第14話「呼び出し」
第14話「呼び出し」
四時間目が終わった直後、教室の空気がふっと揺れた。
担任の女性教師が、ゆうの席の横に立っていた。
いつもより少しだけ硬い表情で、しかし声は静かだった。
「崎山くん。少し、来てくれる?」
その一言で、周囲の女子たちが一瞬だけ息を呑む。
ゆうは立ち上がり、教師の後ろについて廊下へ出た。
歩くたびに、教室のざわめきが遠ざかっていく。
職員室の前まで来たところで、教師は扉を開けずに立ち止まった。
周囲に誰もいないことを確認してから、ゆっくりと振り返る。
「……最近、女子たちがあなたに話しかけるようになってきたわね」
ゆうは少し驚いた。
教師の声には、責める色はなかった。
ただ、慎重に言葉を選んでいるのがわかる。
「あなたが悪いわけじゃないのよ。むしろ、自然に接してくれる男子は珍しいの。
でも……女子たちがあなたに近づくと、周囲が敏感になるの」
ゆうは昨日の白石や高瀬のことを思い出した。
返事を返すだけで固まったり、顔を赤くしたり、周りがざわついたり。
あれが“普通”ではないことは、もう理解している。
教師は続けた。
「昨日、何人かの女子が相談に来たの。
“男子に話しかけてもいいのか”って。
あなたに返事をもらって……どうすればいいのかわからなくなったみたい」
ゆうは言葉を失った。
自分の“普通”が、誰かを迷わせている。
教師は少しだけ柔らかい表情になった。
「あなたが返事を返すと、女子たちは嬉しいのよ。
でも、それと同時に不安にもなる。
男子にどう接すればいいのか、正解がわからないから」
ゆうは静かに息を吐いた。
「……俺は、普通に接したいだけなんです」
その言葉に、教師は一瞬だけ目を見開いた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「ええ。わかってるわ。
あなたの“普通”は、とても大切なことよ。
ただ……女子たちが慣れるまで、少しだけ気をつけてあげて」
ゆうは頷いた。
「わかりました」
教師はほっとしたように微笑んだ。
その笑顔は、教師としてのものではなく、
ゆうをひとりの生徒として大切に思っている表情だった。
「ありがとう。じゃあ、戻りましょう」
ゆうは教室へ戻る途中、
廊下の窓に映る自分の姿をちらりと見た。
(……俺の“普通”が、誰かを動かしてるのか)
教室の扉を開けると、
女子たちの視線が一斉に集まった。
すぐに逸らされるが、
その一瞬に、昨日とは違う“何か”があった。
ゆうは席に戻りながら、
静かに息をついた。
――第14話、終わり。




