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 4話 縮まる距離

 

土曜日。


(……やばい、早すぎた)


朝倉湊は、待ち合わせ場所の前でスマホを見ながら立ち尽くしていた。

約束の時間より、30分も早い。

落ち着かない。

帰りたい。でも帰れない。


(なんで俺、こんなことになってんだよ……)


高校デビューに失敗したはずなのに。

なぜか今――

クラスの美少女と二人で出かける約束をしている。


(……練習、だよな)


そう自分に言い聞かせた、その時。


「ごめん、待った?」


声がして、顔を上げる。


「……っ」


一瞬、言葉を失った。

そこにいたのは――水瀬紗良。

いつもの制服じゃない。

シンプルな私服。

柔らかい色のトップスに、軽く揺れるスカート。

それだけなのに。


(……普通に可愛すぎるだろ)


「……朝倉くん?」


「あ、いや……大丈夫」


慌てて目を逸らす。


「今来たとこ」


嘘だ。めちゃくちゃ待ってた。


「そっか」


水瀬は少しだけ安心したように笑う。

でも、どこかぎこちない。


「……なんか、変じゃない?」


「え?」


「その、服とか……」


少しだけ不安そうに聞いてくる。


「……いや、全然」


むしろ良すぎる。

でもそれを言う勇気はない。


「似合ってると思う」


そう言うと、水瀬は一瞬だけ目を丸くして。


「……そっか」


少しだけ、照れたように笑った。


少しの沈黙。


「……じゃあ、行こっか」


「ああ」


ぎこちないまま、二人で歩き出す。

ショッピングモールの中。

人の多さに、少しだけ距離が近くなる。


「……人多いな」


「うん」


それだけの会話。

続かない。


(やばい、何話せばいいんだ)


頭の中で必死に考える。

でも――


「ねえ」


水瀬が小さく言う。


「こういうの、初めてでしょ?」


「……まあ」


正直に答える。

すると彼女は、くすっと笑った。


「私も」


「え?」


「こういうの、全然慣れてない」


少しだけ、視線を逸らしながら言う。


「……だからさ」


少しだけ立ち止まって。

こっちを見る。


「今日、ちゃんと練習したい」


「……お、おう」


真面目な顔で言われると、余計に緊張する。


「とりあえず」


水瀬は周りを見て。


「服、見てみたい」


「服?」


「うん」


少しだけ笑って。


「どういうのがいいのか、分かんなくて」


「……俺も分かんねえけど」


「でしょ?」


くすっと笑う。

その空気が、少しだけ楽になる。

店に入る。

並ぶ服を見ながら、ぎこちなく歩く。


「……これとか?」


適当に指さす。


「うーん……どう思う?」


逆に聞かれて困る。


「……似合いそうではある」


曖昧な答え。

でも。


「じゃあ着てみる」


あっさり決める。


数分後。

試着室のカーテンが開く。


「……どう?」


出てきた水瀬を見て。


「……っ」


言葉が出ない。

さっきより、少し大人っぽい雰囲気。


(やばいだろこれ……)


「……変?」


不安そうに聞いてくる。


「いや」


やっと声を出す。


「……普通に、いいと思う」


その一言で。


「そっか」


少しだけ嬉しそうに笑った。


「朝倉くんさ」


ふと、水瀬が言う。


「さっきから、ちゃんと見てるよね」


「……は?」


「服じゃなくて」


じっと見てくる。


「私のこと」


「っ……!」


一瞬で顔が熱くなる。


「いや、それは……」


言い訳できない。

すると水瀬は、くすっと笑って。


「まあいいけど」


少しだけ近づいてくる。


「練習だから」


その距離に、心臓が一気に跳ねた。


(……練習、だよな)


そう思いながらも。

この時間が、嫌じゃないと思ってしまう自分がいた。

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