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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

運命の人

ボーイズラブandハッピーエンドです。最後まで読んで頂けると嬉しいです。

「君は僕の運命の人」

そう言いながら近付いて来た知らない人、、、。怖い、、。



*****



 夕陽が街をオレンジ色に染め

(明日は晴れかぁ、、、)

なんて思っていたら、急に腕を掴まれて

「君は僕の運命の人だ」

と囁かれた、、、。

「違います」

と、つい返事をしてしまったけど、顔を見ても誰だかわからなくて怖い。

「あの、誰、、、?」 

(早く逃げないと)

と思いながら、身体が動かない。

「京也。君の運命の相手だよ。君の名前は?」

(これって、名前、言わないといけないのかな?言いたく無いんだけど、、、)

怖すぎて、喉が詰まる。呼吸が浅くなって身体が強張る。

「おい!」

後ろからデカい男に抱き締められた。

「何やってんの?誰だよ、アンタ」

(助かった、、、)

「彼は、僕の運命の人なんだ。お前には関係無い」

「は?何言ってんの?運命なんて馬鹿じゃない?」

涼ちゃんは、僕をクルッと回すと、京也って人から隠す様に抱き締めた。僕も、あの人に見られたく無いから、涼ちゃんの胸に顔を埋めて隠れる。

「馬鹿じゃないさ。彼を見ると胸がドキドキしてどうにかなりそうなんだ、今だってお前が触ってるだけで、気がおかしくなりそうなんだ!」 

彼がどんどん興奮して来る。

「運命なんて大袈裟な。単なる恋心だろ?」

ブフっ!

「俺の口から恋心なんて単語が出てる!」

涼ちゃんが巫山戯ふざけるから、僕も肩の力が抜けた。

「兎に角!彼は僕の運命の人なんだ!彼から離れろよ!」

「でも、本人が嫌がってるからな、、、」

僕は涼ちゃんの腕の中で、コクコクと頷く。

「名前!せめて名前を教えてくれよ!」

涼ちゃんが僕に

「言うなよ。相手に真名を知られたら操られるからな!」

と言う。涼ちゃんの顔を見ると、ニヤニヤ笑っていた。最近、そーゆう漫画でも読んだのかな?と思いながら頷く。

「おいで、僕の運命の人」

京也って人が僕に手を差し出す。僕は目をギュッと閉じて、涼ちゃんにしがみ付く。

 涼ちゃんは僕を両手で抱いて、京也から遠ざけた。

「まず、自己紹介したら?」

(涼ちゃん?このタイミングで?) 

