咽ぶ声
どうして−−
半ば開きかけた唇の隙間から漏れ出た吐息まじりの声は、情けないほどかすれていた。不安にのみこまれ見失った心はきっと戻らない。この暗い部屋から消え去ったもの、それと一緒に手の届かないどこかへ行ってしまった。
独り。
ついこの間まではそれが当たり前だった、ワンルームのここ。ぬくもりがふえて、夜も寒くなくて。お茶碗、箸、少しずつ、歯ブラシもみんな、二つになった。二つになったのに……
ぬくもりだけが減った二人の家は、もう別人のもののように静かで、寒くて、淀んでいて……電気もつけずにクッションに顔をうずめた。いやに冷えたカーペットの上、ただぼんやりとして時間をやりすごす。
都会の無機質なライトやネオン。合わさって混じりあって一緒くたになった光の一部が、開け放したカーテンに囲われた窓から差している。しかし私の座るところまでは届かず、どこか遠くに夜のきらめきを映し出していた。それは温度のない、表面だけ取り繕った輝きだとわかっているのに、羨ましく思ってしまう。それほどまでに冷え切っていたのだ。
どれくらい経ったろう。
小さく響いていた救急車のサイレンが鳴り止んで、ふと我に返った。
丸いテーブルの上、無造作に置かれた袋。二人分の弁当が積み重なっている。私も彼も帰りが遅い水曜日は、お気に入りの弁当屋へ行くのが当たり前になっていた。
ずるずると身体を引きずり、のそりと弁当を広げてみる。白身魚のフライに、ちくわ天、イカ天……彼が一番好きだったのり弁は、もう、ほかほかと湯気を立てていなかった。
割り箸を取り、そっと手を重ねる。無言のまま一口ほおばれば、同時に涙が頬を伝った。ぽたり、ぽたりと流れては膝下濡らす涙に、ただ無心で箸を動かした。途中咽せて苦しくなっても、箸を止めなかった。両方の目から溢れ流れ落ちる涙よりもはやく、口に運んだ。
もう一つのふたも、追い立てられているかのように開けると、ひたすらむさぼった。
平日の深夜。偽りのネオンだけが、独りを照らした。