表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
carom  作者: 冴島岐之
6/7

メロディメイカー

 たまに、考えてしまう。


 俺は、ここにいていいのか。いる意味、あるのか。


 そうやって自問自答して、しゃべるのが怖くなるんだ。ギターを持つ手が、ふるえるときだってある。

 俺のポジションって、他の誰でも代えがきくんじゃねぇかって。

 そう思うと、怖いんだ。


「新しいの、できた、ケド」


 上邨桂月。ボーカル、たまにキーボード。


「お、カヅキちゃん仕事はっやーいっ」


 賀庄峻一。ドラム。盛り上げ役。


「へぇ……今回の曲、誰だったっけ?」


 時任潤。ベース。客寄せ。


「そーいや、新曲作るなんて聞いてねーぞ」


 遠山匡人。ギター。アレンジ好き。


「俺がいったんだ、そろそろなんか作らないかって。今回はカヅキがやったのか?」


 そして俺、中尾雄亮。ギター。


「まあ……そんなとこ。どうする?」


「どうするって、そりゃやっぱ聞くっしょ! なぁ、ユースケ?」


 シュンが嬉しそうに笑う。こいつはホント、好きだよなぁ、音楽が。俺は曖昧に、返事をした。あぁとか、うんとか、肯定に聞こえるだろう返事。

 確かに、カヅキにそろそろ作りたいよなっていったのは俺だ。でもそれはただの願望で、作ろうっていつものようにみんなで決めたわけじゃない。だから、俺も誰が曲つけたのかはさっぱりわからない。まあ、詞がカヅキであることは確かだ。


「じゃあ、とりあえずカヅキ、よろしく」


 ジュンタがにこりと笑いかけた。それを不機嫌そうに見ているマサト。今は練習中だから一応自制しているようだが、醜い嫉妬心は充分見えている。ため息。


「じゃあ、うん。唄うね。あ、ギター貸して」


 はい、と差し出された手。俺はその手に、戸惑う。

 カヅキは新曲を唄う時、なぜかギターを手にする。多分、こいつの場合はキーボードを出すのが面倒なのだ。いつも大して使っていないので、ケースに入った状態の方が多く、大抵は部室に置きっぱなしだ。今回のスタジオ練習でも、使わないといったから持ってきていないようだ。


 そういうどうしようもないワケでのギター、いつもはマサトに借りているが、今回はなぜか、その手が俺に向かっていた。

 驚いた、が、特に拒否する理由もない。多分、興味。俺のギターを触ってみたいとでも思っているのだろう。

 深い意味なんて、あるわけないんだ。俺はカヅキにギターを渡す。赤い、赤いギター。


「じゃあ、唄うよ」


 細い指が、弦の上で泳ぐ。

 少し、たどたどしく、コードを押さえる。

 流れ出す、メロディー。


「――っ!」


 心臓が止まるかと思った。実際、三秒くらいは止まっていたかもしれない。

 心臓に氷でも触れたみたいに、本当に、それくらいびびった。メロディーが聞こえてから、カヅキが唄ってから。

 これは俺が、いつか捨てた。


 その後は、取り繕うのが大変だった。


 恥ずかしさで体温は上がりっぱなしだし、シュンは変な誤解しやがるし、マサトはマサトで

「違うよなっ、違うよな!?」とかいってがたがた身体を揺さぶってくるし、ホント、死ぬかと思った。


 まさか、あんなところでカヅキに喧嘩は売れない。問い詰められない、本当のことなんて、あいつらに教えられない。


 熱くて熱くて、汗までかいて、シャツがぺたりと身体に張り付いてくる。でも、不思議と居心地悪さは感じなかった。

 頭がまだ、ぐるぐるしやがる。


「カヅキ、」


 一通りの練習を終えて、スタジオから出た。みんなで駅へ向かう途中、後ろの方を歩いていたカヅキにこっそり声をかける。


「なに」


「お前、見てただろ」


「うん、見た。ついでに聞いた」


 ため息。カヅキがさりげなく出した手には、いつも使っている小型のレコーダー。塾の授業を録音してこいと、親が買ったらしい。カヅキが本当に使ってるのかは不明だが。

 やっぱり、こいつには敵わない。


「ユースケ、いい声してるよね、やっぱ。今度チェンジしようよ」


 あたしがギターであんたがボーカル。

 そういって指差しながら、カヅキが笑った。こいつは、とんだ女だ。


「遠慮するよ。あれはもぅ、お前んだ」


 少しだけアレンジされた、俺の曲。カヅキが唄いやすいメロディに、詩に変えたのだろう。それは、俺が当初創ったものより断然良くなっていた。後でそれをいうと、創れば慣れるものだといわれた。


「ちげーよ、caromのだ」


 だって、みんないいっていってたし。うちらの曲でしょ。

 無意識にそういってるなら、やっぱりお前はすげー女だよ。

 ちょっと、泣きそうになったじゃんか。


「ねぇホント、今度ボーカルやってよ。もっかい聞きてーもん」


 いつも、怖かったんだ。

 俺には音楽の才能なんてない。

 でも、あいつらは違うんだ。なにかが、違うんだ、決定的に。なのになんで、俺はここにいるのかって。

 代えのきく俺が、どうしてバンドなんかやってんだろうって。

 別に、俺たちはプロを目指してるつもりなんてない。

 でも、やっぱり少しは夢を見てる。この道で、一生。

 浅はかだって、わかってんだ。

 だから、怖いんだ。

 いつ、いらないっていわれるか、俺は、怖かったんだ。


「……それも、おもしろいかもな」


 ただ、音楽が好き。

 今はそれで、それだけで、ここにいるには充分な理由。


=END=

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