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傍らで偲び咲く桜の花  作者: 堀口直
第二章 異常を孕む町
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2-4 遅れた思春期

「ねえ、霧島くん」

 休み時間に委員長――加賀さんが俺に話しかけてきた。少し鼓動が早くなる。……やっぱり可愛い。女性に興味を持ち始めてから、俺はアイドルの写真集や雑誌類を読み漁った。だから今の俺は前よりも成長している。加賀さんはいわゆるポニーテールという髪型なのだ。これが似合う女性は意外と少ない。クラスをざっと見回しただけでも……いや、学校全体を見ても、とびきり可愛い美少女と(学校内の女子全てをチェックしたわけではないが)言えるだろう。

「なんだい? 何かあったのかい?」

 あらん限りのクールさで聞き返してやった。

「なんで声つくってるの? 気持ち悪いからやめたほうがいいよ」

「……はい」

 思い切り辛辣に返される。

 ……辛い。

「さっき松島先生に『放課後職員室に来い』って呼び出されたんだけど……この間のこともあって、ちょっと怖くて」

「ああ、松島先生ね」

 ……すっかり忘れてた。死霊が憑いているという疑惑がある人だ。正直、あの人はかなり苦手だ。この間俺が狂いかけたのも、あの人が言った言葉のせいだし。何かあったら爺様に頼もうと思って忘れていた。

「それで……その、ちょっと付き合って欲しいの」

 ――付き合って欲しい。

 なんて響きのいい言葉だ。職員室まで付き合って欲しいという意味だとはわかっているが、言葉の響きは変わらない。言葉っていうのは素晴らしいものだ。

 ……まあ副作用というものも考慮しなくてはならない。とにかくクラスの男子から送られる視線が怖い。あれは、『転校して一ヶ月以上経っているのに友達が一人もいないぼっち野郎が、なんで加賀さんに付き合って欲しいなんて言われちゃってるの? 死ねよ』っていう視線だ。

 ……辛い。

「職員室まで付き合えばいいんだな!?」

 俺は副作用の除去を優先した。クラスの男子が目線を外す。松島に会いに行くなんて、本当は断りたかったがこうなっては仕方がない。

「うん。あれから、松島先生を注意深く見てたんだけど、やっぱり白いモヤモヤが見えるの。もう、それを纏っている先生が幽霊にしか見えなくて……。こんなこと言えるのって霧島くんしかいないし。なんかあったら助けてくれそうだから、お願い……」

「すごく信頼されているんだな、俺」

「だって、退魔師なんでしょ?」

「あんな話、信じてるのか?」

 すぐに飲み込めるような世界でも、理解できるような仕事でもないと思うけど……。

「信じてるわけじゃないけど、小さいころからずっと、格好良く幽霊を退治してくれる人がいてくれたらいいなって思ってたから。だから、半分以上は私の願望――というか期待なんだけどね。信じさせてほしいなっていう……」

 ――ああ。

 美少女に期待されるっていうのは、これほどまで力がみなぎってくるものなのか。今なら古いゲームの主人公たちが一人の女の子を救うためにむちゃくちゃな試練を乗り越えていくというシナリオにも納得ができる。

「任せてくれ。クッパを退治しに行こう」

「……くっぱ?」

「いや、こっちの話だ。とにかく、放課後は職員室まで付き合おう」

 覚悟しておけよ、松島正教諭。

「よかったぁ〜。この間はごめんね。助けてもらったのに」

 この間……といえば、鳩尾に肘を入れられたことか。確かに痛かったが、それなりの収穫はあったと俺は解釈している。

「いや、いいさ。いい乳だったしな」

「……なんて?」

「待ってくれ、手刀で構えないでくれ。言葉を間違えた」

「じゃあ、なんて?」

「えっと……豊満なバストだった」

 俺の語彙力も上がったものだ。

 ……しかし手刀は俺の顔面に炸裂する。

「いい……スナップだ」

「それはどうもありがとう」

 さすが剣道部の女子主将。突くように伸ばした手のスナップを効かせて、最短かつ強力な一撃を喰らわせてくれた。

「……痛い」

「霧島くん、言葉使いどうにかならないの? 終始、馬鹿にしているとしか思えないんだけど」

「そこまでダメか。……物心付いたころから山奥で育ったから、あまり人と話さなかったし、ちょっと語彙力とか言葉選びに難があるかもしれない」

「いや……言葉選びというか、常識を学んだほうがいいかもね」

「うん。精進しましょう」

 加賀さんは「まあいいか」とため息をついた。

「そういえば、一週間も休んでたけど……もう大丈夫なの?」

「すっかり全快した。気遣ってくれてありがとう」

 加賀さんは見惚れるほど綺麗な笑顔を見せて、

「そっか。じゃあ放課後よろしくお願いします」

 と言って自分の席に戻っていった。

 放課後が憂鬱なのか楽しみなのかわからなくなってしまった。



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