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兵者

格闘ゲームの小説です。昔書いた小説を加筆、修正して投稿します。

作品中に出てくるシステムのデータや戦術、ダイヤグラムやネタは、

ネットその他を参考にさせてもらっています。

また、作品内のゲームに関する見識その他は、

必ずしも正確ではありません。単純な作者の知識不足もあります。

そのあたりはご了承ください。

皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。

お付き合いください。

相手が勇者であれば

喜んで闘うだろう

相手が勇者ならば

敗北は名誉になるからだ

相手が曲芸師に過ぎない場合は

私は逃げ出すかもしれない

相手が曲芸師ならば

敗北は恥辱にしかならないからだ

勇者とは、敗北を恥じない戦士だ

曲芸士とは敗北を恥じる道化だ

その精神の有り様以外その二つの性質を分けるものは無い

技巧の巧みさは問題にならない

勇者の前では勇者で有りたい

しかし道化を演じあうのは苦痛だ

上辺だけの乱痴気騒ぎに興ずる心は常に空しい

私は道化師の心でまた闘いから逃げ出すかもしれない




1

学生服を着た二人の少女が、隣同士で歩いている。

少女の内の一人は相馬香湖という名前だった。香湖は背が高く、清潔感のある黒いストレートヘアーの持ち主で

美しい顔立ちと相まって、気高く高邁な印象を与えた。

やや釣り上がった三白眼の瞳からは、彼女の気の強さが伺え一種近寄りがたい雰囲気があった。

もう一人の少女は八洲亜弓という名前だった。亜弓は香湖の肩位の背程しかなかったが

それは彼女が特別小柄と言う訳ではなく、単に香湖の背が高過ぎたのが原因であった。

亜弓は、髪をショートカットにしており、ボーイッシュな印象を与えた。

猫の様に大きな瞳が特徴的で、クルクルとよく動いた。

亜弓は香湖と対照的に明るく、人懐っこかった。 

香湖は不機嫌に、亜弓に言った。

「こんな所に連れ出すからには、期待して良いんだな?」

その声色には明らかに不満の響があったが、亜弓は気にする素振りも無く答えた。

「さあ。でもゲームコーナーにはあるんだよ。サードがね」

香湖はその言葉に眉根を寄せた、明らかに不満の体である。

「…そんな事だけで、こんな何でもないデパートに連れて来たのか…?30分もかけて?」

目の前の寂れたデパートを見上げながら香湖は呆れたように云った。

「だってサードがあるんだよ?この前お母さんと行った時に見たときは誰もいなかったけど

もしかしたら今日は強い人が居るかもしれないじゃない?」

香湖は呆れたように首を横に振る。

「やれやれ、またお前の思い込みに付き合わされたわけか私は・・・」

しかし亜弓は意に介さない。

「この街でサードのあるゲームセンターなんて数えるほどしかないんだよ。

それがこんな何でもないデパートのゲームコーナーに有るなんて運命的じゃない。

これはキットいるよ!まだ見ぬ強者がね」

香湖はいよいよ大きなため息をつくと

「運命なんか無い。まして強者などいる訳が無い」

「まあ見てなさいって。私の勘よく当たるんだから。百合夏の昇竜拳なみにね」とニッコリといった。

それを聞いた香湖は益々呆れると

「確かに、あれはうんざりするほどよく当たるな・・・」と呟いた。

二人は百貨店「ティーガー」のゲームコーナーを目指した。


百貨店「ティーガー」の二階にゲームコーナー「どきどきランド」は存在した。

大体においては、百貨店にあるゲームコーナーには、UFOキャッチャーやメダルゲームなどの

ファミリー向けの筐体が置いてある所がほとんどだ。

しかし「どきどきランド」にはそれらに混じって、おおよそファミリー向けと思われぬ、異彩を放つものがあった。

それは二対六台のテーブル筐体である。しかも稼働しているものは、全て格闘ゲームの対戦台であった。

古き良き時代の名作と呼ばれる格闘ゲーム。それが休日のほのぼのとした家族連れが過ごす百貨店のゲームコーナーで殺伐とした光を発し佇んでいる。

その中でも一際異彩を放つ格闘ゲームがあった。


「ストリートファイター3サードストライク」


稼動から既に数年を経過した今でも、奥深い読み合いと、駆け引きは、他の格闘ゲームの追随を許さず、現在に至るまで未だにこれを越える格闘ゲームは現れていない。

過去から現在に至るまで多くのプレイヤーに勝利の歓喜と敗北の絶望を味あわせている「サード」はまだその血と涙を吸い足りないのか今も多くの栄光と犠牲を強いている。

多くの「サードプレイヤー」が、有る者は勝利の栄光を求め、あるものは真理の深淵に到達するために、今だその限界を見せることなくそれはそこに存在している。




 どきどきランドのカウンターに座るアルバイトの大谷忠吾は、

現在唯一対戦が行われている「サード」をぼんやりと眺めていた。

カウンターから一番良く見えるゲームは「サード」で、それは大事な闘いを見逃さないという副店長の配慮から

あえてカウンターから一番見えやすい位置に置いてあるのであった。

現在行われている対戦は1プレー側がリュウ、2プレー側がケンで所謂「胴着系」同士の戦いであった。