「そうだね、僕は羽柴京也。そこの大学3年生」

「羽柴京也、大学3年生ね。何歳になるの?」

「二十歳」

「今年成人式?」

「そうだよ。もう大人なんだ。君は幾つ?」

「ね、羽柴京也さん、名前もバレちゃったし、悪い事出来ないから今日は帰ったら?」

「、、、でも、せっかく運命の相手に出会えたのに、、、」

「運命の相手なら、またすぐ会えるよ。こいつも門限があるし、早く帰さなきゃ」

「え?そうなの?それなら早く帰してあげなくちゃ」

「じゃあね、羽柴さん」

「またね」

涼ちゃんはゆっくり歩いて角を曲がると

「走れっ!」

って言って二人で逃げた。


 めちゃくちゃ怖かったぁ〜。



*****



 角を曲がりながら100メートル位ダッシュして、僕達は隠れながら後ろを確認した。良かった、後は付けられていない。

 息を切らせながら、家路に向かい、角を曲がる度に京也がいないか確認した。

 しばらくして、もう大丈夫だろうと安心すると

「アイツ、やばいな」

と涼ちゃんが言う。

「めちゃ、怖かった、、、」

「運命の人だって。運命ってなんだよ」

スマホで調べながら

「調べても、わけわからん」

と言う。

「明日から大丈夫かな、、、」

「なー、、、。アイツと何処で知り合ったの?」

「全然知らない人。会った記憶も無いよ」

「取り敢えず、家まで送るよ」

「かっこいい事言って、お隣だからね?。一緒に帰るだけだよね?」

「ついでに、母さんの晩飯食ってけよ」

「え。いつもいつも悪いよ」



 涼ちゃんは隣に住んでる。僕は中学生の時に母さんを病気で亡くして、今は父さんと二人で暮らしている。

 おばさんは、僕によく晩御飯をご馳走してくれる。僕の父さんは毎晩帰りが遅いから心配なんだ。僕は食も細いし、線も細いからいつも心配されている。

「良いんだよ。母さん、お前の事がお気に入りなんだから」

おばさんは、本当は涼ちゃんの次に妹が欲しかったらしい。それが、弟が三人出来て諦めた。だから、僕が小さくて大人しいからか凄く大事にしてくれた。

 母さんとも仲が良くて、母さんが病気になった時は色々心配してくれたし、母さんが亡くなった時は涙を流してくれた。僕のもう一人のお母さんみたいな人だ。


 涼ちゃんの家の玄関を開けると靴がいっぱいあった。

「涼、お帰り。今日は仁の友達が来てるから、貴実きみちゃんの家で食べて」

「おう」


 涼ちゃんは荷物を部屋に置きに行き、着替えて、お盆に二人分の晩御飯を乗せて来た。

 涼ちゃんの白飯は丼に山盛りで、おかずの量も凄い。お盆が重たそうだ。

 僕が先に歩き、玄関の鍵を開ける。ドアを開けて、電気を付けて涼ちゃんに入ってもらう。

「お邪魔しまーす」

誰もいないのに、声を掛けて涼ちゃんは偉いなと思う。

「どっちで食べる?」

荷物を置きながら聞くと

「居間にしようか」

と言いながら奥の部屋に行く。

炬燵こたつ出てるじゃーん!」

と涼ちゃんが喜ぶ。炬燵にお盆を置き、ラップを外す。

「鞄置いてくるね」

涼ちゃんは、勝手にポットでお湯を沸かし、インスタント味噌汁を漁る。僕が着替えて部屋から戻ると

「味噌汁何にする?」

と聞いてくれた。

「今日は油揚げにしようかな?」

「じゃ、俺はワカメにしようっと」

そう言いながら二人分作ってくれた。


「今日のアレ、ヤバかったな。明日からも気を付けろよ」

「うん」

「絶対名前教えるなよ」

「わかった」

「絶対着いて行くなよ」

「子供じゃないから大丈夫だよ」

「そうだけど、アイツはヤバそうだから」

「うん、気を付けるよ」

涼ちゃんは、あっと言う間に晩御飯を食べた。僕は、普通盛りのご飯を30分以上掛けて食べる。食器を洗い、水切りをして勉強をする。

 涼ちゃんは炬燵で寝ている。涼ちゃんが勉強している所をあまり見た事が無いな、、、。でも、勉強は良く出来る。


 30分位して涼ちゃんが起きる。

「貴実、風呂貸して」

「洗ってあるから、お湯入れて」

「わかった」

涼ちゃんは、お風呂場に行きお湯を溜めた。

「ちょっと着替え取って来るよ」

そう言って、お盆とお皿を持って帰って行く。


 僕が勉強の続きをしていると、勝手に玄関を開けて入って来る。

「今日は、あっちで寝られないから泊まらせてくれ」

と言われて

