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前略 異世界より  作者: 柊 葵
第二章 新しい仲間とともに
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第四節 ヴァンパイアの住む町

 港町セラム。

 その町の全貌を眺めながら、自分達は山を下っていた。

 ぎこちない体を動かし、軽く腕を伸ばした。


「それにしても、さっきの魔物すごかったな」

「まさか、魔法を使ってくるとは思わなかったよ……」


 セリカは頭を掻きながら続いた。


 ウォータ。

 確かにサイクロプスはそう唱え、実際に水が出現した。


 つまり、魔物も魔法が使えるってことだよな……。


「確かに、魔法が使える魔物は数が少ないから、知らないのも当然よ」


 服に潜っていたリオが飛び出し、軽くそう言った。


「知ってたなら教えてくれよ……」


 そう言いながらも、諦めの表情を浮かべる。


 ――まぁ、どうせ忘れてたんだろうな。


 それよりも気になるのが、サイクロプスの最後の一言。


『人間、どうしてだ? どうしてそこまで我らのことを嫌う?』


 まるで魔物は人間が敵ではないと思っているような……。

 いや、魔物は確かに街を襲うような気が知れないやつらだ。

 きっとあれも何かしらの罠だったのだろう。


 ふと、行く先にある町に目を向ける。

 街は海に面しており、その浜に半円の街がくっついている。

 そして、ちょうど円の中心に大きな港が見える。

 港には、何隻か船も停泊しているようだ。

 しかし、そんな港より目を引かれるのが、港より少し手前にある大きな豪邸。

 丁度、町としての中心の位置にその豪邸は建っていた。


「なぁ、リオ。 次に会わなきゃいけないやつって、あのでっかい家にいるのか?」

「確か、あの家にいるはずよ」


 思った通りの返答に、ため息をつくことしかできない。

 セリカも自分と同じようで、街に目を向けていた。


「それにしても大きい家だね……。 何人住んでるんだろ?」

「二人よ」


 リオはそう言って嘲笑した。


「二人? あのでっかい家に二人しか住んでないのか?」


 驚きを隠せず、思わず立ち止まってしまった。

 どう考えてもあの大きさなら、十人以上は住んでいるはず……。


「驚きすぎよ。 私の知っている限り、あそこにはヒュムとあともう一人。 ジーク=レブルが住んでいるわ」


「じく……なんだって?」


 長ったらしい名前に、思わず聞き返してしまう。


「ジーク=レブルよ。 レブル家の一人息子で、もう両親は亡くなってるわ」

「よくそんなこと知ってるな」

「ジークとは昔からの縁だからね」


 リオはそう言うと、空を見上げた。


「普通の人間だったら、私たちとは関係の無い生活が送れたんでしょうね」

「それって、その人が普通の人間じゃないってこと?」


 そう言いながら、セリカは思い出したかのように歩みを進めた。

 一度止めた足を再び動かし、山を下っていく。


「ジークはヴァンパイアに噛まれたのよ」


 空を飛ぶのが億劫になったのか、リオが肩に座ってきた。


「そのヴァンパイアっていうのはなんだ?」

「ヴァンパイアって言うのは、魔物の中でも上位の存在。 噛まれると闇の魔法の力でヴァンパイアへと変化させられるの」


 よく分からなくなってきた……。


 諦めて、空返事を返す。

 代わりにセリカが話してくれた。


「でも魔物って、最近出てくるようになったんじゃないの?」


 リオはセリカの質問に、少し顔をしかめた。


「確かに、本格的に魔物が出てきだしたのは最近よ。 それまではたとえ魔物が人間界に現れても、私達が残らず倒していたわ。 でも、悪魔たちが試験的に召喚したヴァンパイアは私達の隙をついて、ある男の子を手にかけたの」

「それが、ジーク=レブル…さん……」


 セリカの言葉にリオが頷く。


「ジークはその時にヴァンパイアになったの。 しかも大元のヴァンパイアは、あろうことか悪魔が悪魔界に連れ戻してしまったの。 だから、ヴァンパイアの魔法を解くこともできなくなってしまったの」

