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歴史軍団 ・牙 第1部  作者: よほら・うがや
タイムトンネル
1/5

開通

幕末の歴史が、ある日突然、空白になった。このままでは歴史が変わり、現代生活が、家族が、全てが失われる。幸い天命を受けた50人の無名の人たちが立ち上がった。しかしその行く手に待ち構えていたのは、想像を絶する政治闘争だった。

24才の5月、自室に、タイムトンネルが開いた。前触れは、なかった。机の脇の板壁に、四角い約1メートル30センチ四方の、真っ黒な穴が、不気味にあった。向こうは、見えない。その穴がなぜタイムトンネルだと分かったのかも、自分では説明できない。ただ、それは明らかにタイムトンネルだった。


何の躊躇もなく、その真っ黒な穴に頭を突っ込んだ。なぜ躊躇しないのかも、自分では分からなかった。向こう側の出口は…タイムトンネルの長さは、わずか数センチしかなかった。頭を突っ込んだと思ったら、もう違う時代だった。

何時代なんだろう?辺りはうっそうとした森林、山中のようだった。林間を道が通っていた。

向こうから、頭にチョンマゲを結った十数人の行列が歩いてくるのが見えた。ほとんどが肩に担いだり、二人で前後に担いだりして、荷物を持っていた。一人だけ、刀二本差しのサムライだった。江戸時代だった。サムライは、年格好が自分に近かった。背が高くて細身である。顔は、よく見えなかった。

「ぎゃっ!」

悲鳴が響いた。あっという間に荷物を持っていた連中が、散り散りに逃げ去っていた。サムライが一人、とどまっていた。黒装束の数人が、異常に軽い身のこなしでサムライを囲んでいた。チャンバラだ。リアルにチャンバラを見るのは、もちろん初めてだ。しかしチャンチャンバラバラは、なかった。黒装束たちはいつの間にかいなくなり、サムライはと見ると、道の真ん中に仰向けに倒れていた。血は、あまり出ていなかった。しかしサムライは、ピクリとも動かなかった。目を開いたまま、即死のようだった。


はっと我に返り、タイムトンネルへと逃げ込んだ。タイムトンネルの脇に、箱が3つ投げ出されているのが、見えた。蓋が開いていた。長い刀、短い刀、羽織、裃などが入っているようだった。しかしそんな物を拾い上げる余裕もなく、タイムトンネルに駆け込んでいた。今、見たのは何だったのだろう。しばらく、呆然としていた。


ふと窓からなにげに外を見て、驚いた。目の前にあるはずのマンションがなかった。近くにあるはずの駐車場、銀行がなかった。いや、町全体が、まるで江戸時代のように、木造平屋建て、板葺きの屋根だった。所々に畑もあった。

慌てて自室から出て、またまた驚いた。家のなかが、自室以外全て江戸時代の町屋のように変わっていた。台所にいた母の姿がない。炊飯器は…かまどになっていて、鍋が載っていてシュンシュンと湯気を起てている。蓋を取ると飯…慌てて蓋を閉じた。初めチョロチョロ中パッパ赤子泣いても蓋取るなとかいう時代劇ドラマのセリフが頭に浮かんだ。部屋に弟の姿がない。日が暮れてきた。父が帰宅しない。


自室に戻り、考えた。自室は、前の通り机もスタンドも、本棚も、あった。自室だけ異空間のようだった。タイムトンネルを見た。そこにやはり、なにげに頭を突っ込んだ。何の考えもなかった。

先程と同じ、山中の林間道。向こうから、頭にチョンマゲを結った十数人の行列が歩いてきた。え!先程見た光景?

「ぎゃっ!」

悲鳴。逃げていく荷物持ちたち。一人残ったサムライ。黒装束に囲まれ、そして仰向けに倒れて死んだ。


わけわからず、タイムトンネルに後ずさり。タイムトンネルの脇に、箱が3つ投げ出されていた。今回は、落ち着いていたのか、拾い上げていた。ズシリと重い。本物の刀だからか。箱を引きずるようにタイムトンネルの中へ。自室の机の上に、箱を重ね置きした。

箱の一つを開けた。短い刀。柄が白い。白柄組…という言葉が頭に浮かんだ。旗本が将軍から拝領する刀らしかった。あのサムライは、旗本の子息か、若き当主だったのか。箱の底に包み。開けると、一通の文書。くずし字。完全なくずし字は、歴史ファンの自分といえど読めない。幸い楷書に近かったので、読めた。

「田安家用人大村斉慶が一子小次郎を大御所の直孫と認む」

いわゆる身分証明のお墨付きだった。あのサムライは、徳川家斉の隠し孫だったのか。もちろん公式の徳川家系図には、大村斉慶、大村小次郎の名はない。あのサムライは、あんな山中で命を落とし、歴史の闇に消えたんだなあ、と感慨に耽る。


喉が乾いた。コーヒーを入れよう…あ、そうだ、電気もコーヒーメーカーもなかったんだ。

自室を出て、驚いた。台所に母がいた。炊飯器がシュンシュン湯気を起てている。弟が部屋でテレビゲームをしている。父が帰宅して晩酌をし始めた。外に出ると、目の前にマンション。近くに駐車場、銀行があった。現代の本来の風景に戻っていた。いったいどうなっているんだ。まるで狐につままれたよう。机の上の箱を見た。ひどく重要な歴史の遺物を拾ったものだと興奮していたが、その熱気が冷めた。


前回は、拾い上げなかった。今回は、拾い上げた。自分が歴史に介入したら、本来の歴史に戻れた。介入しなかったら、歴史が変わってしまった。天が自分に使命を与えているのか?歴史の本を開いてみた。あっ!何と安政以降の記述が全部、消えていた。慌てて弟を呼んだ。本を見せた。弟は、怪訝な顔をするだけだった。弟には、記述が見えているようだった。これで確信した。天が自分に、歴史に介入して本来の歴史を実現せよと、使命を与えていることを…

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