「炬燵でもいいかな?」

と聞く。

「最高!」

とニカっと笑い、炬燵に入る。

 しばらくしてお風呂が沸くと

「先に入って良い?」

と聞いて来る。

「もちろん、もちろん」

僕は返事をして勉強に戻る。


 10時過ぎに父さんが帰って来た。父さんはいつも外で食べて来る。

「貴実、父さん明日仕事だから、頼むな」

土曜日は基本休みだけど、祝日がある週は土曜日が出勤になる時もある。

「うん、大丈夫。あ、今日、涼ちゃん泊まるから」

「すいません」

「いいよ、いいよ。その方が貴実も安心するし」

そう言いながら、母さんの仏壇のある部屋へ行く。

 父さんはお風呂に入り、早々に布団を敷く。

 僕はもう少し勉強をした。涼ちゃんは僕の漫画を読んでいる。

 涼ちゃんは一度歯磨きをしに帰り、また戻って来た。いつもは布団で寝る僕もたまには炬燵で寝ようかな、、、。二人でモゾモゾ寝やすい場所を探り、朝までゆっくり寝た。


 父さんは朝早くご飯を食べて仕事に行った。僕は、洗濯機を回しながらお風呂のお湯を抜く。

「お早よう。風呂掃除やるよ」

涼ちゃんが言うからお願いする。



*****



 月曜日の放課後、僕は買い物をして帰った。涼ちゃんは部活があるから、一人だった。足りない食材と調味料を買ったら思った以上に重くなった。

 スーパーを出てから、急に金曜日の放課後の事を思い出す。

(羽柴京也って言ってたっけ、、、近くの大学3年生、、、気を付けなくちゃ、、、)

何と無く、辺りを見回す。

 家までの道をポテポテ歩く。

 家の近くまで来て、鞄から鍵を取り出す。鍵を差し込んで、回して、ドアを開ける。

「?」

何と無く後ろを振り向いた。

「?」

なんだろう、、、?

家に入って鍵を閉める。買い物した荷物を片付け、洗濯物を取り込みに庭に出る。

「?」

小さい庭を見回す。何、、、?

 窓を網戸にして、風を入れる。他の窓も網戸にする。

 洗濯物は二人分だから、量が少ない。すぐに畳終わり、箪笥にしまう。お風呂にお湯を溜めて、自分の晩御飯を作る。

 一人の晩御飯は淋しい。簡単に野菜炒めを作って、白飯を冷凍庫から出して温める。

 居間の炬燵にご飯を運び、窓を閉めてご飯を食べる。

「?」

僕は何だか変な感じがして、部屋をキョロキョロ見回す。気の所為かと思ってご飯を食べる。

 食器を洗い、戸締りを確認してお風呂に入る。ゆっくり湯船に浸かって、お風呂から出るとインターホンが鳴った。

「はーい!」 

僕は急いで身体を拭いて、パジャマを着ると頭からバスタオルを被り玄関を開けた。

 誰もいない、、、。

 何だか、嫌な感じがして玄関の鍵を閉めた。


 夕方からずっと変な感じがする。頭を乾かして、勉強を始めるけど、全然集中出来ない。ため息をいて家中のカーテンを閉める。自分の部屋に行き、今日は早目に寝る事にした。



*****



 朝一番で朝刊を取りに行く。ポストの郵便物と一緒に居間に持っていく。僕宛の塾からのダイレクトメールと、電気代の明細が入っていた。

 洗濯機を回しながら、簡単な朝食を作り食べる。部屋を掃除して、洗濯物を干してから学校に行く。途中でお昼のパンを買う。



*****



 今日は委員会があるから帰りが少し遅くなった。買い物は昨日してあるから、真っ直ぐ家に帰る。

「貴実!」

僕が振り返ると京也がいた。

「、、、」

僕は言葉が出ない。涼ちゃんに、名前を教えるなと言われたから返事は避けた。

「貴実」

一歩近付いて来る。

「運命の人」 

僕は走って逃げた。後ろなんて振り向く余裕は無い。怖かった。兎に角逃げて、急いで家に行く。玄関の前で鍵を出すけど見つからない。

 いつも入れてるポケットに無い!僕はパニックになった。どうしよう、アイツが来る。鞄を降ろし、ファスナーを開ける。いつも入れない内ポケットを探して、もう一度いつものポケットを探す。無い、無い、無いっ!立ち上がり、ズボンのポケットを触る。右の前ポケットに何か入っている。早く!早く!慌てながら、ポケットに手を突っ込む!あった!震える手で、鍵を差し込む。入らない。涙が出る。落ち着け!落ち着くんだ!やっと差し込んで、鍵を回す。ドアノブを回す前に取っ手を引いたから、ドアが開かない!もう一度ノブを回してドアを開ける。急いで中に入って鍵を掛ける。


