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前略 異世界より  作者: 柊 葵
第二章 新しい仲間とともに
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第二節 山に棲む影

 次の日の朝。

 しりとりをしながら、やっと目標とする山の麓までたどり着いた。

 ここまで飽きもせずにしりとりができたのが少しすごいと思う。

 そんなことを思いつつ、行く先の山を見据える。


「マジでこれ越えるのか……」


 山は麓こそ森のように草木が生い茂っているが、標高が高くなるにつれ、白っぽい岩肌があらわになっていた。

 山頂は時折、雲に隠れるほどの高さにあった。

 あまりの高さに、少し顔が引きつってしまう。

 浮かれていたセリカも、口をあけながら立ち尽くしていた。


 そんな自分達とは打って変わって、わがまま女神は目を光らせている。

 嫌な予感が…と思っていると、リオは一人で森の中へと入っていった。


「あ、リオ。ちょっと待って‼」


 正気に戻ったセリカは、一人で行ってしまったリオを急いで追いかけた。


「どうしてそんなに登る気満々なんだよ……」


 そうぼやきながら、自分もセリカに続いた。


     ***


 森の中に踏み込んでいくと、何かが変わった。


 静寂。

 森の中は、まさにそれで包まれていた。

 森の中に入るまでは、風の音や鳥のさえずりなどが聞こえていた。

 一歩中に入ると、それらが聞こえることは無く、ただただ静寂が辺りを満たしていた。

 まだ木々の隙間から、光が漏れてくるのが救いだった。


「なんか気持ち悪いな……」


 不気味な静けさを感じつつも、何とかセリカ達の姿を探す。


「リオ、セリカ。どこだ?」


 山頂に向かっているであろうセリカ達を探しながらも、自分も山頂に向かって進んだ。


     ***


 一方、その頃。


 私はリオとの合流を果たしていた。


「リオ、勝手に先行っちゃだめでしょ?」


 そう言うと、リオはばつが悪そうにそっぽを向いた。


「悪かったわね。こういう山とか見ると、ワクワクしちゃうのよ」


 そう言いながら、リオはこちらへ振り返った。

 すると、リオが辺りを見回し始めた。


「あれ? ハルは?」


 私も辺りを見回してみる。

 今まで走ってきた道に姿は無く、もちろん行く先にも姿は無い。


「はぐれちゃったみたい……」

「まぁ、ハルのことだから、山頂に向かってバカみたいにまっすぐに歩いてるんでしょ。リオ、セリカ、どこだーとかって言いながらね」


 本当にハルが言っていそうだ。

 多分、途中の分かれ道を別の方向に行ってしまったのだろう。


「とりあえず、私達も山頂を目指すわよ」

「そうだね。向かってる途中でハルとも合流できそうだし、そうしようか」


 そして私達はハルを探しつつも、山頂に向けて歩き出した。


     ***


 歩き始めて数時間。


「二人ともどこ行ったんだよ……」


 自分の身体には、疲労がたまり始めていた。


 森に入ってきたばかりの時は、木々の隙間から空が見え、方角を判断することができた。

 しかし、奥に行くにつれ木々の葉が空を覆っていった。

 そして、辺りは薄闇と静寂で広がっていた。


「もう、どっちに行けばいいか分かんなくなってきたぞ? せめて光があればいいんだけど」


 そこまでつぶやいたところで、あることに気が付いた。

 地面に落ちていた手ごろな大きさの枯れ枝を手に取る。


「フレイム」


 詠唱に呼応するように、枝の先端が燃え出した。

 自作の松明で辺りを照らしてみる。

 辺りには多くの木々が生い茂っている。

 しかし、これだけでは近場しか照らされない。


「これじゃわからないな……」


 辺りを見回し、ちょうど登りやすそうな木を見つけた。

 一度、松明の火を消してからよじ登る。

 木の葉のカーテンを抜けて木の頂上にたどり着くと、太陽と青空が再び微笑んでくれた。


「案外、もうすぐそこだったんだな……」


 目指すべき山頂の方角を確認し、スルスルと木を降りた。

 木を降り終えると、近くの茂みがかすかに動き、何者かの気配を感じた。


「そこに誰かいるのか?」


 セリカ達がこんな風に隠れているわけがないと思いつつも、おそるおそる覗き込む。


 茂みの中にいたのは――。


「んー‼ んー‼」


 ――木の葉によって、口と手足が縛られたセリカとリオであった。


 慌ててセリカ達のそれを解く。


「ぷはー‼ 死ぬかと思った」


 縛っていたものが解け、セリカは一度大きく深呼吸をした。


「なんでこんな風になってたんだ?」


 セリカが申し訳なさそうに答えだした。


「それは……」


     ***


 三十分ほど前。


 セリカ達は森を抜け、山の四分の一ほどの所までやってきていた。


「思ったより、早く森を抜けたわね。このままのペースなら、あと三日くらいでセラムに着くわね」


 リオのその言葉に、私はほっと胸をなでおろした。

 そして山頂の方を見て、ふと違和感を感じた。


「こっちに転がってくるあれは何?」


 何かが山を転がって、私達に近づいていた。

 しかも一つではなく、五つ。

