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2話 その街シルフィード

まだもう少し書き足す予定です。

 

 今朝はよく晴れていて、起き上がると日はもう高く昇っていた。窓から入り込む風が幾分か涼しく感じられた。街はとうに活気があり、窓から下を覗いてみると石造りの路地を住民が忙しく歩いている。

 エリスはいつも適当な時間に眠り、適当な時間に起きた。とりわけ朝はあまり強くない。宿のベッドから起き上がり、エリスは二着しかない服を眺めておもむろにそのうちの一着に手を伸ばした。いつだったか、ここよりもっと南の街で買った服だった。髪は手櫛を何度か往復させ、宿の外に出た。

 どこからか音楽が聞こえてくる。あちらこちらに屋台が出ていて、野菜やら果物やらアクセサリーやらが売られていた。それを横目にエリスは待ち合わせの場所へ向かう。途中、真っ黒な子猫とすれ違った。

街の大きな時計台のある広場には、木々があり、ベンチがあり、小さな川が流れていた。茶色の小鳥があちこちを忙しそうに飛び回っている。

「エリスー!!」

 ベンチに座っていた男が立ち上がって大声で叫んだ。 エリスはそれに気がつくと、足早にその男に近づいた。

「ウィル、大声で呼ばないでくれる?恥ずかしい。」

「エリス、君何時間僕を待たせる気だったんだい?文句言う権利は君には無いと思うんだけど

。・・・・・・ところで今日はどこへ?」

 ウィルは不貞腐れてエリスに言い返した。エリスはじろりとウィルを見てから、図書館、と呟いた。

「了解。図書館ね。こっちだ。」

 そう言ってウィルは案内を始めた。


 この街はシルフィード、王都セレネの東に位置する。大体いつも天気がいいらしい。風も吹けば川もあり、街のいたるところで花が咲いていた。石造りの道が細かく続いていて、初めて来る人は迷ってしまいそうな造りだった。

ウィルはすれ違う人のほとんどと挨拶をかわしていた。前を歩くウィルの姿を見失わないよう、エリスは視界を流れる街並みを楽しんでいた。ゴミの一つも落ちていない、美しい街だとエリスは思った。街の人たちは陽気で、生き生きとしている。

「やぁ、リリー!」

 ウィルがまたすれ違うおばさんに話しかけた。髪を後ろでしばり上げ、いかにも快活そうな女性。その女性は赤のエプロンをして、空の麻袋だけを手にしていた。今から買い物にでも行くようだった。

「やぁ、ウィル。今日はデートかい?」

 リリーはエリスをちらっと見て、意味ありげにウィルに笑いかけた。

「リリー、こちらはエリス。この街のお客さんだよ。今、図書館に案内してるんだ。」

 ウィルは困ったように頭を掻きながら言った。

「初めまして、エリスです。」

「こんにちは、私はリリー。そこの鍛冶屋が私の店なのよ。この街にはいつ?」

「昨日のお昼過ぎ頃に。美しい街ですね、とても。」

 エリスはリリーと目を合わせてにっこりと微笑んだ。

「ありがとう。私はこの街が大好きなのよ!なんならエリスちゃんもこの街に住んでしまいなさいよ!面倒ならウィルが見てくれるわ!」

 大きな声で笑いながらリリーが言う。

「リリー!勝手なことばっかり。ほら、エリス、図書館へ行こう。リリーと喋ってると日が暮れる!」

 ウィルは即座にリリーに言い返して、さっさと歩き始めていた。エリスはその様子を見て少し笑うと、リリーに軽く会釈をしてウィルの背中を追った。さっきより足早になったウィルの背中を見つめながら、エリスは街のいたるところから浴びせられる視線に気が付いた。髪のせいだろうか、とエリスは歩くたびにきらめく銀髪に手をやる。女性で髪が短いだけでも珍しく、さらに銀髪なのだから目立たないわけがない。以前使っていたバンダナが雑巾のようになっていた挙句異臭を放っていたので、そろそろ寿命だとこの街に着く二日前に焼き払ってしまっていた。やはりあとで買いに行こうかとエリスは考えた。余所者が目立って良いことはほとんどない。ウィルも視線に気が付いているのか、周りをあえて見ないようにしているようだった。

 やがて図書館に着くころには、あの異様な視線は消えていた。

「ここが、この街の図書館。結構大きいから一日つぶせるよ。」

 そう言ったウィルとエリスの目の前には、いかにも古そうな、石造りの図書館が建っていた。入口には警備らしき男が二人立っており、入口は細かい装飾が施された木の扉、天井近くの窓はステンドガラスになっており、手の行き届いた立派な図書館だった。

「ありがとう。それにしても立派な図書館ね。ちょっと楽しみだわ。」

 エリスは嬉しそうに図書館の外観を見つめていた。

「だろ?ちょっと警備に話しつけてくる。本当は身分証いるんだけど、持ってないだろ?」

 ウィルは足早に、入口に立っていた警備らしき男に向かっていった。

 エリスはその様子を少し離れた場所から見つめていた。何かウィルがカードを差し出して事情を説明しているようだった。エリスはふっと来た道を振り返った。図書館まで続く、少し広めの道。風景や雰囲気は他と変わらないのに、あの一画だけに異様な視線を感じたことが気になっていた。

「エリス!」

 呼ばれて振り返ると、ウィルが手招きしていた。エリスは小走りにウィルのもとへ行く。

「僕と一緒だったら入っていいらしいから、勝手に帰ったりしないように。ついでに閲覧のみだってさ。」

 ウィルはどうやら閲覧のみというのが少し不満ならしく、言い捨てるように言った。

「十分よ。付き合わせちゃうけど大丈夫?」

「今日は仕事休みだし、大丈夫だよ。」

 そう言って歩き始めたウィルについて、エリスも図書館の入口に向かった。

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