既に一本先取されているリュウ側の体力は既に殆ど無く、ほぼ勝敗は決していた。

八方塞のリュウ使いのプレイヤーは日高裕二と言って、どきどきランドの常連の一人であった。

日高のリュウは半ばやけっぱちにジャンプしたが、ケンはSAの神龍拳を冷静に放ちリュウはBLできず、為す術も無く倒された。

それと同時に「イエー!」と煽るような歓声が2P側の筐体から聞こえた。

大谷のいるカウンターからは、2P側は筐体の影で見えないが、2P側にはケンを使うプレイヤーと他に2人の仲間がおり

3人は日高をからかうような煽り混じりの嬌声を上げて騒いでいるのだった。

画面に表示された2P側の連勝を示す数字が3から4に変わっていた。

「よえーよ。このゲーセンレベル低すぎ!」というあからさまな煽り声が聞こえた。

負けたリュウ使いの日高は、怒りを露わにして立ち上がると、小銭が尽きたのか両替をするために大谷が座るカウンターの傍にある両替機の方にやってきた。

大谷は悔しそうに両替をする日高に声をかけた。

「あんまり煽るようなら、注意しようか?初見の客だがどうもマナーが酷いな」

しかし日高は苦々しく首を振る。

「いいよ。あんな奴等次で倒す。力で黙らせてやるよ」

そういって日高は小銭を握り締めた。

大谷は頷くと「オウ、黙らせろ」と常連を応援した。


しかしその後も日高は敗北を重ねていき、相手の連勝を示す数字は既に9を示していた。

最早、ケン使いとの力の差は明白だった。

日高はコインを投入して再び乱入した。10回目の対戦が始まった。

その闘いの最中、二人の女子高生がどきどきランドを訪れた。

黒髪の背の高い少女と、ショートカットの可愛らしい少女だった。

二人は日高のやや後方に並んで立つとその対戦を興味深そうに観戦する。

大谷は二人の少女の見慣れない制服からこの近くの高校の生徒では無いだろうと思った。

初めて見かけた二人の少女が、熱心に「サード」の対戦を見ている姿に大谷は違和感を感じた。そして同時に不思議な魅力も。

何故ならば彼女たちが「サード」をプレイする姿を想像するのは余りにも困難だったからだ。そして又同時にこれほど容易に想像できることも・・・ 


結局日高はその勝負にも破れ、力なく席を立つと、悲しみとも屈辱ともいえない表情を浮かべ席を後して、二人の女子高生には目にもとめず、まっすぐに両替機に向かう。

大谷は苦痛に満ちた日高の表情に見かねて言った。

「もう止せよ。まだお前は修行不足と言うことだろう、もう少ししたら案山子かかしが来るから、あいつに任せろ」

しかし日高は頑なに首を横に振った。目には薄っすらと悔し涙を浮かべている。

連勝していたケン使いが連れの二人と共に、2P側から大谷たちの方に姿を見せた。

「あんま弱いんで俺達もう帰るわ。あんた弱すぎ、俺達回しプレーしてたんだけど

こいつ等二人に負けるんだもんな、SAも裂破とか神龍拳使ってやってたのに。

やっぱこの辺のゲーセンレベル低いわ。来るだけ無駄だったぜ」

そう言うとケン使いの男はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべた。

それを聞くと日高は「何だと!」と身体を乗り出してケン使いに掴みかかる。

「へえ、サードで勝てなかったらリアルファイトか。別に俺はそれどもいいよ?」

そう言ってケン使いは大げさに肩を竦めた。

大谷は日高を宥めると、内心イライラしていたが、努めて落ち着いた口調でケン使いに言った。

「もう直ぐうちの店員の案山子って奴が来る筈なんだ。そいつなら少しは君たちの相手にはなれる筈だよ」

「興味ねえなあ。どうせこいつと五十歩百歩だろ?」

ケン使いのその言葉に、日高はいきり立って云った。

「確かに俺は弱いかもしれない。けどなここにも強い奴は居るんだ!

お前じゃ案山子には勝てない…絶対だ」

ケン使いは侮蔑的な笑みを浮かべ日高を睨みつけると

「卑怯な奴だ。弱い上に他力本願か。最低の屑だな。

だけど闘わず帰って、後から妙な事を吹聴されたんじゃ胸糞悪い。その案山子とか言う奴と闘ってやるよ」

そう言うと男は連れの友人に何事か目配せすると再び話し出した。

「でも俺達も暇じゃないんだ。勿論只で待てとは言わないよな」

と言って物色するように辺りを見回すと

「そうだな、あそこに下がってるプライズくれたら待ってやってもいいぜ」

と言うと男はクレーンの景品のPS64を指差した。

それは高価なゲーム機であったが大谷は「ああ、いいよ」と独断で決めた。店長にばれたら即首である。

「但し、案山子に勝てればな」と付け加えるのは勿論忘れなかった。

「儲け儲け」

男達は勝ち誇った様に云った。

大谷は心の中で後で吠え面掻くなよと舌を出した。しばらくして大谷の携帯がなった。件の案山子からだった。

「はい…え?はい?マジ?どうしても?…」

大谷の不安そうな会話に日高が心配げに何事かと聞いてきた。

「案山子今日店休む。ぎっくり腰」青ざめた大谷は答える。声は震えていた。

かくして大谷の首は跳んだ…。かに見えた・・・。


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