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前略 異世界より  作者: 柊 葵
第二章 新しい仲間とともに
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第一節 『しりとり』

 スカシブを出た自分達はリオを追いかける形で進む。


 セリカはガチガチに緊張しながら歩いている。


「なあ、リオ。今度はどこに行くんだ?」

「ここから南東にある、港町セラム。六女のヒュムがいる町よ」


 港町と聞き、辺りを見回してみるが、周りに海らしきものは見えない。


「なぁ、セリカ。海って、この近くにあるのか?」


 自分の何気ない言葉に、セリカはびくっと体を震わせた。


「あぁ、ごめん。びっくりさせた?」


 そう言われ、セリカは首を大きく横に振った。


「いえいえいえいえ‼ ビビビ、びっくりなんてして無いですよ‼」


 そんなセリカを見かねて、リオがため息をついた。


「ちょっとそんなにガチガチで大丈夫?」

「だだ、大丈夫です‼」


 セリカはそう言っているが、どことなく歩き方もぎこちなかった。


「で、何でしたっけ?」


 すでに周りを見渡し、先ほどの質問の答えはほぼわかっていた。

 あえてもう一度聞かなくても良かったが、緊張するセリカを見かねてもう一度聞いた。


「この近くに海ってあるのか?」

「海なんてこの辺りにはないですよ」

「そりゃそうだよな……」


 予想通りの答えを返され、自分は少し肩を落とした。

 おそるおそる、リオに聞いてみる。


「次の町まであとどれくらいかかるんだ?」

「今回も遠いわよ」


 そう言いながら、リオは遠くに見える山を指さした。


「これから一日かけて、あの山まで歩くわよ」


 リオのその言葉に、セリカの顔が少しこわばった。


「そしてどれくらいかかるか分からないけど、あの山を越えるの。あの山さえ越えられれば、セラムまですぐよ」


 リオの説明と指さす山までの長い道のりに、少し嫌になってくる。


「あの山を越えるとか、マジかよ……」


 その姿を見て、セリカが声を震わせながらも声をかけてきた。


「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫大丈夫。いつものことだから」


 自分が軽くそう言ったのに対して、セリカはゴクリと喉を鳴らした。


 初めての旅にセリカの緊張は頂点に達しているようで、セリカが緊張している様子は誰が見ても一目瞭然だった。


「仕方がないわね。気を紛らわすためにお互い自己紹介しときましょうか。スカシブではメルが急かすから、忘れてたしね」

「おぉ、そういえばしてなかったな」


 一行は町を出たばかりであったが、休憩がてら自己紹介を始めた。


「私の名前はリオ。こいつの監視をしてる女神よ」


 そう言いながら、リオは偉そうに胸を張る。


「リオも仕方がないんだから……」


 そう言いながら、自分も自己紹介を始めた。


「俺の名前はハル。一応、母さんを探して旅をしてるって感じかな。まぁ、まだ訳の分からないことばっかりだけどね」


 そう言いながら、照れ隠しに頭を掻いた。


「次はセリカの番だよ」


 そう言うと、黙りこくっていたセリカが突然喋りだした。


「あ、はい。えっと、セリカって言います。えっと、武器を扱うよりも、魔法が得意です。よろしくお願いします‼」


 セリカはそう言って、勢いよく頭を下げた。

 そして勢い余って、体勢を崩した。


「あわわわ……」


 セリカのそんな姿を見ながら、リオがつぶやいた。


「先が思いやられるわ……」

「リオ、そんなこと言ったらセリカが可哀想だよ」


 リオの言葉にセリカが傷つかないように、フォローを入れておく。

 しかし、体勢を立て直したセリカは黙り込んでしまった。


 一瞬、あたりを気まずい空気が満たす。


 この空気を何とかするべく、自分が沈黙を破った。


「えっと、さっき魔法が得意って言ってたけど、どんなのが使えるの?」

「魔法なら、水の魔法で氷の剣を作ったり、炎の魔法で矢を放ったりならできます」


 ぼそぼそとセリカが答えた。


 自分には氷の剣という単語ぐらいしか聞こえなかった。

 第一段階の魔法しか使ったことが無い自分にとっては、とてもすごく感じた。


「す、すごいじゃん‼ 俺なんて未だにフレイムとかサンダーとかしか使えないよ……」


 自分がそう言うと、緊張の糸が切れたかのようにセリカの顔が明るくなり、一気に話しだした。


「そ、そうなんですね‼ てっきりもっとすごい人なのかと思ってました。魔法で魔物を一瞬にして消しちゃったり、魔物をズババーンとものの見事に圧倒したり、とにかくすごい人だと思ってました」


 セリカのその言いように、自分の方が圧倒されていた。


「あはは……」


 セリカの変わりように、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「あぁ、ごめんなさい。こんな思いっきり失礼なこと言っちゃって」


