2話 デートのお誘い??
昼休み。
「……今日も無理だったな」
朝倉湊は、机に突っ伏しそうになりながら小さく呟いた。
周りでは、すでにグループができあがっている。
楽しそうな声。笑い声。
そこに入る勇気は、やっぱり出なかった。
(高校デビュー、完全に失敗してるな…)
朝倉湊は、机に突っ伏しそうになりながら小さく呟いた。
そんなことを考えながら、ふと視線を上げる。
クラスの中心――水瀬紗良が、誰かと楽しそうに笑っていた。
自然に会話して、距離も近くて、まるで別の世界の人みたいだ。
(……昨日あんな話したのに)
秘密を共有したはずなのに。
こうして見ると、やっぱり遠い。
そう思って、視線を逸らそうとした、その時。
「ねえ、朝倉くん」
「っ!?」
すぐ横から声がして、思わず肩が跳ねる。
気づけば、水瀬がすぐ隣に立っていた。
「な、なんでここに……」
「ちょっとだけ」
当たり前みたいに言って、彼女は自然に距離を詰めてくる。
近い。普通に近い。
「さっき、ずっと一人だったよね」
「……見てたのかよ」
「分かりやすすぎ」
くすっと笑われて、言い返せない。
(……距離、近くないか?)
昨日よりも、さらに近い気がする。
そう思った、その時。
「紗良ー!」
クラスメイトの声。
その瞬間、水瀬はすっと一歩引いた。
「今行くー!」
さっきまでの空気が、嘘みたいに消える。
いつもの“クラスの中心の水瀬紗良”に戻っていた。
「…………は?」
一人残された湊は、ただ呆然とする。
(ほんと、なんなんだよあいつ……)
放課後。
人が少なくなった教室で、帰る準備をしていると。
「ねえ」
また、声がした。
振り返ると――水瀬がいた。
「……お前、タイミング読んでるだろ」
「まあね」
少しだけ悪戯っぽく笑う。
「今なら話せるでしょ?」
「……まあ」
そう言われると、否定できない。
少しの沈黙。
さっきまでと違って、どこか落ち着いた空気。
そして――
「ねえ、朝倉くん」
水瀬が、少しだけ真面目な顔になる。
「ん?」
「ちょっと、お願いがあるんだけど」
その言い方に、思わず姿勢を正す。
「……何?」
一瞬、言葉を選ぶように視線を逸らして。
それから、少しだけ恥ずかしそうに。
「その……」
小さく息を吸って――
「まだ男子に慣れてなくてさ」
「……え?」
思わず聞き返す。
あの水瀬が?
クラスの中心で、誰とでも話してるあいつが?
「だから、その……」
少しだけ目を合わせて、すぐに逸らす。
「練習、付き合ってくれない?」
一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
「……練習?」
「うん。普通に出かけたり、話したり……そういうの」
心臓が、ドクンと鳴る。
それって――
「……それって、つまり」
「土曜、空いてる?」
かぶせるように言われて、完全に思考が止まった。
(え、これって……)
頭の中で言葉がまとまらない。
練習?
出かける?
二人で?
「……いや、俺でいいのか?」
やっと出た言葉は、それだった。
すると水瀬は、少しだけ笑って。
「朝倉くんがいいの」
その一言で、心臓が一気に跳ねる。
「変に慣れてる人だと緊張するし」
「……あー、まあ、俺は慣れてないけど」
「でしょ?」
くすっと笑う。
その表情が、いつもより少しだけ柔らかく見えた。
「だから、ちょうどいいかなって」
「……」
少しだけ考える。
でも――
断る理由なんて、なかった。
「……分かった」
そう言うと、水瀬はぱっと表情を明るくした。
「ほんと?」
「ああ」
「ありがと」
少しだけ嬉しそうに笑う。
その笑顔に、また少しだけドキッとする。
「じゃあ、土曜ね」
「ああ……」
「楽しみにしてる」
そう言って、軽く手を振って教室を出ていく。
一人残された湊は――
「…………は?」
しばらく、その場から動けなかった。
(なんでこうなった……)
高校デビューに失敗したはずなのに。
気づけば――
クラスの美少女と、土曜に二人で出かける約束をしていた。
(……これ、練習だよな?)
そう自分に言い聞かせながらも。
胸の鼓動は、全然落ち着かなかった。
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