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前略 異世界より  作者: 柊 葵
第二章 新しい仲間とともに
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第三節 ゴブリン達の強襲

 眠りから覚めると、朝日が輝いていて心地よい風が吹いていた。

 セリカとリオは既に起きていたようで、朝食の準備に取り掛かっていた。


「あ、おはよう」


 声をかけてきたセリカはウサギ肉を焼いていた。


「そのウサギ、どこから獲ってきたんだ?」

「森の中にいたよ」


 森の中を覗いてみる。

 森の中は変わらず、静寂に包まれていた。

 本当にウサギがこんな森にいるのだろうか……。


「この森、ウサギなんかいるのか?」

「この森は静かだけど、動物はちゃんといたよ」


 セリカは朝食の準備をしながら淡々と答えた。

 その横でリオはパンを食べていた。

 また、貴重な食料を……。


「リオ、俺達のパンまで食べるなよ? 数少ないんだから」


 リオはもぐもぐとパンを食べ続けている。

 その横にあるのは…だめだ、あれはどう見ても自分のものだ。

 さらば、我がパンよ……。


「大丈夫だよ。ウサギが朝食の分抜いても、あと六匹いるから」


 セリカはそう言って、ウサギを見せつけてきた。

 ウサギは植物の蔓で縛られていて、六匹のウサギが束ねられていた。

 いや、パンが食べたいから言っているんだが……。


「まぁ、それで足りればいいけどね……」


 そう言いつつ、山頂の方に目を向ける。

 頂上への道のりは今までとは違い、草木が一切生えておらず、岩肌がむき出しになっていた。

 あまりの遠さに、ため息がついつい出てしまう。


「お肉焼けたよ」


 そう言って、セリカが焼きあがったウサギ肉を渡してくれた。


「お、ありがと」


 ウサギ肉を口いっぱいに頬張る。

 調味料が何もかけられてないため、あまり味は無かった。

 やっぱりパンの方が美味しい。

 セリカも自分に続き、肉を頬張る。

 

