目醒
カナタは夜の静寂に包まれた部屋で、ベッドに体を沈めた。
窓の外では風が梢を揺らし、葉が擦れる音がかすかに聞こえてくる。
ポケットから、あの“欠片”を取り出す。
光も放たず、冷たいだけの塊。それなのに――目が離せなかった。
月明かりの下で見つめていると、まるでそれが“形を変えようとしている”ような錯覚に陥る。
不規則な模様が、見えたり消えたりしている気がする。言葉のような、記号のような……。
「……なんか、気持ち悪いな。なのに……」
なぜか手放したくなかった。
この欠片を拾った瞬間から、自分の中に何かが“起こり始めた”ような感覚がある。
その時――
欠片がかすかに震えた。
いや、震えたように“思えた”だけかもしれない。
だが次の瞬間、カナタの意識の奥底に、ひとつの“地図の断片”のようなイメージが流れ込んできた。
知らない場所。見たことのない地形。巨大な塔。空を裂く影。
そして――欠片と同じ模様を刻んだ“何か”。
「……なんだ、今の」
すぐに消えてしまったその映像に、理由はまったくわからない。
でも、確信だけはあった。
この欠片は“どこかに繋がっている”。
そしてそれは、この世界ではない“どこか”だ。
カナタは欠片を手の中に握りしめた。
熱はないのに、掌がじんわりと痺れていくような感覚が広がっていく。
目を閉じても、さっき見えた“あの景色”は残っていた。
知らない大地、宙に浮かぶ何か、そして――自分の知らない理。
息を飲んだ。
この世界には、自分の知らない“何か”がある。
そう思った瞬間、胸の奥が、妙に騒がしくなった。
その理由はまだわからない。
でも、それは――どこか懐かしくて、怖くて、けど少しだけ、ワクワクする感覚だった。
……何かが、動き出している。
そんな気がしてならなかった。