夢かうつつか
「嘘だろ…違う俺は殺してない…、だってあんな簡単に死んじゃうなんて…いや、落ち着け俺。消えたんだ、殺したのとは違う!!」
背の高い方と、その低い方が、コロシアムに入ってくる。
背の高い方が、小さな小汚いリュックに、落ちていた小男のナイフを入れ、落ちていた耳と一緒に新之助に向かって差し出した。
意味がわからず、棒立ちになっている新之助にぐいぐいと、リュックと耳を押し付けてくる。
「えぇ…」
新之助は自分でも驚くほど、情けない声を漏らした。
リュックとナイフは良いとして、耳は…。
背の低い方がイラだったらしく、
「きっきききー」
猿の威嚇みたいな声を出すと、無理やり新之助の手を引っ張り、その両手の片方にはリュック、そしてもう片方に耳を持たせると、背の高い方と、低い方に新之助は両脇を抱えられて、コロシアムから連れ出されたのであった。歓声の声に包まれながら…
ドサッ
そして体育館の入り口放り出された。
「えっ、ちょっと、なにこれ、これから俺はどうすれば…」
しかし困惑する新之助を置いて、体育館の扉は無常にも閉じられたのであった。
パチン
「はっ!!」
「おーい。そこにいるのは誰ですか…」
「…ここは…はぁはぁ」
(理科室…だ)
蛍光灯の明かりに目を細めたが、目が慣れてくると、確かに理科準備室ではなく、理科室だった。
「二年の新之助だな。学校閉めるぞ、それともここに泊まっていくのかぁ?」
体育の教師、小山田がつまらない冗談を言っている。
「…先生」
「ん?」
「俺は…俺は寺島新之助ですよね…」
「あ?どうした新之助?寝ぼけてんのか?いいから帰るぞー」
新之助は素直にうなずくと、自分の教室に走った。
門の外から学校を見上げる。
どこからどこまでが夢なのか、現実なのか、新之助は混乱していた。
(理科準備室で眠っていたはずなのに、目が覚めると理科室に居て、クッキーは無くなっていて、ビーカーも出ていなくて…しまった!ゴミ箱までは確認しなかったな…)
「あっ!!」
新之助はズボンのポケットを探った。
(カードはある…なんだこれ)
「どうした?さっきから挙動不審だぞ?忘れ物でもしたか?」
門の施錠をしている小田島は、小柄な体を揺すりながら笑った。
「いえ、嫌な夢をみたみたいで…」
ふうん。と小田島は特に興味もなさそうに「ぼんやりしていると車にはねられるぞ」と、一応教師らしいことを言うと「じゃあなぁー」と職員用駐車場へと歩いていった。
新之助は大きなため息をついて、一呼吸を置くと、このまま考えていてもどうしようもないので、家に帰ることにした。
しかしその途中、緑豊かな公園にさしかかり、赤い滑り台を見て、また深いため息を付いたのであった。
もちろん家には誰もいなかったが、いつもと変わりない様子に、心から新之助はホッとし、居間の黄緑色のソファにどさりと体をあずけた。
食卓の上にはラップがかけられた生姜焼きがあった。腹は減っていたのだが、それ以上に疲労感が酷かった。
まるで本当にコロシアムで、一試合終えた後のようだと新之助は思った。
なんとなくポケットの中から、丸められた藍璃ちゃんからのカードを取り出し、眺める。
(光の玉を見たのは、夢だったのか、現実だったのか…)
しかし、こうしてカードは残っていて、クッキーは無くなっている。
(寝ぼけて食ったのかなぁ。どにかく…)
「疲れた…」
がっくりと新之助の四肢の力が抜ける。
(それにしても生々しい夢だったな…)
そして新之助は、夕飯の生姜焼きも食べずに、また眠りの中に落ちていったのであった。
「…嘘だろ」
新之助は、頭を抱えながら、そう、つぶやかずにはいられなかった。
再び意識を取り戻した新之助が見たものは、朽ち果てた校舎だったからだ。