5話 帰り道
夕方。
「…….じゃあ、ここで」
駅の前で、水瀬紗良が立ち止まる。
「ああ」
少しの沈黙。
さっきまで一緒にいたのに、急に距離ができた気がした。
「今日は……ありがと」
少しだけ目を逸らしながら言う。
「その、ちゃんと練習できたと思う」
「……ならよかった」
それだけ言うのが精一杯だった。
「じゃあ、また学校で」
水瀬は軽く手を振る。
「ああ、また」
そのまま背を向けて歩いていく。
夕方の光の中で、その姿が少しだけ遠くなる。
⸻
(……終わった、か)
胸の奥が、ほんの少しだけ寂しくなる。
帰り道。
一人で歩きながら、今日のことを思い返す。
(……普通に楽しかったな)
練習とか関係なく。
ただ一緒にいるのが、楽しかった。
その時。
スマホが震えた。
「……ん?」
画面を見る。
表示された名前に、少しだけ心臓が跳ねる。
水瀬:
『今日はありがとう。楽しかった』
(……)
少しだけ、見つめる。
それから。
『こっちこそ』
打ち込む。
少し迷って。
『俺も楽しかった』
送信。
(……なんか恥ずいな)
そう思った直後。
すぐに既読がつく。
『ほんと?』
(早っ)
思わず口元が緩む。
『うん』
短く返す。
それだけなのに。
『よかった』
その一言が、やけに残る。
(……なんだそれ)
たったそれだけのやり取りなのに。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
スマホをポケットにしまいながら。
ふと、思う。
(……月曜、どうすんだこれ)
教室では、いつも通りの距離。
でも――
今日のことを知っているのは、自分たちだけ。
(普通にできる気がしねえ……)
小さくため息をつく。
高校デビューに失敗したはずなのに。
気づけば――
少しずつ、何かが変わり始めていた。
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