 僕は玄関の中で座り込み泣いた。


 窓は全部鍵が掛かっているはずだけど、カーテンはレースの薄いヤツだった。家中のカーテンを全部閉めて、僕は電気も付けずに泣いた。



*****



 ピンーポーン


 30分程してインターホンが鳴った。僕は暗闇で、固まった。息を潜める。ポケットのスマホが揺れて、通知を知らせる。僕はそっと見る。

「貴実、家にいる?」

と書いてあった。

「玄関開けて」

2度目の通知で玄関を開ける。

「涼ちゃん!」

僕は、涼ちゃんを確認すると飛び付いた。

 

 涼ちゃんは、僕の腕を引いてすぐに玄関に入った。

「母さんが、貴実の家の周りをウロウロしているヤツを見たって言うから来たんだ」

僕はガタガタ震えた。


「羽柴京也に会った。僕の名前を知ってた」

涼ちゃんは玄関の鍵を掛けた。

「僕は言って無い!金曜日の後、初めて会った!羽柴は僕の名前を知ってたんだ!」

「貴実!貴実!大丈夫だから、もうすぐおじさんも帰って来るだろ?」

僕は、涼ちゃんの顔を見る。

「大丈夫だから、、、」

涼ちゃんの声が僕を落ち着かせてくれる。

「涼ちゃん、、、」

「貴実、ご飯食べた?」

「、、、まだ、、、」

「うちのおかず持って来るよ」

「、、、ありがとう、、、」

「鍵ちゃんと掛けてな、戻ったら声掛けるから」

「うん」

涼ちゃんは一度家に戻った。



 涼ちゃんは、晩御飯のおかずをタッパーに入れて持って来た。

「今日は泊まるから」

と言って、お風呂を入れ始めた。

 僕は炬燵に入っておばさんのご飯を食べる。涙が出た。

「貴実、、、」

「運命の人って何?、、、。そんなの知らない」

「貴実、、、大丈夫だから」

「だって、、、家まで知られて、どうしたらいいのかわからない」

「本当に羽柴かはわからない、セールスかも知れないしさ」 

「そ、、、だよね、、、」

「今日は泊まるから、な」

「うん、、、」

僕は食欲が無くて、いつもの倍も時間を掛けてご飯を食べた。


 玄関の鍵がカチャッと鳴ると、僕の肩がビクッと弾けた。

「ただいま」

父さんが帰って来た。 

「おじさんに話したの?」

涼ちゃんが小さな声で聞いた。

「まだ、、、」

「話す?」

「あんまり心配掛けたく無い、、、」

「わかった」 



*****



 次の日から登下校は涼ちゃんと一緒にした。涼ちゃんは部活があるから、僕は勉強して待つ。

 帰りに買い物がある時は付き合ってくれる。涼ちゃんは四人兄弟の長男らしく頼りになり、荷物も当たり前の様に持ってくれる。

 涼ちゃんは、晩御飯も僕の家で食べてくれた。二人で帰る頃に合わせて、おばさんが準備してお盆に乗せくれる。

「いつもすみません」

と言うと

「良いの良いの!貴実ちゃんの食べる量なんて、小鳥の餌みたいなもんよ。子供達の分から少しずつ貰ってるだけだから、気にしないで」

おばさんは、いつも明るくて優しい。



*****



「貴実、父さん月曜日から出張になったからな。水曜日の夜に帰るよ」

「うん、わかった。気を付けてね」 