 饒舌になったセリカがようやく口を噤むと、リオが口を開いた。


「まぁ、とにかく緊張が解けてよかったわ。さっさと行くわよ」


 束の間の休憩も終わり、自分達は再び山に向けて歩き出した。

 セリカは先程とは打って変わって、浮かれながら歩いている。


「そういえば、ハルさんは防具屋で新しい防具を買われたんですか? 見たところ、最初に会った時と変わらないような気がしますけど」


 セリカの言う通りだ。

 自分の格好は、セリカと初めて会った時と何一つ変わっていない。


「買わなかった」


 自分がそう言うと、セリカは途端に歩き方がぎこちなくなった。


「買えなかった訳ではないけど、まだ必要ないかなと思ったんだよ」


 そう言った瞬間、セリカが深く安堵の息を吐いた。

 多分、金貨を分けてなかった事を気にしていたんだろう。


「まぁ、もう少しお金があったら買おうかと思ったけど……」


 セリカの動きがピタッと止まった。

 詳しく話を聞くと、セリカは手持ちのお金を使い果たしていた。

 もちろん、自分に分けるべきお金も例外ではなかった。


「まぁ、防具なんてなくても、こいつがあればやっていけるでしょ」


 気を落とすセリカを慰めるためにも、空へ向けて矢を放った。

 少し矢がもったいないとは思ったが、気を落とされるよりかはマシだろう。


     ***


 そんな話をしながら、しばらく山に向けて歩いていた。


「このただただ歩いてる時間が暇なんだよな……」


 そう言いながら、自分はただただ茫然と歩いていた。

 もう少し、面白いことがあればなぁ……。


「それなら、ハルさんは『しりとり』って知ってます?」

「お、セリカはしりとり知ってるの?」


 以前、自分はリオにしりとりをしようと持ち掛けたが、そんなの知らないと断られていた。

 まさか、セリカが知っているとは思ってもみなかった。


「知ってるも何も、子供のころに親とよくやっていました」

「やっぱりそうだよね」


 やっと遊び相手ができたと思うと、どうしても気分が高揚する。


「私はそんなの知らないわよ」


 リオが反発したところを見ると、もしかして……。


「さては、本当はやりたかったんだろ?」


 そう言うと、リオはとっさに反論した。


「そんな遊びは知らなかったし、誰もやりたくないだなんて言ってないじゃない」


 そう言いながら、リオはぷりぷり怒っている。

 こういうところは可愛いと思うんだけどな……。


「はいはい、んじゃ教えてあげるよ」


 そう言い終わると同時に、リオが面倒臭そうに話しだした。


「あぁ、そういう風に理屈とかを教えられるのは好きじゃないから、試しにやってくれればいいわよ」


 そう言いながら、リオは自分の肩に座った。


「んじゃ、やろうか」


 自分がそう言うと、セリカが我先にと宣言した。


「しりとり‼」

「えぇ…そんないきなり先取るなんてずるいよ」


 先攻を取られて、少し不満に感じた。

 自分の得意戦法は通称リ攻め。

 最後にリをつけた言葉を返し続けることで、同じ言葉を言わせるという戦略だ。

 これは先攻になると、さらにやりやすくなるのだが……。


「いいじゃないですか。それよりも、リですよ」


 呆れながらも、自分も宣言した。


「りんご」


 りんごとは果物の一種で、熟して赤くなった状態を食されることが多い。

 『りんご』に続き、セリカが宣言した。


「ごま」


 ごまとは植物の名前で、一般的に種が食される。


 次は自分の番だったが、リオが我先にと宣言してしまった。


「マンティス。この答えで合ってる?」


 リオがそう訊くと、セリカがうんと頷いた。


「すごいね、リオちゃん。すぐにできるようになっちゃった」


 セリカがそう言うと、リオは身震いをした。


「やめてよ、リオちゃんだなんて。リオでいいわよ、リオで」

「わかった‼ これからリオって呼ぶね。それで、リオに聞きたいんだけど、マンティスって何?」

「マンティスっていうのは手が大きい鎌になってる魔物の名前よ」


 そう言いながら、リオがマンティスという魔物の真似をした。

 上半身を前に突き出し、手を鎌のように曲げ、前歯を思いっきり突き出している。

 マンティスの姿が気になるというよりも、リオの真似する姿があまりにも面白すぎた。

 笑いが止まらず、リオと目が合う度にまた笑いだしてしまう。

 セリカも同じようで、必死に笑うのを堪えている。


「ちょっと、なんで笑うのよ‼ 本当に恐ろしいやつなのよ?」


 そう言って、リオは真似をやめてしまった。

 残念だ……。


「ふぅ…次はハルさんの番ですよ?」

「おう、そうだな」


 次の答えを考えると、真っ先にスシンが思い当たった。

 スシンと答えたのでは負けてしまう。

 しかし、スシから始まる単語で別の何かがあったような……。

 


