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ヒロイン死すべし

作者: はっぱカタパルト
掲載日:2026/10/27


俺が、満月の夜、花畑の端で、ラップで雨乞いをするのには理由がある。

何も気が狂ったわけじゃない。


***


俺は生前、学校の、あるハーレム野郎と友達だった。

だが、そいつのメイン取り巻きが関わる事件に巻き込まれて、俺は死んだ。

死んだので、そこまでの記憶しかないが、多分ハーレム野郎と取り巻きは生きている。死ぬ直前、生き延びる術を見つけた風の顔をしていたからだ。


だから、俺はこう結論づけた。

ハーレムの取り巻き共、もとい、ヒロイン共はクソだってな。

動機はハーレム野郎こと俺の友達が関わってるのかもしれないが、大体の事件の渦中には、あいつら《ヒロイン共》がいた。なんなら、直接しでかすやつもいた。


それで、巻き込まれ続けて、俺はとうとう死んでしまった。

許せねえよな! 

主人公とヒロインがキャッキャウフフする過程で、巻き込まれる奴らが可哀想だ。つまり、俺みたいな奴は出すべきじゃない。




だから、異世界に転生して、そこが俺が読んでいたラノベ小説の世界だと知った時に、決めたんだ。

ヒロイン、死すべしってな。


思いはあれど、殺すわけじゃない。あいつらをヒロインたらしめるものを片っ端から、潰していく。

大体、ヒロインって苦労した経験とか、一途さとか、儚さで許されているところがある。

それを潰していけば、あら不思議。ただの顔がいい普通の女の子の出来上がりだ。


ヒロインが

他人を巻き込んで、恋愛進めたり、

突飛な行動起こして、主人公に手間かけさせたり、

犯した罪や責任問題について、情状酌量の余地生ませたり、

っていうのは全部阻止。


というわけで、俺は小説の主人公たちに付きまとい、ことあるごとに(ヒロインの)邪魔をしていった。




この世界の主人公の名前はロンドリアン。合理主義かつ楽観主義。だが、話せば分かるタイプだ。

田舎出身で、王都で有名な冒険者として活躍していたことで目をつけられ、王様から、魔王との話し合い、うまくいかなければ、暗殺を命じられている。


ヒロインはエリエス。家名は長かったから忘れたが、王女様だ。なんか浄化能力があるから身分を隠して、ロンドリアンについていくらしい。さすがに生まれ持った能力については、どうにもできないからここ以外をやっていく。


さて、ターゲットを分析しよう。

エリエスは、とことんヒロインだ。

身分とか、特別な能力だとかで旅先のでかいハプニングは、大体こいつが関わっている。特別な能力はあれど、身体能力は低く、儚い。んで、ロンドリアンと頻繁に、いい雰囲気になろうとする。だが、誠実で、清らかで、慈愛で人を殴ってくるようなやつだ。




