帰路
武器屋「Bクト」を出た俺は、キルソを探す事にした。
表通りの方へ行くと言っていたが、どの表通りかも言ってないし、そもそも表通りにすらいない気もする。それくらいノー天気な奴なのだ、キルソは。
のでので、俺は電話という素晴らしい機能に「キルソ捜索」を任せることにした。
ルルル~
もう、慣れたお馴染みのメロディーち共に、キルソが電話に出るのを待つ。
2分後。
出ねぇ…
そういやキルソは、電話が掛かっていても、平気で「めんどいから」って理由で電話に出ない奴だった…
何の為に、携帯持ってんだよ…
こうなってはもう、あの手を使うしか無い…
電話よりもこっちの方が断然「キルソ捜索」には、役に立つのだけれど。
俺はグッと体の中心辺りに力を込める。そうして魔力を起こす。
そして、フッと力を抜き魔力を四方に向けて放出する。
すると、俺も理論は知らないが、共鳴みたいなのが起き、キルソの位置が自然と分かる様になる。
う~んと、位置は…前方右斜め上。
上!?
どうやら、目の前にある30階建ての高層ビルの中の様だ。
しかも、そのビルはこの町、即ち天国の首都「アーク・コンチュ」の中でも有名なビルの1つだった。
当然、一般人の俺が入った事のある店の類いではない。
まったく、何をしているんだ…
まぁ、取りあえずは入ってみる事にした。
中は意外と広く、なんでも上に行けば行く程、高級店になっていくシステムになっている。
5階でまた、探知を使ってみる。
まだまだまだ上…
10階でまた、探知を使ってみる。
まだまだ上。
15階でまた探知を使ってみる。
まだ上。
はぁ…
だいぶんヤバい所になってきた…
だって、もう周り、下界で言う「三つ星レストラン」みたいな感じになっちゃってるもん…
分かるかなぁ~ こういう所だと、無性に緊張しちゃうこの感じ。
胃がきゅっとなる。
15階でまだ上って…
多分、20以上だと、精神が付いていけない領域になると思う。
俺達は、霊体みたいな物なのだけれど…
幸いな事にキルソは19階にいてくれた(?)。
だが、超高級なカフェで超大盛り(キルソの上半身クラスの大きさ…)のパフェに食らいついていた。
しかも、よりによって、キルソの向かいに座り、ニコニコ微笑んでいる女は誰であろう、ユートリスだ。
ユートリスはさっき会ったときとは違い、兵団の服は着ておらず、白いワンピースに深い蒼のカーデガンを羽織っている。場の雰囲気に合わせた清楚な格好だ。
……
正直に言うと、可愛い…
元々、黒髪ロング巨乳美少女という外見を持ち合わせてはいるのだ。それが、兵団の制服から解き放たれ、清楚な服に身を包んで、可愛いく無い訳が無い…つまりは、必然的に可愛くなる。
卑怯だ。
まぁ、どれ程可愛くたって、本人には言うつもりは無い。
そんなことは置いておいて、問題はキルソが何故、ユートリスと一緒に楽しくお茶をしているのか、という事だ。
何だか、伝承にあるトロールみたいだ…
もてなして、ニコニコ微笑んで、最後にはパァクッっていうのを、どうしても連想してしまう。
そんな風に、キルソとユートリスの謎の共演に対して色々な感慨に浸っている時はいきなり、幕を迎えた。
ユートリスに気付かれた。
「やぁ、ライ。1時間ぶり。元気にしてた?」
「元気って、1時間でそんなに変わるもんか?あと、1時間も経ってねぇし」
おやおや?
いつも、とってもお喋りなユートリスが今回はあんまし、喋っていない、だと?あと、心なしか少し声のトーンが低い気もする。
何があったぁ!?
「どうした?いつもみたく、たくさん喋ら無いじゃないか?何かあった?」
気になるので、一応は聞いてみた。
「ああ、見てくれ、この美味しそうなキル…パフェを。そしてそれを一生懸命に食べるキルソちゃんを…可愛いし、何より微笑ましい…食べちゃいたい位だぁ~」
やっぱり、こいつトロールじゃね?
