メロディメイカー
たまに、考えてしまう。
俺は、ここにいていいのか。いる意味、あるのか。
そうやって自問自答して、しゃべるのが怖くなるんだ。ギターを持つ手が、ふるえるときだってある。
俺のポジションって、他の誰でも代えがきくんじゃねぇかって。
そう思うと、怖いんだ。
「新しいの、できた、ケド」
上邨桂月。ボーカル、たまにキーボード。
「お、カヅキちゃん仕事はっやーいっ」
賀庄峻一。ドラム。盛り上げ役。
「へぇ……今回の曲、誰だったっけ?」
時任潤。ベース。客寄せ。
「そーいや、新曲作るなんて聞いてねーぞ」
遠山匡人。ギター。アレンジ好き。
「俺がいったんだ、そろそろなんか作らないかって。今回はカヅキがやったのか?」
そして俺、中尾雄亮。ギター。
「まあ……そんなとこ。どうする?」
「どうするって、そりゃやっぱ聞くっしょ! なぁ、ユースケ?」
シュンが嬉しそうに笑う。こいつはホント、好きだよなぁ、音楽が。俺は曖昧に、返事をした。あぁとか、うんとか、肯定に聞こえるだろう返事。
確かに、カヅキにそろそろ作りたいよなっていったのは俺だ。でもそれはただの願望で、作ろうっていつものようにみんなで決めたわけじゃない。だから、俺も誰が曲つけたのかはさっぱりわからない。まあ、詞がカヅキであることは確かだ。
「じゃあ、とりあえずカヅキ、よろしく」
ジュンタがにこりと笑いかけた。それを不機嫌そうに見ているマサト。今は練習中だから一応自制しているようだが、醜い嫉妬心は充分見えている。ため息。
「じゃあ、うん。唄うね。あ、ギター貸して」
はい、と差し出された手。俺はその手に、戸惑う。
カヅキは新曲を唄う時、なぜかギターを手にする。多分、こいつの場合はキーボードを出すのが面倒なのだ。いつも大して使っていないので、ケースに入った状態の方が多く、大抵は部室に置きっぱなしだ。今回のスタジオ練習でも、使わないといったから持ってきていないようだ。
そういうどうしようもないワケでのギター、いつもはマサトに借りているが、今回はなぜか、その手が俺に向かっていた。
驚いた、が、特に拒否する理由もない。多分、興味。俺のギターを触ってみたいとでも思っているのだろう。
深い意味なんて、あるわけないんだ。俺はカヅキにギターを渡す。赤い、赤いギター。
「じゃあ、唄うよ」
細い指が、弦の上で泳ぐ。
少し、たどたどしく、コードを押さえる。
流れ出す、メロディー。
「――っ!」
心臓が止まるかと思った。実際、三秒くらいは止まっていたかもしれない。
心臓に氷でも触れたみたいに、本当に、それくらいびびった。メロディーが聞こえてから、カヅキが唄ってから。
これは俺が、いつか捨てた。
その後は、取り繕うのが大変だった。
恥ずかしさで体温は上がりっぱなしだし、シュンは変な誤解しやがるし、マサトはマサトで
「違うよなっ、違うよな!?」とかいってがたがた身体を揺さぶってくるし、ホント、死ぬかと思った。
まさか、あんなところでカヅキに喧嘩は売れない。問い詰められない、本当のことなんて、あいつらに教えられない。
熱くて熱くて、汗までかいて、シャツがぺたりと身体に張り付いてくる。でも、不思議と居心地悪さは感じなかった。
頭がまだ、ぐるぐるしやがる。
「カヅキ、」
一通りの練習を終えて、スタジオから出た。みんなで駅へ向かう途中、後ろの方を歩いていたカヅキにこっそり声をかける。
「なに」
「お前、見てただろ」
「うん、見た。ついでに聞いた」
ため息。カヅキがさりげなく出した手には、いつも使っている小型のレコーダー。塾の授業を録音してこいと、親が買ったらしい。カヅキが本当に使ってるのかは不明だが。
やっぱり、こいつには敵わない。
「ユースケ、いい声してるよね、やっぱ。今度チェンジしようよ」
あたしがギターであんたがボーカル。
そういって指差しながら、カヅキが笑った。こいつは、とんだ女だ。
「遠慮するよ。あれはもぅ、お前んだ」
少しだけアレンジされた、俺の曲。カヅキが唄いやすいメロディに、詩に変えたのだろう。それは、俺が当初創ったものより断然良くなっていた。後でそれをいうと、創れば慣れるものだといわれた。
「ちげーよ、caromのだ」
だって、みんないいっていってたし。うちらの曲でしょ。
無意識にそういってるなら、やっぱりお前はすげー女だよ。
ちょっと、泣きそうになったじゃんか。
「ねぇホント、今度ボーカルやってよ。もっかい聞きてーもん」
いつも、怖かったんだ。
俺には音楽の才能なんてない。
でも、あいつらは違うんだ。なにかが、違うんだ、決定的に。なのになんで、俺はここにいるのかって。
代えのきく俺が、どうしてバンドなんかやってんだろうって。
別に、俺たちはプロを目指してるつもりなんてない。
でも、やっぱり少しは夢を見てる。この道で、一生。
浅はかだって、わかってんだ。
だから、怖いんだ。
いつ、いらないっていわれるか、俺は、怖かったんだ。
「……それも、おもしろいかもな」
ただ、音楽が好き。
今はそれで、それだけで、ここにいるには充分な理由。
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