とりあえず、俺はあいつら周辺をうろちょろしつつ、先んじてヒロインをヒロインたらしめるハプニングを片っ端から解決した。


それと、ことあるごとに、力が欲しいかとささやき、エリエスに栄養指導をした。

筋肉への勧誘も怠らない。


ヒロインがさらわれなければ、必要な物語が始まらないなら、俺をさらわせた。


ロンドリアンといい雰囲気になり始めたら、ホラ貝を吹き鳴らした。


エリエスが満月に、花畑の真ん中で歌い始めたら、ラップで雨乞いを始めた。

ちなみに、雨は降らなかった。代わりに、エリエスが気まずそうに宿に帰っていった。


俺の努力の甲斐があり、エリエスにまつわる物語で命や家族を失う奴は出なかったし、エリエスは血色のいい、痩せマッチョになった。これでもう、儚いなんて言わせない。

色々と原作を変えてしまったが、必要な成長やアイテムなんかは俺がサポートしたから、問題なく、魔王と話し合い、後、殺し合いをした。


***


物語の通り、主人公は勝利した。

魔王の死体がそばにあるのなら、ここが物語の最終局面である。俺はエリエスに最終確認をしなければならない。

まず、魔法でエリエスのそばに桜の木を生やす。


……うん。桜に攫われそうには、到底見えない。何なら、エリエスが魔王を殴ったときにできた返り血で、怪異にすら見える。


「レフト。いつもながら、君は一体何をしてるんだい? 」

「確認、だな。ロンドリアン、この木のそばにいるエリエスについてどう思う? 」

「え、まあ、女性に花はよく似合うと思うよ。」

「エリエスさ、なんかこの木に攫われそうじゃね? 」

「え、とてもそうは思わないけど。この木って魔物が何かなの? 」


ふむ、主観的にも、客観的にも問題なく儚くなさそうだ。


「じゃあ、やっぱお前は普通の女の子だよ。」


戸惑いに身を任せているエリエスに声をかける。


「これって何か意味があるの? レフトがしたいこと、いつもよく分からないのだけど。」

「あ、あと最終確認。ロンドリアンのこと、好き? 」

「え、え? いえ、ロンドリアンは仲間として頼もしいけれど、別に……。」

「いいね! ちなみに、ロンドリアンは? 」

「俺は、故郷に幼なじみ残してるから。エリエスと同じだよ。」

「いいねえ! んー。」


俺は、確かにヒロインを死なせることができたようだ。


「うん。満足した! 俺も故郷に帰るかな。」

「ええ!? な、なんで? 」


先ほどよりもずっと狼狽したエリエスが聞いてくる。

なんだ? やり残してることはないはずだけどな。


「え、この旅に満足したから? 」

「貴方勝手についてきてただけでしょ! それに、それに……、貴方は、わ、私のこと、」

「うん。嫌いじゃなくなった。今普通ね。ニュートラァル。」

「え」

「な、ロンドリアン。勝手について来てた身でも、お前らから見たら役に立ってたっしょ。」

「確かに君の功績は確かなものだね。大きすぎるほどだ。仲間として、一緒に王に謁見する? 」

「逆。俺、もう村帰りたいから、報告とか片付けとか任せたいんだよ。代わりに功績とかはいらないから。」

「そっか。君らしいね。分かった。君のことはいい感じにごまかしておくよ。」

「悪いな。」


この主人公の物わかりの良さが、俺がこの小説を好きになった理由の一つだ。読者の戸惑いよりも先に先にと進む姿勢が、捻くれた生前の俺には、ひどく愉快だった。


「ちょっと待って、レフト! 」


特に立ち止まる理由はない。

目的が達成されたなら、物語への異物は速やかに排除されるべきだ。原作とほとんど同じ結末にたどり着いたとはいえど、ヒロインの魔改造を行ってしまった俺に、もう物語に関わる資格はない。

後悔はないが、本当に自分勝手なことをしたものだ。


しんみりとした気持ちになりつつ、俺は故郷の村行きの転移アイテムを発動させた。


***


ロンドリアンたちと別れて数週間。

俺が読んでいた小説の通りに、国は平和になった。

ただ、俺が介入したことで、死んでるはずの奴が生きていたり、ヒロインと結ばれるはずだった主人公が、幼なじみと結婚していたりする。

だが、概ねハッピーエンドだ。


俺は、転生後の実家である宿屋を継ぎつつ、物書きを始めることにした。異世界の価値観を持っていたら、面白いかどうかはともかく、珍しいものぐらいは書けるだろうという魂胆だ。

ちなみに、今こうして、自室にて思考を巡らせているが、これは一種の現実逃避だ。


ドンドンドンドン


ずっと部屋の窓が割られかけている。

なんか、見覚えのある女の子が鬼のような形相で、こっちに何か言っている気がする。

そう、エリエスだ。


「なんで、わたしを置いていったの? 貴方がわたしを変えたのよ。なんで? なんで? 出て来い。出て来い、出てこい、でてこいでてこいでてこいでてこい……。」


ちょっとよく分からない。

だが、彼女の鍛えられた拳が、魔法で強化されているはずの窓をドンドンと叩き続けている。


「もし、貴方がロンドリアンと同じように、幼なじみと結婚するって言うなら、私絶対許さないから。」


これは、あれか? 結婚相手に主人公を当てにしてたけど、無理そうだから、責任取れとか?

もしくは、色々関わるうちに、俺のことを好きになっちゃった、的な?

原作主人公から転生者がヒロインを奪い去る。正によくある転生モノだ。


俺が鍛えてやった筋肉が、俺の部屋の窓にヒビを入れる。 


なんとも皮肉なものだ。

俺は、エリエスをロンドリアン向け正統派ヒロインから、俺向けヤンデレヒロインにしただけだったのかもしれない。

こうなると、ここまでの道のりは、完璧ではなかったと言わざるを得ない。


ピシピシピシ


この窓が完全に割れる前に、俺はエリエスと向き合うことを腹に決める必要があるだろう。今のエリエスは、俺が恐れていた周囲に被害をもたらすヒロインそのものだ。

前よりひどい。


ピシ、ガシャーン


振るわれる拳が眼前に迫る。

俺は、まだまだヒロインを死なせる必要があるようだ。


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