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3. すれ違い

 12歳になったエリシアは、一人前の影としてその実力を認められた。

 一年後にはモニカとエリシアは学院に入学することになる。表向きはマリウスの婚約者としてモニカに紹介されたが、モニカと一緒にいる時はモニカの影として常に警戒するように、と影の長から改めて任務の通達がなされた。

 お互いの婚約者を交えて何度も顔を合わせたが、二人の相性はとても良かったらしく、次第に親友と呼べる間柄となっていた。

 モニカはエリシアが自分の影であることを知らない。

 王家の影の存在は、王家の一員となって初めて知らさせるのだ。殿下はもちろん知っているが、モニカがエリシアを友人として信頼している事に大変気をよくしていた。


「さすがマリウスだな。こんなにモニカと相性がいいとは思わなかったよ。

 影としても優秀なようだし、エリシアをスカウトしてくれた事に改めて感謝しないとな。

 モニカには敵わないが、エリシアも大変美人だし、真面目で性格もいい。いい子を婚約者にしたな。ワーグナー家の将来も安泰だな」


「殿下、エリシアが素晴らしい事は認めますが、婚約はあくまでもモニカ様の影とするための仮の婚約です。役目が終われば婚約を解消する約束なので……

 私の婚約者は、殿下の婚姻後にでも見つけますよ」


「本気で言ってるのか?お前達の相性もかなり良さげだぞ。あんな逸材は他にいないだろうが。

 今のうちにエリシアの気持ちを捕らえて本物の婚約者になっとけよ。じゃないと後悔するぞ?」


「ですが…… 無理矢理この道に引き込んでしまった私の事を好きにはならないでしょう。

 影の引退と合わせて、エリシアが望むなら速やかに婚約を解消する予定です」


「……まあ、エリシアに影として働いてもらうのは学院の間だけでいいしな。王宮に入れば護衛と他の影に任せる。

 お前達二人の事に私が口を出すのも無粋だしな。

 だが、エリシアを手離したくないと思ったら、きちんと本人に伝えた方がいいぞ」


「ありがとうございます。その時は考えます」




 入学式を終え、モニカ様と教室へ向かう。

「たった一年しか殿下達と過ごせないなんて残念ね。同じ歳だったら良かったのに」

「そうですね。貴重な一年ですから、めいいっぱい楽しく過ごしましょう」

 と、モニカ様に笑顔を向けた。

 周囲への警戒は怠らないように気を引き締めるが、他の影の気配に動きがないため緊張感はない。

 美しく可愛らしく、聡明で優しいモニカ様に癒される。私が殿下でもモニカ様を選ぶわーと、モニカ様の友人かつ影として側に居られる事が嬉しかった。


 学院に通っている間は、学生達は殿下以外皆寮に入る。多くの騎士が交代で見守り、寮のセキュリティは万全だが、さすがに王族は例外となる。

 モニカ様には常に影がつけられているため、他の生徒よりセキュリティは強化されているものの、移動の合間に吹き矢やボウガンで狙われた。矢が放たれる前に刺客の存在に気づいた影がいち早く排除してくれるのだが、月に一度は狙われていた。王太子妃の座を狙う高位貴族達によるものだろう。

 自宅でも間者により毒を盛られることがあったため、常に側に控えている侍女が毒見役もしていた。


(大変だなぁ〜 モニカ様… 常に命を狙われてしまうという状況がこれから先もずっと続くなんて……

 もちろん、私と他の影が絶対にお守りするけども。

 でも、殿下の事を好きじゃなきゃ辞退したいよねぇ…… 家のためだけじゃなく殿下を愛してるから耐えれるんだろうなぁ。

 まあ、クリフ殿下もモニカ様の事とっても大切に想っているのが丸わかりだし……

 はぁ〜…… 相思相愛の二人が羨ましい……)



 4人は学院ではいつも一緒に過ごし、モニカが狙われた時には他の影と連携して素早く排除していた。

 大抵は二人が動く前に見えない影が動くが、近くにいる彼らのどちらかがより早く察知して排除することもあった。

 捕らえた刺客は、自供する前に自決してしまうため、黒幕に繋がる証拠は手に入れることは出来ない。黒幕をあぶり出せないため、定期的に刺客が送られてくる。

 王太子妃の座を狙う娘を持つ高位貴族は多いため、黒幕が一つではない事も原因だろう。


 殿下とマリウスが卒業した後も、刺客は変わらず送り込まれた。殿下の配慮で見えない影が倍に増やされたためエリシアはさほど活躍することなく、ただのモニカの友人として学院生活を送る事が出来ていた。


 マリウスは殿下の側近として殿下の執務室に常にいたため、王宮で時折4人で楽しくお茶をしたり、婚約者としてワーグナー家でお茶をする時には影としての情報を共有もした。

 時折開かれる夜会やお茶会には、婚約者としてマリウスからエリシアにドレスや宝飾品が送られ、マリウスはエスコートを完璧にこなした。

 婚約者としてお互いを紹介し合い、笑顔で見つめ合って会話する二人はとてもお似合いだった。


(はぁー…… マリウス様の大人の魅力が日々増して、誰もが恋してしまう男性となってしまっているわ……

 私の役目ももうすぐ終わり。誰か気になる令嬢でもいるのかしら?私との婚約が解消されれば、すぐに新しい婚約をするのでしょうね…… 婚約解消したくないなぁ)


(エリシアは、どんどん魅力的な女性になっていくな。学院でもエリシアは目を引いているだろう。誰か気になる男でもいるのだろうか?

 いたとしたら、今すぐそいつを消してしまいたいくらいだが……

 役目が終わればエリシアを解放すると約束したんだ……

 有無を言わさずこの世界に引き込んでしまった俺に、エリシアの将来に口を出す権利はないよな)


 殿下達以上に相思相愛だと思われているエリシアとマリウスだが、当人達は名目上の婚約だと思い込んでいるため、お互いの気持ちに全く気づいていない。

 役目が終われば婚約解消だと思っている。


 二人とも婚約解消したくないにも関わらず。




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