「すし、すし……」

「あ、ハルさん‼」


 セリカが突然叫んできた。


「すし、んぅぅぅううう⁉」


 気付くと、自分の身体は宙を舞っていた。

 どうもスシンに轢かれたようだ。

 自分を引いたスシンを見ると、背中に見覚えのある矢が刺さっていた。


 ――あの矢、当たってたのかよ。


 そして、スシンと宣言した自分の負けが決定した。


     ***


「結構飛んでいったわね」


 リオはそう言いながら、こちらに近づいてくる。


「あんな勢いでぶつかられたら、普通ひとたまりもないですよ‼」


 セリカもこちらへと駆けつけてきた。


 スシンは自分を轢いてもまだ気が済まないようで、こっちに向けてもう一度突進しようと体勢を整えている。


 こちらへセリカ達が駆けつけると、まずリオが声をかけてきた。


「あんた、大丈夫?」

「いたたた、これくらいなら大丈夫」


 自分の体が丈夫なのか、なぜだかそこまで痛みはなかった。

 自分が無事だったのがそんなに驚いたのか、セリカは目を見張った。


「だ、大丈夫なんですか?」

「あぁ、これくらいならへーきへーき」


 そう言いながら、自分は反撃するべく立ち上がった。


「よくも俺を轢きやがったな?」


 顔に笑みを浮かばせながら、弓でスシンを狙う。

 スシンの眉間に照準を合わせる。

 体勢を整えたスシンが、こちらに向けて突進を開始した。

 それに合わせて、矢を放つ。

 突進しているスシンの眉間に矢が迫る。


 刹那、スシンはその矢を避けた。


「マジか‼」


 それを見かねて、セリカが詠唱を開始した。


「グランド・ウォール‼」


 セリカがそう唱えると、目の前に大きな土の壁が出現した。


「うお、すっげ」


 思わず驚きの声を上げてしまった自分を横目に、セリカはスシンの様子を伺っていた。


 ズゴンという音と共に、地面がグラグラと揺れる。

 その音が聞こえたのを確認し、セリカが意識を切ると、土の壁が地面へと戻った。

 姿を現したスシンは、勢いを失って立ち往生していた。


「フレイム・ウェポン・アロー・シュート」


 続けてセリカが詠唱すると、炎で出来た矢が出現し、スシンへと向かっていく。

 矢はスシンにあたり、身体を焦がしていく。


「ブヒィィイイイ」


 スシンの身体は真っ黒に焦げた後、金貨と化した。


「すごい……」


 自分はずっと立ち尽くすことしかできなかった。


「どうですか、ハルさん。すごくないですか?」


 セリカは満面の笑みで、こちらに尋ねてきた。


「すごいよ。俺には真似できない」


 そう言うと、セリカは恥ずかしそうに頬をかいた。


「そういえば、ハルさん。身体大丈夫ですか?」

「あぁ、なんでか分からないけど大丈夫」

「それは、あのスシンが擬態状態だったからよ」


 リオがそう言うと、セリカは何となく理解できたようだが、自分はすぐに理解できなかった。


「ぎたいなんとかってなんだ?」


 リオはため息混じりに答えてくれた。


「さっきのスシンは前に戦ったのとはちょっと違うのよ。今回のは、地面と同じような色をしてたでしょ? あの状態のスシンは通常よりも素早い代わりに、そんなに力は強くないのよ」

「なるほどな……」


 そこまで言われて、やっと納得できた。

 言葉って、難しいと思う。


「とりあえず、金貨を回収してさっさと行くわよ」


 金貨を回収し、再び山へ向けて歩き出した。

 歩きながら、セリカに気になることを尋ねてみた。


「そういえば、さっきのしりとりの続きは?」

「ハルさんの負けですよ。スシンゥって言いましたからね」


 セリカはそう言いながら笑いだした。


「マジか……。んじゃ、もう一回やろう」

「そうですね、あれはハプニングでしたし」


 セリカがそう答えるとほぼ同時に、リオが声をあげた。


「それじゃ、今度は私からね‼」

「ちょ、ちょっと待って」


 リオの発言を少し止める。


「なによ、なんか文句でもあるの?」


 リオが不満そうに怒った。


「いや、そういう訳じゃないんだ。ただセリカに敬語を使われるのが、なんだか申し訳ないからさ……。普通に話してくれればいいってことが言いたかった」

「わかった‼ これからよろしくね。ハル、リオ‼」


 そして一行はしりとりをしながら山に向かって進んだ。

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