表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな世界を知らなくて

あなたの世界を知りたい

作者: 春乃 凪那

「すごくいい人たちばかりですね」


翌日、いつものカフェで諒太さんと会うことになった。平日の午後二時は、丁度お昼時を過ぎて空いている。この時間が一番好きだ。


「そうだろ。なんてったって半分は俺が選んだんだから」


諒太さんは自信満々だ。こんな人だから、みんながついてこれるんだろう。


「誰かに囲まれている状況で、そんな場所で安心できるってなかなかできないですよ」


羨ましい。黙っている諒太さんを不審に思い、じっと見つめていたけれど、諒太さんはしばらくどこか一点を見つめていた。


「千佳ちゃん、千佳ちゃんは普段どんなことしてるの?」


諒太さんは、一瞬真剣な表情で何か言おうとしていたけれど、すぐにいつもの表情に戻った。


「あたしは、あたしはただ」


息を殺している。学校でも、家でも、息を殺して過ごしている。


「いえ、特別言えるようなことはしていません」


胸が締め付けられた気がした。


「そっか、まあじゃあさ、これからはカフェ開業に向けて新しいことがたくさんできるね」


諒太さんに、言いたい。


あたしの全てを吐き出したい。


苦しみを吐き出したい。


だけどこの人に言ってどうなる?離れてしまうかもしれない。だって、彼はただカフェ開業を手伝う人材が欲しかっただけなのだから。


「千佳ちゃん、今回はカフェ開業で集まってもらったけど、俺は皆で色んなことをしたいと思ってる。サークルじゃないけどさ、皆仲間だから色んなこと共有したいんだ」


この人、すごいな。


「あたし、家に帰るのが嫌で、毎日あのカフェにいました。ただ時間を潰したくて、だからあの日も勉強しているフリをしていただけで、すみません」


「ああ、うん。知ってたよ」


彼はあたしの言葉に気まずそうに答えた。


「俺、ずっと見てたから。だから君に声をかけたんだ」


わからない。どうしてなの?


「あたしは、きっとすぐ、いらなくなると思います」


きっとすぐ邪魔になる。あたしはいつだって弾かれる。だから、もうわかっていたから、誰かと共にいることを止めた。そういう運命だから。


「千佳ちゃん、何があったのか知らないけれど、君がそういう考えだからそうなるんだよ」


諒太さんは真剣な顔で、強く言ってくる。少し怒っているようにも見える。


「過去に何かあって、それが辛いのはわかる。だからってそうならない未来を信じなくてどうする? 俺たちは君をいらないなんて言わない。俺が選んだんだ。君と一緒に楽しいことをしていきたいって選んだんだ! だからそんなこと言うんじゃねえ!」


周りのお客さんたちが、何事かとあたしたちを見つめている。それに気づいたらしく、諒太さんは俯いてしまった。


こんなに感情的に、あたしのために・・・。


「どうして? どうしてそんな風に思えるの? どうしてあたしなんかのためにそんなこと言えるんですか? 諒太さんは何がしたいんですか? わからない。あたしには理解できません」


俯いていた諒太さんは、あたしの言葉を聞いてまっすぐに見つめてくれた。


「そうか。なら、俺たちと一緒にいろ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでてすごく楽しかったです
2016/12/31 16:26 ペンちゃん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