第五章 心
あなたと一緒にいたい。
ただ、それだけ。
「緋鶴ちゃん。」
「何?」
「今日一緒に遊ぼうよ。」
「あー…今日は無理だわ。ゴメン。」
真央は首を傾げる。
「どうして?」
「バイト行かなきゃなんないから。」
「バイト…?緋鶴ちゃんバイトなんかしてたっけ?」
「いや、一緒にやらないかって誘われてさ。」
「…誰に?」
「A組の武坂。」
A組の武坂…
ってサッカー部でかなりモテてるあの武坂…?!
嘘だ…緋鶴ちゃんが、狙われてる!!
「緋鶴ちゃん!ダメだよ、そんなのと一緒にバイトだなんて…。」
「は?どうした真央。」
緋鶴ちゃんを…守らなきゃ!
「で?真央君の様子がおかしいと。」
「うん。何か変なんだ。私が武坂にバイト誘われたって言ったらさぁ…。」
「それって緋鶴のこと心配してんじゃないの?」
相談に乗ってくれている有美は肘で緋鶴を小突く。
「そーかねぇ…。」
緋鶴は大きな欠伸をすると椅子から立ち上がった。
「どこ行くの?」
「その武坂の所。」
「武坂ぁ!」
「お、篤宮。」
「今日は何時に行くんだ?」
「あー…。」
武坂智之、A組の学級長。
生徒会とサッカー部を両立させ、頭はいつも5番以内のトップレベル。
それに付け加え女子からとてもモテる容姿。
黒髪に茶髪が混じっている。
背は188cm。
緋鶴と1cm違いだ。
「じゃ、その時間に行くね。」
「あぁ。あ、篤宮!」
「ん?何?」
「…いや、何でもねえよ。」
「?そうか。」
そう言うと緋鶴は自分の教室へと戻っていった。
「緋鶴ちゃん、どこ行ってたの?」
「ん?何だ真央か。武坂の所さ。」
「武坂…緋鶴ちゃんは武坂が好きなの??」
「は?」
「だって…一緒にバイトするんでしょ?誘われたんでしょ?」
「いや、違うし。大体何で私が武坂を好きにならないかんのよ。」
「…そう見えるんだもん…。」
真央は口を少し尖らせて上目遣いに緋鶴を見る。
「私が男を好きになるなんてことありえないさ。こんな体だしね。
背高いと男も寄って来ないよ。」
あははと緋鶴は笑う。
真央はまだ心配そうに緋鶴を見上げていた。
「緋鶴ちゃんのこと好きになる男はいるよ…。」
空を見上げる緋鶴に、その言葉は聞こえたのだろうか。