キルソの事、美味しそうって言いかけたし。
そんな夢の瞬間をぶち壊しに、俺は胃をきゅっとしてまでして、ここまで来たのだ。
「おい、キルソ。迎えに来たぞ。とっととそれを食って、この悪趣味な奴からは逃げようぜ」
「悪趣味な奴とはなんだ。悪趣味な奴とは!せめて、可愛い美少女と言えぇ!というか、どうだ?久々に私服を来てみたのだが…」
せめて、美少女って…とうとう自分で言いやがった。
あと、上目使いで可愛い子ぶるな。
そんな風にしたって…本音なんか…
「うん…とっても似合ってて、か、可愛い…」
ユートリスがニヤッとする。
はっ!しまったぁ。本音がつ、つい…
クソッ!美少女ってだけで卑怯だぞぉ!
反則だろ、「美少女の上目使い」なんて。ある種の必殺技じゃん。
今となってはレアなサキュバスとかの上目使いとかって、どうなのかな?やっぱし、キュン死するレベル?
なんて考えている間にもユートリスの顔はニヤニヤが深まっていた。
「そうなのかぁ~僕もとうとうそういう目で見られる様になったかぁ~今夜にでも、誘われちゃったりするのかなぁ~ す、少し緊張するよ…」
「な、何にもしねぇよ」
何だかボソッとユートリスが「つまんないのー」と残念そうに呟いた気もするが、ほおっておく。
そうこうしている内に、キルソが半身台パフェを食べ尽くした。
「ふぅ…」
満足げなため息。
「お前、どれだけ食ってんだよ。半身台パフェって、漫画かよ」
「ん?貴様も美味しい物はどれだけでも食えるだろ?貴様は毎日の様に可愛い女の子食べてるじゃないか~ そういう事でどっこいどっこい」
「おいぃぃぃいいぃ!止めろ!止めるんだ!ユートリスが結構真面目に引いてる。性格どうこうっていう前に女の子に引かれるのはいやだぁ!あと、そんな事、してないからね?」
ユートリスは顔を赤らめながら、両腕でその豊満な胸を抱いている。
ちょっと、可愛い仕草だ。
一方、キルソは「してやったり」という顔でこちらを見下している。
こちらはこちらで可愛いのだけれど、周囲の客の目が痛い…俺にズブズブ差さってくる…
「はいっ!閑話休題。ところで何でユートリスはここにいるんだ?」
「いや、閑話休題してはならないと思う。ライ。君は毎晩そんなふしだらな事をしておいて、僕達と吊るんでいたのか?このへんた…」
「だぁっからぁ、ちぃがぁあっう!!ほら、キルソも何か弁解しろってぇ!」
う¨…
周りの目が更に痛くなった…豆腐メンタルの俺には大分しんどい…
「弁解かぁ…そういえば昨日、キルソが寝ているベットの中に入り込んできた」
「嘘ばっか言うなぁ~!!」
「あ、あのぉ…すみません。これ以上声をあらげるのであれば店の外でぇ…」
「「…はい……」」
こんな風に、新人店員により本当に閑話休題した。
店員さん、ごめんなさい。
* * * * *
「話戻すけど、キルソ、お前何で電話出ねぇんだ?」
そう、そうだった。
俺はお喋りをしに来たんじゃ無かった。キルソを捜しに来たんだった。
俺が電話の事を改めて聞いてみると、キルソはいつものとぼけた顔でこう言った。
「何で、出なくちゃいけないの?」
「…はぁ……」
やっぱし、そうでした。電話のしてる時に考えていた通りの答えだった…
こんな風に以心伝心は要らないんだよな。どうせ出来るんなら、キルソにも是非、俺の心を読んで欲しい…
「しかも、そのけいたい?だっけ。それもう、無くしたし」
「も、もうお前には何も買い与えない…」
「そ、そんなぁ…これからキルソはどうやって生きていけば…」
瞳をうるうるさせながら2人が一生懸命にこちらを見ている。
いや、流石に必要最低限の物ぐらいは買うよ?
って、あれ?
2人!?