出張用の鞄を出しておく。


 夜、一人になると思うと心配になる。


 朝、涼ちゃんが迎えに来た。

「え?おじさん、出張なの?」

「うん」

「大丈夫かな、、、」

「うん」

「俺、泊まりに行こうか?」 

「ホント?!」 

僕は少し安心する。



 放課後、涼ちゃんの部活が終わるまで教室で、勉強をして待った。

 ドアを開ける音がして

「ごめん、遅くなった!」

急いで来てくれたみたいで、嬉しかった。

 僕は荷物を片付けて、鞄を持つ。

「今日、買い物は?」

「うーん、あ!玉子買わないと」

「じゃ、スーパー寄るか」

「うん、ありがとう」



 スーパーはいつも学校帰りに一人で来ていた。最近は涼ちゃんと一緒に買い物が出来るから嬉しかった。

「明日も来てくれるの?」

ついつい聞いてしまった。

「貴実が来て欲しいなら行くよ」 

涼ちゃんがニヤリと笑う。

「来て、来て!僕が何か作るよ!」

「貴実の作れるのは、野菜炒めだけだろ?」

ニヤニヤしながら揶揄からかう。

「そうだけど、、、。パスタとか、カレーとか」

「それ、レトルトだろ」

涼ちゃんが僕の頭をグリグリする。

「あ!これは?」 

お肉コーナーに、味付けしてある豚肉と鶏肉があった。

「これなら、焼くだけだよ!」

「お、いいじゃん。これなら失敗しないだろ」

「涼ちゃん!」

「俺、豚肉の方が良いな」

「良いよ、良いよ。涼ちゃんの好きな方を買おうよ」

二人で、どの味付けにするか悩んだ。

「涼ちゃん、玉子取って来るから、お菓子コーナーでも見ててよ」

「おう」

僕は買い物カゴを持つ涼ちゃんを残して、玉子コーナーに行った。

「貴実、、、」

ギクっとする。羽柴がいた。

「なんで、あんなヤツと買い物なんてしてるの?」

玉子を取りたいのに取れない。

「貴実は、僕の運命の人なんだよ。貴実の運命の人は僕なんだ。、、、ダメだよ、他の人と仲良くしたら」

「あの、、、ごめんなさい、、、」

僕が涼ちゃんの所へ戻ろうとしたら、腕を掴まれた。

「ちょっ!ヤダ!」

「しー、静かにして、お店の人に迷惑になるから」

肩を抱かれて、店の出口の方に連れて行かれる。

「大きな声を出したら、恥ずかしいよ。ね」

耳元で言われると、ホントにそんな気がして声が出ない。

「貴実っ!」

涼ちゃんだ!

「チッ」

羽柴が舌打ちをした。涼ちゃんはスーパーの中なのに走って来た。

 羽柴は僕の肩を抱いたまま逃げようとした。僕はびっくりして転んだ。羽柴は、一度僕に手を伸ばしながら涼ちゃんを確認して一人で逃げた。

「貴実、、、」

「涼ちゃん、、、痛い、、、」

「どこ?」

「左手首、、、捻ったみたい、、、」

「家帰って、手当てしような」

「うん」

その後、二人で玉子を取りに行き、涼ちゃんに僕の財布を預けてお金を払って貰った。

 左手首がジンジンと痛む。涼ちゃんの家に寄り、おばさんに手当てをしてもらう。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと不便だけど、利き手じゃないから」

