第6話「放課後」
第6話「放課後」
午後の授業が終わると、教室の空気がふっと緩んだ。
だが、ゆうの周囲だけは相変わらず“静かな結界”が張られているようで、誰も近づいてこない。
女子たちは自然に距離を取りながら席を立ち、廊下へ流れていく。
(……放課後なら、もう少し普通に話せるかと思ったんだけどな)
ゆうが鞄を肩にかけて立ち上がると、近くにいた女子が一瞬だけ固まり、
その後、そっと道を開けた。
「……どうぞ……」
声は小さく、震えている。
拒絶ではなく、むしろ“配慮”の色が濃い。
(やっぱり、こうなるのか)
廊下に出ると、生活指導の女性教師がちょうど巡回していた。
ゆうを見つけると、わずかに表情が変わる。
「あ……崎山くん。帰るの?」
「はい。今日はもう帰ります」
返事をした瞬間、教師は胸に手を当てて息を整えた。
その反応は、もはや見慣れてしまった。
「……そう。気をつけて帰るのよ。
あの、もしよかったら……校門まで一緒に――」
「大丈夫です。ひとりで帰れますから」
ゆうがそう言うと、教師は一瞬だけ言葉を失った。
“断られる”ことを想定していなかったような顔だ。
「……そ、そう……? でも……その……」
教師は周囲を気にしながら、声を落とした。
「……男子のひとり歩きは、あまり……推奨されていないから……」
(ひとり歩きが推奨されてない……?)
ゆうは思わず眉をひそめた。
この世界の常識が、またひとつ顔を出した気がする。
「本当に大丈夫です。家も近いので」
「……わかったわ。でも、何かあったらすぐに学校に連絡してね」
教師はそれ以上強く言わず、ゆうを見送った。
その背中には、心配と戸惑いが入り混じっている。
校門へ向かう途中、女子たちの視線が何度もゆうに向けられる。
だが、誰も声をかけてこない。
近づきすぎないように、自然と距離を取って歩いている。
(……ここまで徹底してるのか)
校門を出ると、通学路でも同じだった。
女子たちはゆうを見つけると、列をずらし、間隔を空ける。
「……男の子、通るよ」
「距離……ちょっと」
「……触れないように」
その声は淡々としていて、特別なことではない。
ただの“確認作業”のように自然だ。
(俺が特別なんじゃなくて……男子全体が、こういう扱いなんだな)
ようやく理解が追いついてきた。
男子は少数で、保護される存在。
近づきすぎないのが礼儀で、
話しかけるのも慎重で、
返事が返ってくるのは“特別”。
(……この世界、やっぱり変だよな)
家が近づくにつれ、ゆうは少しだけ肩の力を抜いた。
今日一日で、
この世界の“普通”がどれほど自分の知っている普通と違うか、
嫌というほど思い知らされた。
(……まあ、焦っても仕方ないか。少しずつ慣れていくしかない)
玄関の前に立つと、家の中から気配が動いた。
「……ゆう? 帰ってきたの?」
母の声は、どこかほっとしたように聞こえた。
ゆうは靴を脱ぎながら、小さく息をついた。
――第6話、終わり。