 セリカは食べながら、リオに聞いた。


「リオ、頂上まであとどれくらいかかるか分かる?」


 リオはパンを食べながら答えた。


「頂上までなら、今日中に着くと思うわよ」

「それなら頑張らないと……」


 そう言いながら、セリカはさらに肉を頬張った。


 二匹目を食べようかと思ったところで、どうも地面が揺れているような気がした。

 辺りを見回してみると、再びゴブリンが転がってきていた。

 今度は六体か……。


 二匹目はやめて戦闘態勢に入る。

 その様子を見て気が付いたのか、セリカも急いで戦闘態勢に入る。

 リオは自分の服の中に隠れた。


 ゴブリン達は勢いを緩め、間合いを図ったのか少し離れた所で立ち上がった。


「見張りのやつらがいないと思って見に来たら、お前らの仕業か……」


 一匹のゴブリンが短剣を構え、他のゴブリン達も短剣を引き抜いた。

 一瞬の間の後、二体のゴブリンがこちらに襲い掛かってきた。

 自分は矢を放ち、セリカは詠唱を開始する。

 しかし、ゴブリンの攻撃に矢は弾かれ、セリカは詠唱が間に合わないようだ。

 ゴブリンの剣が迫る。

 それぞれ横に跳んだ結果、背中合わせになってしまった。

 五体のゴブリンが囲んでくる。

 弓の間合いにしては近すぎるうえ、第三段階以上の詠唱は間に合わないだろう。


「どうする? このままだとやばいぞ……」

「……ハル、その短剣で戦える?」


 すっかり忘れていたが、自分の腰にはゼネ達から貰った短剣がぶら下がっている。


「こいつ、か……」


 短剣を引き抜いて構えてみる。

 構え方はよく分からないが、自分の持ちやすいように構えてみる。


「お? そんな構えで俺達と渡り合おうっていうのか? おもしれぇ」


 短剣を握る手に力がこもる。

 背中越しにセリカが声をかける。


「かわしながらでも、援護くらいならできるから」

「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇよ‼」


 一匹のゴブリンがこちらに迫る。

 刹那、セリカは小さく詠唱した。


「フレイム」


 短剣が熱を帯びて燃えだした。

 ゴブリン達が迫ると同時にセリカが思いっきりしゃがんだ。

 身体を思い切り捻り、薙ぎ払った。

 短剣から噴き出す炎は刀身を飛び出し、大きな剣のようになっていた。


 突撃したゴブリンはもちろん、横にいたゴブリンにもあたり、合計で四体のゴブリンが炎に包まれた。

 剣が勢いを失うと、炎は再び短剣の元へと戻ってきた。

 ゴブリン達は、声にならない声を上げながら、倒れて金貨になった。

 残り二体。

 一瞬の間に仲間がやられたのに驚きながらも、体勢を整えている。

 セリカはその隙を逃さなかった。


「サンダー‼」


 セリカの右手から発せられた雷が、二体のゴブリンを打ち抜いた。

 ゴブリン達が金貨と化している中で、一体だけは胴体に穴を空けながらも、こちらに向かってくる。

 しかし、こちらに数歩近づいたところで倒れ、金貨と化した。


「ふぅ……」


 セリカが大きく息を吐きだすと、短剣に宿っていた炎が消えた。


「いやぁ、危なかった」


 短剣を鞘に納め、額の汗を服の袖で拭う。


「本当に危なかったよ‼ 少しでもしゃがむのが遅れたら、私にも当たるところだったじゃん‼」


 セリカが怒りながら迫ってくる。


「ごめんごめん、次は気をつけるから……」


 気付かれないように、少しずつ後退る。


「まったくもう…次やったら本当に怒るからね?」


 そう言って、セリカはため息をついた。

 リオは服の中から顔を覗かせると、少し辺りを警戒した後、服から飛び出した。


「あのゴブリン達の様子だと、他にもまだいるわね」

「それじゃ、進むのも大変だね」


 金貨を拾いながら、楽に進む方法を考える。


「さっきの火のやつで、転がってくるゴブリンを切ればいいんじゃない?」

「確かにあれなら簡単に倒せそうだけど、あれ結構維持するの大変なんだよ?」


 セリカはそう言って、そっぽを向いてしまった。


「それでも頼むよ‼」

「それなら自分でやってよ。『フレイム』くらい唱えられるんでしょ?」


 セリカが冷静にそう答えた。


「そっか‼ 俺一人で出来るのか……」


 自分一人であれができると思うと、顔がにやけて仕方がない。


「とりあえず、先に進むわよ」


 そう言って、リオはまた一人で頂上の方へと向かってしまった。


「まぁ、行くしかないよね……」

「そうだな」


 自分達もリオに続いた。


     ***


 一時間ほど山を登った頃、また頂上の方から二体のゴブリンが転がってきた。

 腰に携えた短剣を右手で引き抜き、左手を剣に向けて詠唱する。


「フレイム」


 期待した通り、短剣が炎に包まれる。

 試しに炎剣を思いっきり薙ぎ払った。

 しかし、短剣の長さは変わらず、短剣は空を切った。


「剣が伸びるようにイメージしなきゃだめだよ」


 こちらの様子を見かねて、セリカが助言してくれた。

 そうこうしている間にもゴブリン達が迫ってくる。

 落ち着いて、もう一度ゴブリン達を薙ぎ払う。


 ――伸びろ‼


 そう念じると、どんどん炎剣が伸び、ついにゴブリン達をとらえた。


 ゴブリン達も気が付き、跳ねてかわそうとするが間に合わず、燃える短剣の餌食となった。

 ゴブリン達の身体は燃え尽き、金貨と化した。


「こんな感じか……。結構難しいな、これ」

「分かった? 二つ同時にやるのとかどれだけ大変か……」


 セリカはだるそうにそう言った。


「やっぱり、セリカはすごいよ」

「確かに、簡単に二つ同時に詠唱できるのはすごいわよ」


 リオが服の中からひょこっと顔を出した。

 不意に褒められ、セリカが頬を赤らめた。


「べ、別に私からしたらあんなのどうってことないけど、やっぱりつらいから手伝って欲しいっていうか、って……」


 セリカはさらに顔を赤らめ、耳まで真っ赤になった。


「と、とりあえず、これからは自分でやってね」


 セリカはそう言うと、そそくさと頂上へと向かった。


