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 1話 高校デビュー

見ていただきありがとうございます!!

最後まで読んでいただけたらうれしいです!

「……やらかした」


朝倉湊は、自分の席で静かに絶望していた。

教室のあちこちでは、すでにグループができ始めている。


「よろしくー!」「同じ中学?」「インスタ交換しよー」


そんな会話が飛び交う中、湊は一歩も動けない。


――高校デビュー、失敗した。


中学の頃の自分を変えようと決めていたはずなのに。

結局、何も変わっていない。

話しかけるタイミングも、言葉も、全部わからない。

ただ時間だけが過ぎていく。


(……詰んだ)


心の中でそう呟いた、その時だった。


「ねえ、あの子めっちゃ可愛くない?」


誰かの一言で、教室の空気が一気に変わる。

視線の先には、一人の女子。

長い黒髪に、整った顔立ち。

自然に人の輪の中心にいるその姿は、まさに“完成された美少女”だった。


「水瀬さんっていうらしいよ」

「え、レベル高くない?」


ざわめきが広がる。


――住む世界が違う。


湊は一瞬だけ見て、すぐに視線を逸らした。

関わることなんてない。

そう思った、その時。


「……あ」


小さな声が聞こえた気がした。

顔を上げると――

水瀬紗良と、目が合った。

一瞬だけ、時間が止まる。

彼女は、ほんのわずかに目を見開いていた。


(……なんだ?)


次の瞬間には、何事もなかったかのように笑って、周りと話し始める。

けれど。


(今の、なんか変じゃなかったか……?)


妙な違和感だけが残った。



放課後。

人が少なくなった教室で、湊は一人、帰るタイミングを探していた。

誰とも話していない一日。

笑えるくらい、完璧な失敗だ。


「……はぁ」


小さくため息をついた、その時。


「ねえ」


不意に、声をかけられた。

驚いて顔を上げると――

そこにいたのは、水瀬紗良だった。


「少し、いい?」


クラスの中心にいたはずの美少女が、なぜか自分を見ている。

頭が一瞬、真っ白になる。


「え、あ、うん……」


ぎこちなく頷くと、彼女は少しだけ安心したように微笑んだ。

そして――


「朝倉くん、だよね?」


名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。


「……え、なんで」


初対面のはずなのに。

そう言いかけた言葉は――


「中学、一緒だったよね」


水瀬紗良のその一言で、思考が止まる。


「……え」


記憶を探る。

同じ中学。

確かにそう言われれば、そんな気もする。

けど――


(こんなやつ、いたか……?)


目の前にいるのは、クラスの中心にいる美少女だ。

中学時代の自分と関わりがあったとは、とても思えない。


「ごめん、あんまり覚えてなくて……」


正直にそう言うと、一瞬だけ――ほんの一瞬だけ。

彼女の表情が揺れた。

けれどすぐに、いつもの柔らかい笑顔に戻る。


「そっか。まあ、無理もないよね」


軽く笑ってそう言う。

その言い方が、どこか引っかかる。

まるで――


(覚えてなくて当然、みたいな……)


そんな空気だった。


「……水瀬って、その……昔からあんな感じだったっけ」


気になって、つい聞いてしまう。

すると彼女は、少しだけ目を細めて。


「どういう意味?」


「いや、その……今みたいに、みんなと普通に話してる感じ」


言葉を選びながら言うと、彼女は少しだけ間を置いて――

ふっと、小さく笑った。


「全然違うよ」


その一言は、あまりにもあっさりしていた。


「むしろ、真逆」


「……え」


「だから――高校デビュー、ってやつ」


さらっと言われて、思わず固まる。


「……マジで?」


「うん。結構頑張った」


そう言って笑う姿は、やっぱり今の“水瀬紗良”そのものだった。

けど。


(……同じかよ)


胸の奥で、何かが少しだけ緩む。


「朝倉くんも、でしょ?」


「……まあ」


苦笑いしか出ない。


「見てれば分かるよ」


ズバッと言われて、軽くダメージを受ける。


「いや、そんな分かりやすい?」


「うん、結構」


即答だった。

思わず顔を逸らすと、くすっと小さな笑い声が聞こえ

た。

その空気は、不思議と嫌じゃなかった。

少しだけ沈黙が落ちる。

教室には、もうほとんど人はいない。

その中で――


「ねえ」


水瀬が、少しだけ声を落とした。


「これ、秘密にしない?」


「……何を?」


「お互いのこと」


まっすぐな視線で、そう言う。


「元々どうだったか、とか。高校デビューしてるってこと」


一瞬、言葉の意味を考える。


そして――


「……ああ」


すぐに理解した。


「バレたら、終わるもんな」


「うん、終わる」


即答だった。

二人同時に、少しだけ笑う。


「じゃあ――」


水瀬が一歩、少しだけ距離を詰める。


「クラスでは、普通に」


「……知らない感じで?」


「そう。それで――」


ほんの少しだけ、いたずらっぽく。


「こういう時だけ、話すの」


その提案に。


「……いいんじゃね、それ」


気づけば、自然にそう答えていた。


「でしょ?」


満足そうに笑う彼女は、やっぱりクラスの美少女そのものだった。

けれど――


(なんか、さっきより話しやすいな)


理由は分からない。

でも、確かにそう思った。




その帰り道。


水瀬紗良は、ふと空を見上げる。


(覚えてなかったなぁ)


分かっていたことだけど、少しだけ苦笑する。

それでもーー


(いいや)

小さく息を吐いて、前を向く。


「今度は、ちゃんと話せたし」


あの日は、ただ聞いていただけだった。

名前も知らないまま、終わった関係。

でも今は違う。

同じ教室で、言葉を交わしている。

それだけで、十分だった。


(.....少しずつでいいよね)


そう思いながら、静かに微笑んだ。


読んでくださりありがとうございます。

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