そう言いながら包帯を巻いてくれた。

 涼ちゃんが台所で、しばらくおばさんと話しをして、戻って来た。

「今日の晩飯と、貴実の家に泊まる話して、明日の晩御飯の事も話して来たよ。明日の学校の準備だけして来るから、待っててな」

涼ちゃんが僕の頭を撫でる。

 仁くんが学校から帰って来て

「貴実ちゃん!どーしたの、その手!」

と驚いた。下のがくくんと直くんが僕の側にいて、

「貴実ちゃん、コケて怪我したんだよ」

と教えてくれた。岳くんは中学1年生、直くんは小学5生でいつも元気いっぱいだけど、僕には優しい。

「貴実、準備出来た。行こう」

涼ちゃんが僕の鞄と買い物袋を持ってくれる。



 家に入ると少し安心した。

「飯、食おう。腹減った」

涼ちゃんは買い物袋の底から、おばさんのおかずの入ったタッパーを取り出した。沢山のおかずと白飯。お弁当みたいだった。

 台所から、僕の茶碗とお皿、お箸を二膳持って来て分けてくれた。

台所に行った時、ついでにお湯を沸かしたみたいで、ポットのボタンが上がる音がした。

「味噌汁飲む?」

「うん、涼ちゃんと同じので」

涼ちゃんは

「了解」

と言って、味噌汁を作りに行った。いつものインスタント味噌汁。


 左手首がまだ痛い。


 涼ちゃんの作ったお味噌汁を飲んだ。インスタントだけど、熱々で美味しかった。涼ちゃんはご飯をたくさん口に入れて、お味噌汁も口に入れた。余程お腹が空いていたのか、凄い勢いで食べる。

「あ!風呂入れないとな」

途中で思い出した様に立ち上がり、お湯を入れに行く。

 僕はお味噌汁を飲み終わる頃、少し元気が出た。おばさんのご飯を食べながら、さっきの事を思い出す。


 外で音がした。

 僕はカーテンを閉めていない事に気がついた。レースのカーテンがしてあるからこちらからは見えない。でも、夜だし、部屋の電気が付いてるから、外からは見えるんじゃないかな、、、?