1人は当然キルソ。
ユートリスはしばらく俺達の様子(主にキルソ)を見て(観察?)いたが、俺が「そういや、お前仕事は?休憩時間だろ?もう、過ぎてんじゃね?」と、言うと顔を青ざめて、思い出した様にどっかに電話を掛けに走って行った。
つまり、ここにはいない。
というか、読者に分かりやすい様に解説していたが、分かるじゃん。俺は見ただけで。知り合いなんだし。
「せえぇんぱいっ!それは酷いです!最低限の物ぐらい買うって言ったって、相手は女の子なんですよ!もっと、甘やかした方がいいに決まっています!目の前の、この後輩ちゃんにもっ!」
「はいはい可愛い可愛い。というか俺の心を読むな」
今さっき、キルソに俺の心を読んで欲しいと言っていた俺だが、こいつの場合は違い、一方的な以心伝心だ。
何でも俺の心だけ、分かるみたいだ…一応ストーカーではない。
この自称「後輩ちゃん」は、その通り俺の兵団の後輩。名前はエリー・ロココ。今は兵団の制服を自己流で改造した物を着ており、元の制服と比べると色々と危うい。
スカート丈は規定では膝上10cm以下に対し、膝上15cm以上のミニスカと化しているし、軽くフリルまで付いている。袖はタンクトップで織り付けており、肩まで見えている。胸元に至っては、ボタンを1つ、2つ外して、俺みたいなロココよりも背が高い奴からは胸元がチラチラ見えて、目の行き場に困る事となっている。
本人いわく「夏っぽい気候だし、暑いからっ!」という事みたいだ。
極めつけは、ロココの頭に付いているショートの髪と同じ明るい黄色の「猫耳」だ。勿論、付けている訳ではなく、同じ色の尻尾もロココには生えている。
つまり、容姿だけは可愛い。
容姿だけは。
ユートリスがいなくなって、静かになったかと思えば、直ぐコレだ。
うん。うるさい。
「ねぇ、先輩。わたしも仕事で近くまで来たんで、先輩の気配がする方に来てみたんですが何ですか、ここ。来るまでに何度ひやひやしたことか…胃がキュウゥッとしますよ!」
ふむ。お前もか。
ユートリスやキルソが普通に入ってるから、俺の感性の方がおかしいのかと思っていたところだ。ナイス。
「何がナイスですか。本当に大丈夫何ですか?先輩、お金持ちって訳でも無いでしょ?」
「そんなにヒソヒソ話さなくていいよ。俺はキルソを捜しに来ただけ。会計は全部、俺の同僚のユートリスが持っててくれている。キルソが今食べた「半身台パフェ」もユートリスの財布からだ」
ん?
瞳をキラキラさせながら俺を見つめられても…
「せ、せんぱ…い…」
くっ…
ユートリス程では無いにしろ、その胸のボタンを1つ外した…くらいじゃ…
俺は…ぉれは…
「っくあぁ!ダメなもんは駄目だ!今月は金を使いすぎた!」
うる目でもう1つのぼ、ボタンだと…
それと、エリーの少し赤らめた顔と相まって…
相まって…
「ぐはぁ…!分かった分かった。もうやめろ。今度収入が入ったらな」
ロココの顔がパァっと輝いた。分かりやすい奴だ。
まぁ、どうせその頃にはこんな口約束なんて忘れてるだろうしな。
「忘れませんよ?」
「あっ…」
心を読まれた。
「それじゃ、そろそろ…あっ…」
今度はロココが何かに気付いた様だ。
「せ、せんぱい。わたし、店の外で待ってますね。キルソちゃん、行こっ」
「あ…そっか…うん分かった…行こう…」
「ごめんね、先輩。また今度!」
「ちょっ…何?」
ロココが舌をちろっと出し、店の外へかけていった。
何だろう?
何で2人とも…
「あっ…」
くそっ…
ユートリスの野郎、やりやがった…
伝票、ここにあんじゃねぇか。
俺も心を読めるようになりたい…
金額は…はっ!
流石は19階…
今月は超貧乏生活になんじゃん…
次会ったら覚えとけよ…
そんなこんなで、ようやく兵舎への帰路に付くことが出来た俺だった。
まだ、兵舎にまで帰る帰路にすら、付いてませんね…
もう少ししたら帰路に付くとおもいます…