放課後
今日最後の授業。終わりを告げるチャイムが鳴る。
振り返る柳。
新之助は、本当に魂が抜けているのでは、と柳に思わせるほど、その端整な顔を蒼白にし、長いまつ毛に縁取られた瞳からは生気がまるで感じられない。
アイドルでも目指してみりゃ良いのに…これが、柳が新之助を初めて見た時に感じた感想だった。
「おい、新之助。話を聞くのはどこがいい?」
「…理科準備室はどうかな?今回の話の発端だし」
「あそこは鍵がかかっているから、ダメだろ」
「昨日は開いていたけど」
「そんな馬鹿な。色々薬品が置いてあるから、戸棚はもちろん、出入りの戸にも常に施錠が徹底されているはずだ」
「…そうか、そうだよな…」
下駄箱に入っていた呼び出しの手紙を読んだ時には、新之助は不覚にも、なんの疑問も持たなかった。
「おまえって以外と…いや、なんでもない。行ってみるか?準備室」
新之助の心の中を見透かしたように、柳は提案し、新之助は『おまえって以外と…』続きが気になったが、今はまず「行ってみたい」と返答していた。
がちゃがちゃ
分かりきっていたが、やはり理科準備室は、廊下側からも、理科室側からも施錠されていた。
扉の前に立ち尽くす新之助に、柳が提案した場所は、隣の理科室だった。
「まず、はっきり聞くけど、おかしな薬はやってないよな」
「やってない、それは確実に誓える」
「ならばいいんだ。それで、と。おかしな夢を連続してみていると」
「そうなんだ。きっかけは理科準備室で目を覚ましたことからなんだけど…それも夢だったのか。それなら納得がいくか。だから、理科室で目を覚ました…」
「あー解釈は、自分の中でやってくれ。俺には起こったことを、そのまま話してくれないかな」
新之助は、昨日から今までに自分に起こった事を、順に話していった。
放課後に理科準備室に自分を呼び出す手紙が下駄箱に入っていたこと、準備室は開いていて、そこで眠ってしまい、目を覚まし、そこには告白のカードとクッキーがあったこと、光の玉に襲われたこと、気が付くと灰色の空の荒廃した世界で墨人間に襲われたこと、その世界の体育館がコロシアムになっていて、そこで、小男と戦わされたこと、結果、勝利した自分は、リュックと対戦相手の耳を押し付けられたこと…そこからさらに、ついさっき図書館で第二バトルに勝利したところまでを、新之助は柳に話しきった。
すっと黙って話を聞いていてくれた、柳の開いた口から初めに出た言葉は「鍵を握っているのは『藍璃ちゃん』かもな…」だった。
「そう…かな?」
「何か残っていないか?袋は?」
「破って捨てた」
「だったよな…」
「初めに下駄箱に入っていた手紙は?」
「それも、その日の朝のうちに破って捨てた」
「そうか…カードは?」
「…ポケットに入れて…、それから、そうだ!!家でも何気なしに広げて見て…あぁそれからはわかんねーや。捨てたかも」
「でも、捨ててないかも?」
「リビングのどっかに落ちたかもな」
柳は芝居がかった様子で、両手を広げると言った。
「俺ん家は母親がなんでもかんでも取って置く、新之助の親は?」
「そうそう、俺の家もそうだよ。いまだに保育園の賞状とか飾ってんの。勘弁してくれって感じなんだけど」
「女の子からの告白のカードなら、見つければ…」
「取って置く可能性は大。だな。家、帰ってみればわかる」
柳が頷いた。