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5. マリウスの告白

「クリフ様、ご機嫌よう。

 お時間を作っていただき恐縮ですわ。

 お忙しい中、ありがとうございます」


「やあ、モニカ。前触れさえくれれば、モニカのための時間はいくらでも捻出出来るよ。

 これからも遠慮なく尋ねてくれ。

 僕の仕事も捗るから。いつでも大歓迎だ」

 殿下が、満面の笑顔で出迎えてくれた。


「久しぶりだね、エリシア。元気そうで何よりだ」

 微笑む殿下に型通りの挨拶を行った。

 ソファの前のテーブルには、すでに侍女らによって茶器やお菓子が準備されている。

 殿下とモニカ様が並んで座ったので、その向かいのソファにマリウス様と並んで座った。


 侍女がお茶を給仕し終えて下がり、全員がお茶を飲んで一息ついたタイミングを見計らって、モニカ様が話し始める。


「クリフ様、エリシア様を私の専属の侍女としてもよろしいでしょうか?」


「いいんじゃないか?

 マリウスとの子が同じようなタイミングで出来れば乳母になってもらって、子達を乳兄弟とすることが出来るしな。

 侯爵夫人との両立は大変だろうが、マリウスの母君に手伝ってもらえば問題ないだろう」


「クリフ様、お二方は婚約解消されるようですの。

マリウス様がエリシア様以外の方に気があるようですわ。

 そうなのですよね?マリウス様?」


「「はっ??」」

 男性二人の声が揃った。


「え?そうなのか?マリウス!どこの令嬢だ?!」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!!

 婚約解消する予定ではありますが、他の令嬢がどうのという事は全くないです!」

 必死にマリウス様が否定した。


「えっ?でも、エリシア様はそう思っているみたいよ」

 三人が一斉にエリシアをみる。

 居た堪れず下を向きながら答えた。

「えぇ…っと……

 私達の婚約は卒業後解消される事は決まっているので…… 解消後はすぐに他の令嬢が婚約者になるのではないかと思ったのです……」


「ちょっと待て。え?もしかして、マリウスはエリシアに何も言ってないのか?

 ほんとに婚約解消するのか?二人は」

 殿下が困惑した表情を浮かべつつ尋ねてきた。



 クリフは、エリシアが影となるためにマリウスの婚約者となったいきさつをもちろん知っている。

 だが、二人が相思相愛である様子から、すでに恋人となっていて、そのまま婚姻するものだと思っていた。

 マリウスに忠告をした事もあり、まさか、マリウスが告白めいたものを全くしていないとは思っていなかったのだ。



「マリウス様とは、近々今後の事についてお話ししなくてはと思っていました。

 その時に、婚約を解消してもモニカ様のお側にいてお支えしたいとお伝えする予定でした。

 このような場となってしまいましたが、これからずっとモニカ様の専属侍女として、今まで以上に役目を全うしたいと思っております」


「エリシアはそれでいいのか?もう役目に捉われなくていいんだぞ?

 俺と婚約解消したら、好きな相手と婚約していいんだ。今はいなくても、そのうちそういう相手が出来るかもしれない。もう自由に生きていいんだ」


「?どういう事ですの?? 

 お二人の婚約は、マリウス様がエリシア様を見初めたからではないのですか?役目って?」

「モニカ。少し席を外そうか。

 二人きりで話す時間がマリウス達には必要なようだ。

 エリシアの役目については僕達が婚姻後に説明する。今は詳しく話す事は出来ない。

 ただ、エリシアがモニカにとって公私共に大切な存在であることは間違いない。今までの友人関係に嘘はない。そこは信じてやってくれ」


「……わかりましたわ。

 私にとってエリシア様は、かけがえのない友人です。どんな事情であれ、これからも側に居続けてほしい、一番信頼できる親友ですわ。

 なので、幸せになって欲しいのです……」


「モニカ様……ありがとうございます。

 これからもずっとずっと、よろしくお願いいたします」

 涙を浮かべて深く頭を下げた。


「私達は庭を散歩してくるよ。

 マリウス。しっかりと気持ちを伝えた方がいい。

 お互い、素直じゃないようだ。もっとシンプルに考えた方がいいぞ」

 モニカ様をエスコートしながら、お二人は部屋を出て行った。

 控えていた侍女達も殿下の後に続いて部屋を出た。

 二人きりとなった執務室は、静けさが漂った。


「シンプルに…か……

 殿下には一生敵わないな。モニカ様も賢い方だから、エリシアが影である事に気づいたのだろうな。

 ほんと、臣下としてお仕えしたいと思わせる資質をお二人は兼ね備えているな。見習う部分がたくさんある」

「えぇ。ほんとに。

 クリフ殿下の隣はモニカ様以外考えられません。

 その地位が揺るがないよう、側でお支えしたく思います。このまま影として生きる事をお許し願えますか?」


「俺は、エリシアの今後の人生のためには今の立場から解放すべきと思っていた。

 だがエリシアが影を続けるつもりなら……

 俺の気持ちをシンプルに伝えることにする。


 エリシアが好きだ。

 婚約を解消したくない。

 俺の伴侶となって、ワーグナー家を一緒に支えて欲しい。

 ワーグナー家と王家の影は切り離せない関係だ。そのため当主の妻は他の家に比べて苦労が多い。

 モニカ様の専属侍女になるなら、やるべき事が果てしなくなる恐れもある。

 今でさえ役目を与えられて緊張を強いられる毎日で気苦労が多いだろ。俺の妻となってしまったら、さらなる気苦労が一生続くかもしれない。

 有無を言わさず、この道に引き込んでしまったが、今なら引き返す事が出来る。普通の貴族令嬢としてどこかの貴族家に嫁いで穏やかで幸せな人生を送ることが出来るんだ。

 だから……俺の気持ちは伝えたが、今回はハッキリと断ってくれていい。

 エリシアの気持ちを優先していいんだ。

 この道に引き込んだ時の俺は卑怯だったと思う。

 断れない状況をあえて作ったんだから。だが、それほど、エリシアを影にしたかった。

 エリシアは俺の期待に十分応えてくれた。いや、期待以上だったよ。

 最初は美少女なのに無表情で、それが面白可愛くて妹のように思っていたんだが、花開くように魅力溢れる女性に成長していくエリシアに、どんどん心が奪われていった。

 婚約者として接することが出来て、嬉しかったし楽しかったよ。

 だが、一方的な俺の気持ちをこのまま押し付ける訳にはいかないと思ったんだ。

 卑怯な手を使ってエリシアを手に入れたが、エリシアがフリーになれば、すぐに多くの令息から求婚されるだろう。

 俺が解放すれば、エリシアは自由に恋愛が出来る。 普通の幸せを手に出来るんだ。

 だから……

 エリシアが婚約解消したいなら受け入れるよ」



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