 もう一度、音がする。

 気の所為かな、、、。

 心臓がドキドキする。

「どうした?」

「涼ちゃん、カーテン閉め忘れた、、、」

「ああ、今、閉めるよ」

涼ちゃんがどんどんカーテンを閉めて行く。

「貴実、何かあった?」

僕達は小さな声で話す

「外で物音がしたみたいで、、、。でも、気の所為かも」

「わかった」

涼ちゃんがスマホを取り出す。誰かに発信しているみたいだ。

「仁?貴実の家見て」

「、、、」

「、、、、誰かいない?」

「、、、」

「うん、、、わかった。ありがとな」

通話を切って

「仁に二階から見て貰った。貴実の家の回りをウロウロしてる男がいたって、敷地内に入ってた」

「ウソ、、、」

「仁がワザと音を立てて窓を開けたら逃げて行ったって」

「、、、」

「鍵、全部掛かってるよな?」

「学校行く時は全部掛けてる。今日は鍵、開けてない」

「なら大丈夫。貴実が飯食ったら風呂入ろう!手伝うよ」

「え!大丈夫だよ!」

「無理無理、今日は兎に角俺に任せて」  

「あ、ありがとう、、、」


 涼ちゃんは先に入って、身体を洗い、洗髪をしてから僕を呼んだ。

「貴実ー!準備出来た!」

僕がドキドキしながら、服を脱ぎ風呂場の扉を開ける。涼ちゃんは湯船に入りながら

「よっ!」

と言う。

「包帯取っちゃえよ。後で付けてやるから」

そう言われて包帯と湿布を外す。

「背中と頭は洗ってやるからな」

と言われて、僕はせっせと身体を洗う。まぁまぁ、右手だけでも出来るもんだと、思いながら最後はやっぱり涼ちゃんにお願いする事になった。

「痛っ!痛いよ、涼ちゃん、お願いだからそんなに強くしないで、、、」

思った以上に声が大きく、お風呂場に響いている。

「ん?ごめん、聞こえなかった。貴実、もう一度言って」

涼ちゃんがゾクゾクする様な優しい声で言う。

「あの、、、。痛いから、優しくして、、、」

恥ずかしくて、声が段々小さくなる。

 シャワーで、身体の泡を流して貰う。

「こっち、来て」

湯船に入ると

「後ろ向いて、、、」

「うん、、、」

後ろを向くと、涼ちゃんが

「ここに手を置いて、、、」

と言う。僕が湯船の淵を触ると、そっと額を触り後ろに頭を反らせる。

「ん、、、っ」

と声が出た。

「もう少し、お尻前に出して」

湯船の中で座り直すと、首が丁度良い感じに湯船の淵に当たる。

「気持ち良い」

涼ちゃんがシャワーのお湯を出して、僕の頭を濡らす。美容院に来たみたいだ。シャンプーを手に取り泡を立てる。最初はゆっくりマッサージをするみたいに、その内しっかり地肌の汚れを落とす様に洗ってくれた。

「涼ちゃん上手、、、」

ガシャーンッ!

びっくりして、僕は湯船から立ち上がった。

 涼ちゃんが急いで、窓を開ける。

「羽柴!」

羽柴が、窓のすぐ側にいた。

 僕は慌てて湯船に浸かる。

「僕の貴実に何するんだ!」

「涼!」

仁くんの声が聞こえた。涼ちゃんは、急いで飛び出して行った。

 僕は何が何だかわからないまま、湯船に浸かっていた。髪の毛、洗ってる途中だったのに、、、泡、、、。

 

 しばらくして

「ごめん、ごめん」

と涼ちゃんが戻って来た。涼ちゃんも身体が冷えただろうに、先に僕の洗髪を終わらせてくれた。その後、涼ちゃんも湯船に入り、少し身体を温めてからお風呂を上がった。



 え、羽柴が家にいる、、、。

「警察、もうすぐ来るよ」

「えええ?」

何が起こっているのかわからなかった。

「涼ちゃん?」

「羽柴を覗きの現行犯にした」

ニヤリと笑う。

「これで、しばらく落ち着くかな?」



*****



「手首の調子はどう?」

「大分良いかな?」  

「涼ちゃん、色々ありがとね」

「良いよ、良いよ」

あれから羽柴京也には会っていない。でも、家の場所も知っているし、今でも不意に思い出して怖い。

「運命の人ってなんだろうね。何で、僕の事そう思ったんだろう、、、」

「さぁね、、、。ま、運命の人なんて思い込みだろ?しばらくしたら、貴実以外のヤツが運命の人になってるよ」

ふふっと、僕は笑う。



*****



「貴実、、、酷い人だ、、、。僕を試したの?」

僕が振り向くと、羽柴がいた。何で?だって、あんな事があったらもう、諦めるでしょ?

「あんな風に僕を試して、悪い子だね?でも、大丈夫、僕達は運命で結ばれているから、どんな困難も乗り越えられるよ、、、」

「は、は、ははは、羽柴さんっ!ごめんなさい!僕、他に運命の人がいるんです!」

「え?」

「今度!今度、羽柴さんに合わせて上げます!僕の運命の人!明日!明日のこの時間、この場所で!ねっ!必ず連れて来るから、羽柴さんも来て下さいね!」

「あ、、、うん」

「じゃ、明日、また!」  

僕はにっこり笑って、ゆっくり歩いた。手を振りながら。

 そして、角を曲がると猛ダッシュで逃げた、、、デジャヴ、、、。



*****



「アイツ、、、」

涼ちゃんがため息を

「涼ちゃん、、、」

「アイツ、漫画の読み過ぎかな?逆に親近感湧くわ、、、」

「涼ちゃん、、、」

「ごめん、ごめん。明日、貴実の運命の相手設定でアイツに会えば良いんでしょ?」

「お願い出来る?」

「良いよ、良いよ。場所と時間教えて」



*****



「やっぱ、コイツじゃないか、、、。そんな気がしたんだよ。運命の相手だなんて言って、僕を騙す気なんだろ?」

「違う、お前には見えないだろうけど、俺達は赤い糸で結ばれている!」

「はは!何だそれ?冗談にも程がある」

「貴実にも見えない、、、。でも、俺には見えるんだ、、、。ずっと隠していた、幼馴染で小さい頃から繋がっている。それなのに、俺達は男同士だ、、、。貴実が可哀想だった。そうだろ?」