「なるほど……」


 セリカはそこまで聞いて、こちらに向けていた顔を街の方へと向けた。


「悪魔界からもう一度同じヴァンパイアが来ない限り、その人はヴァンパイアのままなのね」

「そういうこと。だから不死になったジークは、私達とたまに連絡を取ってたの」

「そう言う事ね。 なんとなく分かって――」


 セリカはそこで口を止めた。

 いや、止めたというより止まってしまったという方が正しい。


 セリカの目線を追うと、何かが街に向け飛んでいた。

 それも一匹ではない。

 軽く百は越えるほどの黒い何か。


 黒の大群は街にたどり着くと、急降下していった。


「あれはキースの群れね……」。

「キース?」


 また聞いたことの無い名前が出てきた


「簡単に言えば、コウモリに似た魔物よ。 ヴァンパイアの変身した姿でもあるわ」

「って言う事は、魔物が街に入っていったってこと?」


 少し焦りながらセリカが聞くと、笑いながらリオが首を横に振った。


「多分、ジークが散歩から帰ってきたのよ」

「なんだよ、紛らわしい」

「さぁ、とっとと行くわよ。 未だにヴァンパイアが残る街、セラムへ」



     *****



 山でキースの群れを目撃してから半日程経って、ようやく街へと到達した。

 街のあちらこちらから、行商人の景気のいい声が飛び交う。


 もう夜だというのに、この街の人はいつ眠っているんだろう……。


 そう思いながら、鉛のように重い身体を引きずる。


「もう疲れた。 早く寝ようぜ」

「いや、まずはヒュム達のところに行くわよ」


 リオはこちらを気遣うことなく、また一人で街を進む。


「リオ? 少しは待ってくれよ……」


 呼び止めると、振り向いて一言。


「じゃあ先に行ってるわね」


 気づいた時には、リオはもう見えなくなっていた。

 セリカの方を見ると、周りに目を輝かせていた。


 そういえば、セイリル以外の街は初めてなんだっけ……。


「セリカ、とりあえず――」

「とりあえず、あそこから行こ?」


 そう言われ、勢いよく腕を引っ張られる。


 ――出会った頃の大人しさはどこへ。



     *****



 一足早く屋敷についたリオは、改めて屋敷を見上げる。


「本当に、無駄にでかいわね……」


 軽く皮肉ったリオは、屋敷の入口へと向かう。

 入口にはこちらが訪問することを既に知っていたかのように、屋敷の主が待ち構えていた。


「いらっしゃい、リオ。 長旅、お疲れ様」


 金髪に碧眼、少しきつめの目だけど、どこか優しさを残す好印象の青年。


 その変わった服装さえ除けば。


 薄い白の生地で出来た半袖の服と、分厚い群青色の生地で出来たズボン。

 ズボンの方はところどころ穴が開いている。


 リオがじろじろ見ているのに気づいたのか、ジークはため息をついた。


「僕の服装は趣味なんだ。 放っておいてくれよ……」


 ジークはそう言いながらも、リオを招き入れるために屋敷の扉を開けた。


「まぁ、とりあえず中で話そう」

「そうね、お邪魔するわ。 ヒュムは中にいる?」

「いるよ。 リビングで待ってる」


 招き入れられ、リオは屋敷の中へと入っていった。



     *****



「次はどこに行くんだよ……」


 防具屋に武器屋、道具屋に食堂を巡りもうヘトヘトだった。

 既にサイクロプスなどで手に入れた金貨は、全て使い果たしていた。


「武器も防具も全部新しくなったし、道具もちゃんと用意したし、次は屋敷に行こう」


 ――やっとか。


 そう思い、意識を屋敷へと向ける。


 リオ、待たせて怒ってるだろうな……。


 ふと、屋敷の方向から誰かがこちらに歩いてくるのに気づいた。

 その服装は周りの人々とは全く違っていたが、なぜか浮くこともなくとても不思議な雰囲気を漂わせていた。


「君達がハル君とセリカちゃんだね。 屋敷でリオが待ってるよ」


 不思議な男はそう言うと、屋敷の方向へと背中を押してきた。


「あ、あなたは誰ですか?」

