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carom  作者: 冴島岐之
5/7

壊さない

「お前、そういうのいつ考えるワケ?」


「電車ん中」


「はぁ? いっつも俺とダべってんじゃん!」


「そんな重要なコト話してたっけ?」


 あっけらかんと、カヅキはいった。これっぽっちも悪いと思ってないみたいにいうから、毒気を抜かれちまう。


「んだよ、ひでぇな」


「もう、シュンはいいから。で、感想は?」


 それなりに広いスタジオの端っこで、小さく円になっている俺ら。一見したら何やってんだって感じだけど、今はカヅキが新曲を披露中。だから、一応真面目にやってるワケ。一応。


 俺たちの中で、だいたいの役割分担は決まってる。たとえば曲作ったり、詞を書いたり、ライブを取り付けたり、だ。けど、最近はみんな関係なく曲を作ってくる。

 元々作曲は俺とジュンタで代わる代わる、もちろん相談しながら二人で作ったりもしてた。今はとにかく、曲を作る人っていう境界線が曖昧過ぎてる。

 もちろん、全ての曲が使われてるワケじゃねぇし、まだまだ作曲が不慣れな俺等はすぐに何曲と作れるワケもなく、常に試行錯誤だから自作の曲がやたら多いなんてコトもない。

 詞にメロディをつけるにしろ、メロディに詞をつけるにしろ、人前でそれなりに演奏できるくらいに仕上げるのはなかなかムズカシイ。不向きなのかもしれない、と何度思ったか。その度に知識や経験不足だからなんだと言い聞かせてきた。

 そういえば、そんな中でも詞をつけるのは、カヅキだけだった。


「イイと思うけど、」


「なんか、らしいよ。caromっぽい」


「なんだそれ」


 俺も特にいうことはないので、とりあえず黙ってみる。

 文句をつけたところで作れないしな。詞ばっかりは。なんか、恥ずかしさに加えて、どうやって詞を書くのかわからねぇんだ。何を詞にするのか、思い付きもしない。カヅキが気に入らなきゃ、容赦なく却下されるだろうし。


「……ユースケ?」


 今回もいつも通り、このまま練習かなぁと思っていたら、カヅキが思いっきり眉を寄せてユースケを睨んでいた。

 そういえば、今日はずっとだんまりだ。今も、目がものすごく泳いでいる気がする。でもそれもすぐに真下を向いちまったから、わからなくなった。


「あ……ごめん、」


「ごめんって、聞いてなかったワケ?」


 あーあ、カヅキが怒ってる。そりゃそうだよな。


「ユースケぇ? お前、どうしたのさ」


 俺はこっそり下から覗き込むようにユースケの顔を見た。それでも顔がよく見えない。どうしたんだ、マジで。

 つーか、いっつも俺に『ちゃんと聞いてろよな!』って怒る立場のくせに。


「悪い、いや、違うんだ、聞いてなかったとかじゃなくて、違うんだ。カヅキ……」


 ユースケは両手で頭を抱え出した。すっげーため息だな。どうしたんだ、真面目眼鏡のくせに、妙にしんみりしちゃって。


「いいよ、イヤなら。いってくれればいい」


「だからそういうんじゃないって、その、」


「さっさといえよ」


 おっとおっとおっとっと?

 もしやユースケさん恋の予感? 妙に顔が赤いんですけど。

 でもなぁ、かわいそうだけど、カヅキはマサトっていうか、マサトがカヅキだからなぁ。あと、ジュンタも怪しいし。この間ほっぺにちゅうしてたし。波乱じゃん、ユースケ! なになに、修羅場?

 つか、カヅキにモテ期到来? まぁ、俺はそんなんに流されねぇケド。


「うへ、興奮する!」


「……黙れよ、シュン」


「きもいぞ……」


「吐け、ユースケ! なにがあった!」


 やっベーやっベー、マジ興奮する! 人の恋路はどうしてこうも楽しいかね。


「……シュン、顔にいろいろ書いてあるぞ」


「もうジュンちゃん! 俺どんな顔してる?」


「すっげー楽しそう」


 あらら、当たってるし。そういうジュンタも、若干楽しそうだけどね。


「ホント、なんでもない。今回の曲もよかったんじゃねぇの。ただちょっと、良すぎて酔ったっつーか……とにかく! 聞いてなかった訳じゃないっ」


「なに……それ」


 カヅキは目を丸くして、ユースケを見てる。いや、俺たちみんな、びっくりしてユースケを見てるんだけど。

 ユースケがこんなに自分の感情――音楽のことで――出したの、初めてかもしれない。真面目なまとめ役の眼鏡くんは、いつだって損な役回りで怒ってばっか。

 きっと人生の八割を他人のコトで余計な心配とかして、苦労するタイプっつうのが俺とマサトの一致した見解。まぁ、外れちゃいないと思う。


「やめろ、見るなお前ら。全員文句なしだろ? 次のときまでに自分のとこのアレンジまでやっとけよ。ほら、やるぞ、練習」


 ひとりユースケは円から外れ、自分のギターを引っ張る。真っ赤なギター。


 こっそりカヅキの顔を見ると、ほんのり頬が赤かった。どんな風に褒めたって絶対に照れないカヅキがこんなに揺れてるのは、多分、あれだ。

 こいつにとっては唄うのが一番だってこと。


 今度はこっそりマサトの顔を見る。こっちは対照的に、青い。真っ青。カヅキの顔を凝視してるや。

 こりゃ、一波乱あるのかね。


「あれ、やろうぜ」


 どうやら我らがリーダーは、恋愛事に疎いらしい。

 とはいっても、カヅキの次だけど。


「いいなぁ、やるか」


「久しぶり」


「ちょ、待て、ユースケ。じっくり話したいことが――」


「あと。お金払ってんだから。やるっつったらやる。さっさと用意しな」


 まぁ、どうなったっていいんだけど。

 そんなんで俺らは壊れたりしないから。

 そんなんで壊れるなんて、俺がさせない。


「シュン、合図」


 唄い続ける限り、俺らはつながっているから。


=END=

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