「分かったよ……」


 そう言いながら、リオのように勝手に行ってしまったセリカを追いかけた。


     ***


 それから、幾度かゴブリン達が襲い掛かってきたが、燃える短剣で薙ぎ払ってやった。

 そして、ひたすら山を登っていた。

 その中で、リオだけが服の中に入って楽をしている。

 いつか痛い目にあわせてやる……。


 ゴブリン達の強襲を凌ぐ方法も見つかり、迷うこともなかったからか、日が傾き始める頃には頂上まであと少しとなっていた。

 ふと振り向くと、雲が自分達よりも下にあることに気が付いた。


「すげぇ……」


 後ろを向いていると、後ろに続いていたセリカが少しため息をついた。


「景色を見るのはいいけど、頂上についてからにしようよ。もうすぐそこだし」


 言われた通り、再び頂上の方へと向くと、頂上の方に何かが立っていた。


「なんだ、あれ?」


 目を凝らすと、それがサイクロプスだということがわかった。

 しかし、以前戦ったサイクロプスよりも体が一回り大きく、大剣を一本背負っている。


「セリカ、やばい奴がいるぞ」


 小声でセリカに声をかけると、セリカもサイクロプスに気が付いたようだ。


 リオは既に服の中に潜っていた。


「とりあえず、ハルは今までみたいに戦ってくれればいいけど、何か嫌な予感がする」

「今までみたいに戦えばいいってことは…また切ればいいんだな?」


 なんだ、そんな簡単なことか……。

 思い切って、サイクロプスに突撃していく。

 サイクロプスもこちらに気付いたようだが、全く動じず、ただ一言。


「来たか」


 と言い放った。


「待って‼ ハル‼」


 セリカが急いで追いかけてくる。

 そんなに心配しなくても大丈夫だろ……。

 サイクロプスまであと少しとなったところで、短剣を引き抜き詠唱する。


「フレイム」


 炎が短剣を包む。

 そして、サイクロプスの首を吹き飛ばしてやろうと切りかかった。


「ウォォォォ‼」


 振り下ろした剣の炎が伸びていく。

 しかし、サイクロプスは炎剣に手を向け詠唱した。


「ウォータ‼」


 サイクロプスの手から水が飛び出し、剣の炎をかき消してしまった。


「マジか‼」


 そして、激流がこちらへ迫ってくる。

 身体が水で包まれていく。


「あが…ごぉ……」


 息ができず、水の中で必死にもがく。

 遅れて追いついてきたセリカが、慌てて詠唱した。


「サンダー・ウェポン・アロー・シュート‼」


 雷の矢が、サイクロプスの手に向かう。

 サイクロプスは水から意識を外し、矢を回避する。

 自分を包んでいた水が空気に解ける。

 身体が水から解放され、その場に倒れこむ。

 辛うじて意識はあるものの、身体が上手く動いてくれない。


「だから待ってって言ったのに……」


 セリカは倒れた自分に目立った傷がないことを確認し、サイクロプスに向き直る。


「お前も戦いを望むのか……」


 サイクロプスが大剣を構える。


 一瞬の間の後、セリカが詠唱を開始する。

 詠唱と同時にサイクロプスが間合いを詰める。


「サンダー・ウェポン・ナイフ・ツイン‼」


 セリカが何とか詠唱し終え、両手に雷で出来た短剣を握った。

 そして、セリカは大剣を二本の短剣で受け止めようと試みる。

 しかし、サイクロプスの攻撃の重さに、セリカは苦しくも後ろに跳んだ。

 その後、なぜかセリカは短剣を手放した。


「どうした? 降参か?」


 サイクロプスが少しずつセリカに迫る。

 しかし、サイクロプスの考えを裏切り、セリカは詠唱を開始した。


「グランド・ウォール・ドーム‼」


 地面から土が盛り上がり、壁のようなものがいくつかできたかと思うと、それらはサイクロプスを球状に囲み閉じ込めた。

 サイクロプスは中から出ようと、大剣を何度も打ち付けるがびくともしない。


 そしてセリカは再び詠唱した。


「フレイム・ウェポン・ソード‼」


 セリカの手に炎で出来た剣が握られた。

 セリカの詠唱が聞こえたのか、鈍い音が止んだ。


 そして、サイクロプスも詠唱した。


「フレイム‼」


 そして、セリカは炎の剣で薙ぎ払った。


 土で出来た球体はサイクロプスの魔法ではじけ飛んだ。

 しかし、そこへセリカの剣が衝突した。

 炎属性同士が打ち消し合うが、やはり力の差なのだろうか、セリカが押しているようだ。


「人間、どうしてだ‼ どうしてそこまで我らのことを嫌う‼」


 サイクロプスの炎も凄まじいものだが、セリカの炎に比べるとやはり弱い。


「ハァァアア‼」


 セリカの炎が一段と強くなり、サイクロプスの炎が一気に飲み込まれていく。


「クソォォオオ‼」


 サイクロプスの身体は炎に包まれ、ズシンという音と共に倒れ、金貨と化した。


 セリカは剣を手放し、倒れている自分に駆け寄ってきた。

 手放した剣は空気に解けていった。


「いい加減、起きろー‼」


 そんなに大声で呼ばなくても、起きてますよ……。

 あと、痛いから叩かないで欲しい。


「うぅ、ひどい目にあった」

「サイクロプスはもう倒したから、大丈夫」


 そう言って、セリカが金貨を見せつけてきた。


「知ってるよ。全部見てたからね。でも、俺が倒したかったなぁ……」


 セリカにくすっと笑われてしまった。

 身体が少し楽になり、やっとの思いで立ち上がった。


「さて、もう頂上はすぐそこだから向こうで休もう?」


 そして、自分達は頂上を向かった。

 頂上にたどり着くと、手ごろな石に座り込んだ。

 セリカも自分の隣に座った。

 雲の海の上に夕日が浮かんでいるように見えた。

 そしてその夕日はゆっくりと沈んでいった。


 翌日に備え、今日は頂上で休むことにした。

 昨晩同様、ウサギ肉を焼いて食べる。

 やはり、味は何もしなかった。

 何か味付けが欲しいな……。


 そして翌日、セラム方面へ下山を開始した。

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