 それは転がってきたかと思うと大きく跳躍し、私達を囲む形で着地した。


「ご、ゴブリン⁉」


 転がってきていたのは、武装したゴブリンであった。

 ゴブリン達はじりじりと間合いを詰めてくる。

 その中で、一匹のゴブリンが口を開いた。


「今すぐにここから出ていけ。ここは俺達の縄張りだ。言うことを聞かないなら、力ずくでも出ていってもらう」


 そのゴブリンが指示をすると、ゴブリン達は森の方角の部分だけ守りを解いた。

 しかし、これも罠かもしれない。

 退避しようとする私たちを襲ってくるかもしれない。


「あくまで出ていかないという訳か……。では、無理やりにでも出ていってもらう‼」


 そして、ゴブリン達は一気に距離を詰めてきた。

 最初は対抗しようと試みたものの、多勢に無勢で抵抗することはできなかった。


 そして、捕らえられた私とリオは縛られ、森へと放り出された。


     ***


「なるほどね……」


 セリカの話を聞き、少し考える。


「リオ、セラムに行くにはこの山を越えるしかないんだよな?」

「えぇ、この山を越えないとセラムどころか、他の女神のいる町にも行けないわ」


 リオのその言葉を聞き、さらに考える。


「この山を越えないといけないってことは、セリカ達を捕まえたやつらと対峙しなきゃいけないってことだよな?」

「そういうことになるわね」

「ということは、俺達はそいつらをどうにかしてから進まないといけない訳だ」

「そうよ」


 珍しく、自分の中で結論を出すことができた。

 たまにはこうやって活躍することもできるのだと思う。

 しかし、二人は冷ややかな目線をこちらに注いでくる。

 いや、確かに当たり前のことかもしれないけどさ……。


「それならセリカ、これからひと暴れしなきゃいけないけど、準備は大丈夫か?」


 そう言いながら見つめると、セリカはふぅと息を吐きだした。


「いける‼」


 セリカがそう言ってくれたので、山頂へ向けて歩き出す。

 すぐに木々の数が少なくなり、森を抜けた。

 しばらく山道を登っていると、山頂の方から何かが転がってきた。

 数は五つ。


「あれか……」


 弓に矢をつがえ放つ。

 矢はゴブリンの身体にあたったが、転がる肉体に弾かれてしまった。


「やっぱり無理か……。セリカ、またさっきみたいに壁作れるか?」

「分かった‼」


 セリカは頼みに応じ、詠唱を開始してくれた。


「グランド・ウォール」


 突如、地面から土でできた壁が出現した。

 まるで分かっていたかのように、ゴブリン達は壁の前で大きく跳躍した。

 しかし、やはり想定外の出来事だったようで、ゴブリン達は勢いをなくし、思い通りの陣形を組めないようだ。

 体勢を立て直す前に、弓に二本の矢をつがえ同時に放つ。

 それぞれの矢がゴブリンに命中し、ゴブリンは金貨と化した。


 残り三体。


 体勢を立て直したゴブリン達は、腰に携えた短剣を取り出し構えた。


「私が‼」


 そう言うと、セリカは詠唱を開始した。


「ウォータ・ボール‼」


 巨大な水球がゴブリン達に迫る。

 ゴブリン達は両腕で顔を庇いながら、なんとか凌ごうとする。

 そんなゴブリン達の身体ごと、水の中に包まれる。

 それを確認し、セリカは再び詠唱を開始する。


「ウォータ・フリーズ‼」


 たった二言の単純な詠唱。

 しかし、このタイミングが絶大な効果をもたらした。

 ゴブリンを包んでいた水が一斉に凍った。

 両手で顔をかばっていたゴブリン達は、氷に閉じ込められた。


「これでとどめ‼」


 セリカはそう叫び、とどめの詠唱に取り掛かる。


「サンダー・ウェポン・アロー・シュート・トリプル‼」


 セリカの前に雷で出来た矢が出現し、ゴブリン達に向かって発射された。

 矢は次々とゴブリン達に突き刺さる。

 氷に閉ざされたゴブリン達は、叫び声も出すことかなわず金貨となった。

 対象を失った氷は、空気に解けていった。


「本当にすごいな」


 思わず声を漏らしてしまう。

 すごいという言葉では言い切れないと思う。


「これくらいなら、なんてことないよ」


 セリカはそう言いながら、こちらに向けニコッと笑ってきた。

 その笑みは照れ隠しなのだろうが、自分にとっては恐怖を秘めた笑みに見えた。

 もし、自分に向けられた時のことなんて考えたくもない。

 日も暮れてきたので、ここで野営することにした。

 たき火を起こし、三人でその火を囲む。

 セリカがスカシブから持ってきたパンをむしゃむしゃと頬張る。


「パンが美味しい……」

「本当よね‼」


 どこからあれほどのパンを出したのか、馬鹿が貪り食っている。


「本当にリオは食べ物を美味しそうに食べるね」


 セリカの言葉も無視して、リオは食べ続ける。

 これで三つ目だ。

 あんなにパンを持っているなら少しは分けてほしいが、そんなこと言ったら何されるか分からない。


 自分もパンを取り出してかじりつく。

 パンは羊乳から作られたバターの風味がほんのりと香っている。


 山頂までの道のりは、まだまだ長い。

 食事を終えると、翌日に備えて早めに眠りについた。

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