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グレーワールド~僕の戦場~  作者: 皆既月食 雪男
9/18

カードと彼女

「へぇ一戸建てかぁ、いいな」

 柳が感心して言う。

「築何年?」

 新之助は思わず笑ってしまった。

「おっさんみたいな質問」

「悪かったな。建築に興味があるんだよ」

「へぇ…築、何年だろう…俺が小一の時に引っ越してきたから…十年か」

「ほぉ」

「親はまだ大変そうだけどね」

「ローンがな。三十年か、三十五年かな。俺には三十五年間、同じ所で働き続けるって、ちょっと想像つかない」

「だよな。まぁ入れよ。今日も誰もいないけど」

「うぃーっす。お邪魔します」

 とことん親父っぽい奴だと新之助はまた笑った。

 しかし、本当に特徴が薄い奴だなというのが、新之助の柳に対する感想だった。

 例えば、こいつが犯罪者で、指名手配の為に似顔絵を作ろうとする。

 そんな時に思い出せそうで思い出せない。そんな感じだ。

(でも、学年一位だもんな…人はわからんもんだな)

 新之助はとりあえずゴミ箱を見てみるが、カードは入っていない。

(親が、置きそうな場所は…)

 ポケットテッシュや葉書、使いかけの薬のチューブが入っているカゴを見てみる。

(入っていない…)

 勝手にダイニングの椅子に腰掛けている柳が、新之助に声をかけた。

「冷蔵庫にマグネットでくっ付いている物入れとかない?その中は?」

「冷蔵庫ね」

 新之助は眠い目をこすりながら答える。

「あった…信じられねぇ…なんで、こんな物取って置くんだろう…」

「ふっ、ふふふ」

 柳が堪え切れないといった風に笑った。

「どれ、見せてみ」

 母親によって綺麗にのばされたカードを、柳に手渡す。

『Vサイン

 特別につくりました

 先輩から、おいしいねと

 電話をもしもらえたらね

 そしたら嬉しいです ハートマーク

 藍璃_より 090××××△△△△』

「なんだこれ!?」

「何かおかしいか?」

「おかしいことだらけだろ!!すっきりしない文章だし、第一告白の文章ってのはVサインで始まるのか?普通?」

「でも色んな人がいるから」

 絶句する柳。そんな柳を横目で見ながら、新之助が独り言のようにつぶやいた。

「そう言うけど、ハートマークだけカード一面に書かれたやつとか、絵文字ばっかりで読みづらいやつとか、理解不能な手紙とかカードはよくあるんだよ。その中じゃ比較的ましな文章だと思うけどな…」

「本当に、よく告白されているんだな…」

「小学生の頃から、よくいただいております」

「はぁ左様で…」

 しげしげとカードを見つめる柳。

「突っ込みどころ満載だけどな…それに普通、電話番号じゃなくてアドレスじゃねぇか?」

「うーん、それはそうかも」

「この名前の後のアンダーバーはなんだ?」

「うん?」

 カードを覗き込んでくる新之助。

「あぁ本当だ。特に気に留めなかった」

 眉間にシワを寄せ、頭をかく柳。

「意味深なカードに思えるけどなぁ…勘ぐり過ぎかな…電話はしてみてないよな。うん。電話してみるぞー。結果はなんとなく想像がつくけど」

 そう言うと、柳は側にあった家の電話機を取った。

『おかけになった電話番号は現在使用されておりません………』

「やっぱりだな、つながらない、と」

 新之助も柳も、期待で一瞬張り詰めたものがホッと抜けた。

「そうは言っても、手がかりはこれだけだからな。まずは藍璃ちゃんを探してみるか」

 柳はそうつぶやいた。

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