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傍らで偲び咲く桜の花  作者: 堀口直
第六章 桜の花
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6-13 再会

「ああっ……あああああ!」

 覚えている。いや、思い出したと言うべきか。

 俺が殺した。自分のために最善を尽くしてくれた大切な女性を、助けてくれた瞬間に殺した。

 罪悪感と後悔が、取り戻した巨大な霊魂を引き裂いた。

 がしがしと頭を爪でかきむしる。

 制御できない苦しみが身体を発火させる。

「ごめん……ごめんなさい……皐月……!」

 皐月を絞め殺した手の感触が生々しく蘇る。

 時間を戻して欲しい。あの頃に戻して欲しい。もう一度やり直させて欲しい。

「あっ熱い! 啓介! 熱いです。落ち着いてください」

「ごめん、ごめん!」

「あ〜もう!」

 冷たい感触が……皐月の白すぎる手が……俺の額を押し付けられた。

『――落ち着け』

 その御言によって身体の熱が奪われた。力が抜け、上がっていた肩がへなへなとしぼむ。

「まったく……ちょっとはたくましく成長したかと思えば、まだまだ頼りないですね」

 ため息をついたわりには、皐月は快活で嬉しそうだ。

「やはり、私が傍にいないといけません」

 そう言って、にっこりと笑う。

 なぜ笑っていられるのだろうか。殺した相手を、なぜいまだに好きでいられるのだろうか。

「皐月……なんでまた、俺の前に姿を現したんだ?」

「…………」

「なんでこんなやつをまだ好きでいられるんだよ。だって俺は、お前を……」

「黙りなさい」

 続けようとした言葉が出てこない。金縛りにあったかのように動けない。今度は御言をかけたれたわけではなく、物理的に口を封じ込められた。……接吻で。

 懐かしい感触。文句を言おうとすれば、皐月は遠慮なくこうして俺を封じた。

「黙りましたね……いい子です」

「あ、ああ……」

 くすくすと笑う皐月は「かわいい」と呟いた。

「かわいいって、俺のこと?」

「他に誰が?」

「うっ……」

 皐月の身体はあの頃のまま何も変わらない。当時は大人っぽく見えたが、今では子供に感じる。せいぜい中学生くらいにしか思えない。そんな子供に「かわいい」とか言われるのは心外だなと、そう言おうとしたが、それも俺のせいなのだと気を落としてやめた。

「私があなたの前に現れたのは必然ですよ。約束したでしょう?」

「約束って?」

「…………はい?」

「おい、睨むな。わかった、すぐに思い出す」

「結構ですね」

「たしかに、一緒にいようって約束した」

「そうですね、そうですよね、そう約束しました。ですから必然です」

「でも……それじゃあ、なぜ今頃になって? あれからもう七年も経つのに」

「時が来たからです。この時をどれほど待ち望んでいたでしょうか……」

「……時って……?」

 俺は今、皐月の膝枕の上にいる。冷たくて硬い感触。白くて細い太ももはどう考えても人間と変わらない。これが本当に「死霊」なのだろうか。もしかすると、皐月は今、式神のような存在なのかもしれない。あの人形を依代にして、再び現界したのだろう。だとすれば、霊体は人間とあまり変わらない機能を持てる。

「ようやく視力が戻ってきました。たぶんもう大丈夫です」

 皐月が目をこする。

「今度ゆっくりお話しましょう。とりあえず今は、私の御言で少しお眠りなさい。御霊が身体に馴染むには、眠るのが一番です」

「ちょっと待て、視力で思い出した。なんで今まで俺には皐月の姿が見えなかったんだ?」

「簡単なことです。御言で見えないようにしていたんですよ」

「そんなことまでできるのか?」

「本当は不可能ですけど、私はあなたと御霊でつながっていましたから、どんな御言でも通じます」

「なんでもありだな、その力……」

「便利でしょう?」

 皐月はニッコリと笑った。その笑顔は、あのときよりも成長した魅力を持っているように感じた。

「さあ、目を閉じて」

「あっ……ちょっと待……」

『眠れ』

 まだまだ話したいことがあるのに……。 

 俺の意識が吸い取られるように消えていく。

 彼女の懐かしい香りに包まれて、俺は心地よく眠りに落とされた。



           (第七章に続く)


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