「お、、、おぉ、、、」

羽柴が反応する。

「貴実が女の子を好きになっても、最後には俺と繋がるんだ。どんなに可愛い子を好きになっても叶わないんだ、、、可哀想な貴実、、、。羽柴が本当に運命の相手なら、俺はすぐに貴実を譲るよ。その方が、貴実は幸せだと思う、、、。だけど、この赤い糸がある限り、最終的に貴実は俺の元に帰って来る。例え、羽柴と付き合っても、辛い別れが待っているんだ、、、貴実が可哀想だと思わないか?」

「、、、本当に赤い糸が繋がっているのか?」

「繋がっている。赤い糸で繋がっている者同士は、同じ所にホクロがある。俺達は小指に小さなホクロがあるんだ、、、」

「、、、ホントだ、、、」

僕は知らなかった。今日初めて知った。

「貴実、、、ずっと黙っていてごめん」

「涼ちゃん、、、」

「そんな、僕は貴実の事をこんなに好きなのに、、、」

「大丈夫だ、羽柴、お前にも赤い糸はある。お前の先は俺には見えないけど、必ず誰かに繋がっている。、、、早く、その相手に出会えると良いな」

涼ちゃんは優しく羽柴に微笑む、、、。



*****



 僕達はドッと疲れて家に帰る。

「涼ちゃん、コーヒーでも飲む?」

「おー、、、頼むわ、、、」

涼ちゃんも疲れたみたいだ。何か甘い物でもあれば良いけど、僕の家には何も無い。

 コーヒーを少し甘めに入れて、居間に運ぶ。涼ちゃんは炬燵に入ってボンヤリしている。

「はい、コーヒー、、、」

僕も炬燵に入る。

「涼ちゃん、ありがとね。涼ちゃんが赤い糸見えるなんて知らなかった」

僕はコーヒーを飲みながら呟いた。

「そーゆうの見えると大変でしょ?」

コーヒーの表面を揺らしながら僕は考える、、、。

「でも、、、僕、嬉しかったよ。涼ちゃんと赤い糸で繋がっていて、、、。僕、ずっと涼ちゃんの事好きだったから、、、」

涼ちゃんの顔を見る。恥ずかしいけど、ちゃんと涼ちゃんの顔を見て伝えないと、、、。

 涼ちゃんがニヨニヨ笑っている。あれ?

涼ちゃんの左手が伸びて来る。僕の首を優しく掴んで引き寄せる。


ちゅっ。

ん?なんでキス?


「貴実も信じたの?」


もう一度キスをする。ちゅっ。

えっと、、、涼ちゃん?


「赤い糸なんて見えないよ」


もう一度キス。

なんで、キスしてるんだっけ?


「嘘だったの?」


角度を変えて、またキスされる。


「俺が貴実を好きなのは本当だけどね」

涼ちゃんが僕の顔を見る。

「運命なんて変えられるよ。気持ち次第で、良くも悪くも変わるんだ、、、」


「涼ちゃん、、、」

「運命なんて死ぬまでわからないさ。死ぬ時に、貴実が運命の人だったって思えたら嬉しいよ」


「涼ちゃん、、、」 


「ちなみに、ホクロはマジックで書いたんだ」


 涼ちゃんが僕を押し倒した。僕の上に被さる様に上から僕を見つめる。

「貴実、好きだ。お前が自覚してくれて嬉しいよ」



運命の赤い糸、、、フッ、、、

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