら開き、教材を机に入れる。机に座り、頬杖をつき、ギュッと目をつぶり、周りに聞こえないようなため息をつく。「今日もめんどくせえ……」
==========
僕は東北のとある田舎県の中の、田舎な地方に住んでいる。そして、県内では一応トップクラスに頭がいいというか、勉強のできる高校に通っている。
田んぼと畑ばかりの村に、よくこんな子が生まれたと言われたものだ。おだてられ、期待され、あれよあれよとこんな高校に入ってしまった。
自己紹介なんてのはとりあえずこのくらいでいいだろう。
……高校というところに入ると、一気に世界が変わり、価値観が変わる。全く異なる人種の海に放り込まれる。
そして人間は、ギャップに打ちのめされる。味わったことのない、劣等感、敗北感に飲み込まれる。自分の感じていた自分の価値を、他人に奪われていく。
それでもなお、腐らず努力し生き抜き続けなければならない。
とかっこつけて言ってみたものの、僕の周りの世界は実際そんな高尚なもんじゃない。身体、口による暴力的感情表現の無い分、陰湿な思惑の飛び交う、クズ共の世界だ。他人と仲良く接するフリをしながら、皆自分のことしか考えていない。
自信のある顔をしながら、努力の量は皆無な者。遊んでまーすという顔をしながら、裏で勉強し、ドヤりたいだけの者。
所詮、カスしかいない。傲慢さに溺れた、「強い!」と言われたい民の集まりだ。同じゲームをプレイしているようなネット上の界隈と何ら変わりはない。
世間では、「学問を探求し高めていきたい」「世界に羽ばたき、国際社会に貢献したい」ような人々の集まりだと思われているらしい。ここにいるカスたちは世渡り上手だから、表面的にはそういうことを言うのだ。そういうことを言うように洗脳され、プログラムされてきた。本心で純粋にそんなことを思っている奴なんて、いるのか?いやいない。
日々無駄話に明け暮れゲームに明け暮れSNSに明け暮れるクズしかいない。
これを、僕は他人を見下していると取ればいいのだろうか。僕自身にもわからない。
僕は…………
違う、奴らとは違う、違うはず、できるはず、できるはず……なのに……。
奴らはクズのはずなのに。なのに。
「はぁ……」
行き場のない苛立ちは、ため息と眉のしかみに変換された。
閲覧ありがとうございます。
次は1年生入学時の話で、主にこの主人公の価値観の形成について書く予定です。
なお、ペースには期待しないでください