「僕は今は無きレブル家の長男、ジーク。 ジーク=レブル」


 セリカの問いに答えつつも、ぐいぐいと屋敷の方へと向かう。


「詳しい話は屋敷の中で話すから。 ほら、急いで急いで」


 ジークに押されるがまま、屋敷へと向かった。



     *****



 ジークに押されるがまま、屋敷の前へとたどり着いた。

 満天の夜空にそびえたっている屋敷は、目を凝らさなければ見えない程夜の闇に紛れ込んでいた。


「ヒュムはまた外灯を点けるの忘れてるな? まったく……」


 ジークが指を鳴らすと、ジークの人差し指に火が灯り、屋敷中の外灯に飛び移った。


「す、すごい……」

「あはは、こんな事すごくもないよ」


 そう言って、ジークは頭を掻いて見せた。


「どうやって付けたんですか? 魔法を詠唱したようにも見えませんでしたし……」


 セリカが目を輝かせながら、ジークにグイッと近づく。


「そんなに必死にならなくても教えるよ。 僕は魔法を使ったんだよ」

「でも、詠唱してるようには見えませんでしたよ?」

「いや、ちゃんと詠唱したよ。 口を動かさず、小さな声でね」


 ジークがもう一度指を鳴らすと、今度は水が出現した。


「なるほど。 詠唱している声を指の鳴らす音で、聞こえにくくしているんですね」

「よく分かったね。 まぁ、後で詳しく教えてあげるね」


 ――なるほど、分からない。


 心の中でそう思いつつ、入口へと向かうジークに続いた。



     *****



 屋敷へ入って、思わず一言。


「なんだ、これ……」


 暗かった外観とは裏腹に、内装はとても明るい。

 明るさの原因は、単に天井からつるされた巨大な燭台だけではない。

 部屋中に存在する金銀の物品が、橙色の光を反射させ輝いている。


「どう? すごいでしょ。 まぁ、ここは僕の趣味じゃないんだけどね」


 ジークはそう言いつつ、エントランスを抱くような形で存在する階段を上り、扉の奥へと進む。


 扉の奥には、これまた異様な光景が広がっていた。

 白を灯す天井の光、黒皮のソファー、木組みで出来たガラスのテーブル。


 あまりの変貌の激しさに、振り向く。

 扉の奥は相変らず、橙の光が包んでいる。


 とりあえず視線を戻すと、ソファーにリオと少女が座っていた。

 リオたちに続き、ジークとセリカが座り、自分も続く。


 身体が軽く沈み込み、疲れた身体に安らぎをもたらす。


「この部屋は僕好みに色々と改造したんだよ。 結構大変だったんだよ、特にこの照明」


 そう言いつつ、ジークが背もたれに手を回す。


「この照明は、海で稀にとれる鉱石を使ってるんだ。 この鉱石がね――」


 饒舌になるジークを隣の少女が思いっきり叩いた。


「ジーク、ハル様達は長旅で疲れてるの。 少し黙ってなさい」


 そう言われ、ジークが一回り小さくなる。


「失礼しました。 私が女神ヒュム、こっちのどうしようもないのがジークです」


 ヒュムがこちらへとお辞儀をしてきた。


「こんな時間まで何してたのよ」


 その隣にいるリオはぷりぷり怒っている。


「お姉さまとも打ち解けているみたいで何よりです。 さて、さっそく本題ですが……」

「船の手配ね」


 ――船?


「鍵開けの力じゃないのか?」


 なぜか、リオが呆れ顔でこちらを見てくる。


「鍵開けの力なんていつでも渡せるわよ。 それよりも一刻を争うのは、次の街へと向かうための船の手配よ」

「そう、このセラムからエラのいるネイデルに向かう船なんですが……」


 一気にヒュムの顔に影が落ちた。


「道中の海にクラーケンが出現してしまっているんです」

「クラーケンって言うのは、海の三大魔物と言われる中の一体で他の魔物と比べ物にならない強さを誇るの」

「ハル様達には、そのクラーケンを撃退していただくしかないのです」


 ここまで聞いて、頭の中にあるのは疑問符のみだった。

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