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歴史軍団 ・牙 第1部  作者: よほら・うがや
タイムトンネル
2/5

歴史修正軍団 結成

しかし、自分一人で歴史を作り出すなんて、到底無理だった。どうしたらいいんだろう?途方に暮れるしか、ない。


タイムトンネルの中を覗いてみた。あの山中の林間の道を思い返していたからか、同じ風景のところが見えた。チョンマゲ頭の行列は、いつまで待っても来なかった。タイムトンネルに戻った。江戸時代に変わっているかとも思ったが、見馴れた現代だった。箱を拾い上げたことで、歴史修正が進んだのだろう。しばらくは、歴史は変わらないだろう。しかし歴史変換は、徐々に時代を蝕むように進行していくのだ。放置はできなかった。

もう一度、タイムトンネルに頭を突っ込んだ。同じ山中。周りを目を凝らして、観察した。なぜそんな行動をとったのかは、自分では分からない。そうしなければいけないと思ったのか。


すると、山中の周りの部分が、所々窓のように光りだした。もしや…と思っていると、その窓の中から次々に人が這い出してきた。人はみるみるうちに、20人ほどになった。

「あのう、いいですか?そちらに行っても」

と声をかけてきたのは、自分と同年代くらいの男子だった。

「どうぞ、どうぞ」

自分は何の警戒心もなく、彼を自室へと導いた。タイムトンネル仲間…、そんな意識があったかもだった。自室に次から次へと、タイムトンネル仲間が入ってきた。自室は6畳ほどの広さしか、ない。しかし入ってきた20人の老若男女たちは、全く気にしていないようだった。みな、歴史修正の使命と意欲に燃えていた。意欲というと語弊があるだろう。みな、現代生活を守るため、愛する家族を失わないため、やむをえず立ち上がり、今、ここに参集しているのだった。


「自己紹介します。私は木馬介きばかいと申します」

あえて、年齢は言わなかった。この壮大な、喫緊きっきんのミッションの前には、名前さえ要らないのではと思われた。

「私は、川先津かわさきしんです」

一番先に声をかけてきた男子が名乗った。そして皆、次々に名前を口にした。

「木馬さん、あなたが箱を拾い上げたのを見ました。よくぞ勇気を出してくださいました」

皆が口々に感謝を言ってくる。なるほど自分が勇気を出した結果、現代生活が家族が、守られたわけだが。私はうなずいたが、謙遜は口にしなかった。美辞麗句はもはやどうでもよいということを皆、分かっていたから、咎める者もいなかった。


「ミッションのために」

と私はいきなり切り出した。実は、戦略は既に大まか練ってあった。

「大村小次郎という架空の人物を作り出し、井伊いい掃部頭かもんのかみを大老に押し上げ安政の大獄を起こし反幕機運を結集させ井伊を桜田門外で暗殺させる」

一同、さすがに血の気が引いた。

「やはり吉田松陰とか有為の士を…、殺すのですか?」

しなければ明治維新は起こらない。やるしかなかった。


そして一同の最大の心配は、井伊を幕府の頂点に押し上げるような離れ業が本当にできるのか、ということだ。

「私が持てる政治才能をフルに働かせる」

と自分は、一同に確約した。ここ数年、自分は徹底的に政治を学び鍛え上げてきていた。将来日本国を指導したいという野心を内に秘めて。

「それで川先さん。あなたにぜひ大村小次郎を演じてもらいたい」

川先氏は、俳優養成所に通う役者志望の青年だった。

「やりましょう」

川先氏は、即答した。

あと、全員護身術の鍛練を始めることも決まった。男子は柳生流剣術を、女子は柔術を、各自達人の域に達するくらいに徹底的に習うことにした。


この第1回会合で新たに分かったことが、ある。タイムトンネルの特長だ。タイムトンネルが開く時刻を動かすことはできない。しかし、タイムトンネルが開く場所は、任意に選ぶことができるという。任意にといっても条件があり、歴史修正に本当に必要という感情があれば思う場所に開き、単に興味本位だとそこへは行けないという。誰かが江戸に行きたいと願ったが、開かなかった。

試しに

「あの山中のサムライ大村小次郎の素性を知りたい。父親の大村斉慶はどういう人物か知りたい」

と考え、タイムトンネルに頭を突っ込んでみた。


山中じゃなかった。

江戸だ!

そして…たぶん城内、門が見えた。田安門という字が見えた。

門のそばに、立派な屋敷。その屋内へ、目が進んでいく。

部屋にサムライが2人。年老いた1人が

けいさまは無事に紀州に着かれたであろうか…」

と、もう一人に話しかけていた。

「水戸の手の者が先回りしていないことを祈るのみですな」

あのサムライは、卿さまと呼ばれていた、つまり御三卿田安家の事実上の当主と扱われていたことが分かった。


大村斉慶のことを知りたいな…と考えていたら、年老いたサムライが

「ご先代と水戸はまさに確執の極みじゃったのう」

と話を続けた。

「ご先代は何ゆえに譜代幕政を支持されたのか」

と問われ、年老いたサムライは

「水戸のやり口がどうも気に入らぬという感覚を持っておられたようじゃ」

水戸徳川家が副将軍と持ち上げられた背景に、代々の徳川宗家が水戸を将軍にさせまいとした政治工作があるという知識が、頭によぎった。

「水戸の野心は徳川を滅ぼす」

大村斉慶は直感的に危機を覚え、水戸を排除しようと動いた。一時は成功し、斉慶は事実上の大老として幕府を指導した。しかしやがて水戸斉昭と阿部正弘が結託し、敗北し不敬の罪を着せられ切腹させられた。小次郎は若いながら父親譲りの政治的な直感で窮地を脱し、紀州へと旅立っていった…


これだけの新情報が、たった一度のタイムトンネル開通で手に入ってしまった。一同、驚いた。

「タイムトンネル万能だなあ。何でもできそう」

しかし、肝心なところは、やはり生身の人間がしないといけなかった。


第1回目のミッション先が、決まった。

紀州和歌山!決行は、半年後10月下旬に決めた。

歴史変換が、かなり進んでいるだろう。半年は、ぎりぎりの介入タイミングだった。

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