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グレーワールド~僕の戦場~  作者: 皆既月食 雪男
3/18

第一バトル

 祈りもむなしく、新之助は縄を二本、首に付けられたまま、体育館だった場所に連れられていこうとしていた。

 体育館も朽ちて果てていて、今にも崩れ落ちそうだった。

 新之助は、少し前に感じていた違和感を、今はっきり実感していた。

(俺の手ってこんな感じだったけ?)

 首に縄をかけられているわりにはのんきにそんなことを思っていた。

 体育館の入り口のすぐ横は、鏡張りなっている。

(割れていなければ…)

新之助の心臓は高鳴った。

「ぎょぎょぎょげ」

 背の低い方が首の縄をぐいぐいと引く。

(鏡は………!!…!?)

「違う!!」

「げほ?」

 背の高いほうが、新之助の大声に、怪訝そうに立ち止まった。

「違う!…違う!違う!これは俺じゃない!!夢だ、これはやっぱり夢なんだ!!ぐえっ」

「ぎょほっ!!」

 背の低い方が思いっきり新之助の縄の引っ張る。

 鏡に映ったのは、背の低い、髪の毛はぼうぼうのブサイクな男だった。

 着ている物も、黒っぽいパンツに…これは麻…?薄汚れた姿をしていた。

 靴も落ち着いて見ると、学校の中履きではなく、黒っぽいカンフーシューズのような物を履いていた。

(さっきあれだけ自分の足元を見ていたのに気づかなかったのかよ…俺はどれだけいっぱいいっぱいだ。良かった…あるよな、感覚がある夢って。俺、今夢見ているんだってわかるやつ)

 相変わらず背の低い方は、ぐいぐいと縄を引くが、夢だとわかった新之助はあまりイラ立つこともなく、黙って付いて行くことにした。

 そこは外観からは想像がつかない、きちんと整備された会場のようになっていた。

 中央が闘牛場のようになっていて、二階の席には、ちらほらと背の高い方、低い方に良く似た外見をした人間らしきもの達が、腰をかけて、篝火で煌々と明るく照らし出された、体育館の中央を見ている。

 闘牛場のようだと新之助が思った理由は、体育館に張り巡らされている銀色の金網のせいだった。金網と篝火だけが灰色の色のない世界で、色という強い力を放っていた。

 金網の一部分に作られていた入り口に新之助は押し込まれ、そこでやっと、首から縄をはずしてもらえた。

 ガチャリ。二人は金網の外に出て行き、出入り口付近で新之助を見ている。

「?」

 シュツ

 何かが新之助の背後から、首の横を通り過ぎた。

「へっ?」

 新之助が振り返りながら首に手をやると、赤い筋が手に付いた。

「血!!血だよ!いてぇ!!」

「ぎょほほほほ」「げげげげげ」

 会場が歓声に沸いている。

 とりあえず、走ってその場から逃げる。だが、体育館はそんなに広くはない。

(なるほど!ここは奴らのコロシアムってわけで、俺たちは剣闘士ってことか)

 追いかけてくる足音がする。

 血が出ている首筋を押さえながら振り返ると、小さいナイフを手にした、これまた夢の中の新之助ぐらいブサイクな小男が追いかけて来る。

「!?」

 新之助が驚いたのは、その小男に色があることだ。

 小男はきちんと肌色をしている。

「死ねー!!死ねー!!」

 それも日本語を発している。

「ちょっちょっと待てよ!!」

 新之助が大声で、制止を呼びかけるが、小男は狂ったようにナイフを振り回しながら新之助を追って来る。

「ぎゃやぎゃやぎゃや」

 会場は歓喜なのか、大爆笑なのか、とにかく新之助は不愉快この上なかった。

「ちっ仕方ねーなぁ」

 武器になりそうなものは見当たらない。

(そうか!!)

 新之助は篝火を一つ倒す。

 その中から、一本火の付いたままの棒を振り回し、小男に応戦する。

「話を聞けって!!」

「うるさい!!お前も俺を殺す気なんだ!!死ねー死ねー」

「ったくよ」

 気は進まなかったが、相手はナイフを持っている。

 新之助の武器の良いところはリーチが取れることだ。

 振り回しているうちに火は消えたが、その先端で思いっきり小男を突く。

「ぎゃっ」

 面白いように後ろに転げた小男を見ているうちに、新之助が今まで背の高い方と低い方から受けた不条理が怒りに転化し、ふつふつと湧き上がり、その怒りのベクトルは小男に向かった。

「お前こそ死ね!!」

 新之助は棒で、何度も何度も小男を叩きのめした。

「痛い!!痛い!!」

 小男はナイフを落とし、体を丸めて防戦一方になったが、新之助は手を緩めなかった。

 丸まった小男の背を見ていると、こんなにも自分の中に暴力への心酔感があったのかと驚くほど、打ちのめしている自分に高揚し、気持ちが良かった。

(これはなんだ!?)

 そんな新之助を止めることが起きた。小男のわき腹あたりが光っていることに気がついたのである。

 ちょうど、ゲンコツ一個分くらいの光の玉が、ピカピカと点滅していた。

 新之助は棒の先で、光の玉を突いてみた。

 すると小男は「ぐぇっ」と、変な声を上げたかと思うと、体の力が抜けたようで、だらりと頭が落ちた。

「おいっ!?」

「ぎょぎょぎょぎょ」「がががが」「ぎょほほほほ」

 大歓声が巻き起こったが、新之助の耳には入っていなかった。

「おいって!!起きろよ!!嘘だろ…しん…」

 すると小男の体が灰色に変わっていき、透明になり、消えた。

「ぎゃっ!!」新之助は叫んだ。

 コトン。体は確かに消えた。

 方耳だけを残して。

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