踏み出す足音
カナタは、村の片隅でひとり歩いていた。町の通りは静まり返り、空はどんよりと灰色に覆われている。風が冷たく吹き抜け、彼の肌をひんやりと包み込んだ。その冷たさが、胸の奥に何かを突き刺すような感覚を与えた。
「またか……」
村の人々の視線が、背中に痛いほど突き刺さっているのを感じながら、カナタは前を向いた。異物を使えない自分に、誰もが期待していない。使えないから、何もできない。ただの少年だ。
「でも、そんなの関係ない。」
カナタはそう心の中で呟いた。異物を使える者たちと比べて、自分には力がない。でも、それに負けるつもりはなかった。自分にできることが必ずあると信じていた。
「俺は、俺なりにできることを見つける。」
異物を持って生まれた者たちにとって、カナタはただの存在でしかなかった。力もない、何の特別な能力もない。それでも、彼は周囲の冷たい視線に耐えながら、毎日訓練を続けてきた。何も変わらない日々、変わらない自分。だけど、彼はそれに対しても諦めることはなかった。
その時、後ろから声が聞こえた。
「おい、カナタ。そんなに必死になって、意味あるのか?」
振り返ると、そこには村の少年たちが立っていた。彼らは口元に笑みを浮かべ、カナタを見下ろしている。
「異物も使えないくせに、無駄に頑張ってるだけだろ? お前、何がしたいんだ?」
「そうだ、せめて異物でも使えれば少しは役に立つかもしれないのにな。」
彼らの冷笑が、カナタの胸に突き刺さる。何度も言われてきた言葉だった。異物を使わない自分には、何も価値がないとでも言わんばかりの言葉たち。
「でも、無駄じゃないんだ。俺には、俺にできることがきっとある。」
カナタは心の中でそう呟いたが、口には出せなかった。ただ無力さを感じ、言葉が喉の奥で詰まる。
「なんだよ、それ。」
一人が鼻で笑った。「それがカナタのすべてか。お前、ほんとに変わらないな。」
カナタは一瞬、立ち止まった。目の前にいる少年たちは、異物を持っていることで得られる力を誇示していた。だが、その目線の先には、彼にとってはどんなに頑張っても手に入らない力が存在することを、何度も実感させられた。
「無駄だって思われてるんだろうな。でも、俺はそれでもやる。」
カナタは自分に言い聞かせるように呟きながら、無理に笑顔を作った。けれど、顔にはどこか冷ややかな苦しみが滲んでいることを、少年たちは見逃さなかった。
「そうだ、せめてお前が役立つことができれば、少しは面倒見てやるけどな。でも、無理だろ?」
「早く諦めろよ、カナタ。お前には何もないんだから。」
その言葉が、カナタの心を深く傷つけた。彼の胸の中には、わずかながらの怒りが湧き上がる。しかし、声を荒げることはなかった。そんなことをしたところで、何も変わらないと知っているからだ。
「どうせ無駄だって、言われるんだろうな。でも、俺は諦めない。」
そう心の中でつぶやき、カナタは少年たちに背を向けて歩き出した。振り返ることなく、ただ前を向いて。彼には、今もこれからも、ただひたすらに続けるしかない道があった。
「いつか、俺も認められる日が来る。」
その思いがカナタを支え、今日も彼は一歩踏み出す。その足音が、静かな村に響いた。
カナタは歩きながら、心の中で何度も繰り返していた。
「俺にはできる。諦めない。」
異物を使えない自分にとって、他の者たちの力を得ることは叶わない。それでも、力を持たなくても、自分にできることを見つけて前に進むしかない。そう誓いながら、カナタは村のはずれに向かって歩いていった。
冷たい風が頬を撫で、足元には草が生い茂っている。村の外れにある訓練場には、いつもと同じように、カナタの訓練仲間たちが集まっていた。
「今日も頑張るぞ!」
リーダー格の少年が声をかけ、仲間たちが頷いた。彼らもまた、異物を使える者たちだ。それぞれが個性を持ち、その力で自信を深めていた。
「カナタ、今日はどんな訓練をする?」
カナタはいつものように、無理に明るく笑顔を作った。
「今日は、体力を強化する訓練をしたい。みんなには負けないように、頑張るよ。」
仲間たちは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐににっこりと笑って答えた。
「おう、頑張れよ。お前がいつも真剣にやってるの、俺たちも見てるからな。」
それを聞いて、カナタは少しだけ胸を撫で下ろした。彼にとっては、ただの励ましの言葉かもしれない。でも、その言葉が心に響く瞬間があった。
訓練が始まり、カナタは汗をかきながら走り、体を鍛え続けた。異物を使えなくても、体力をつけることで少しでも力になれると思っていた。努力を続けることで、必ず道が開けると信じていた。
午後になり、訓練を終えたカナタが一息ついていると、またしても村の少年たちの声が聞こえてきた。
「おい、カナタ。まだ訓練してるのか?」
少年たちが近づいてきた。今度は少しだけ冷やかすような態度で、カナタを見つめていた。
「お前、無駄に走ったりしてさ、そんなに疲れてどうすんだよ? 異物も使えないくせに。」
「それで満足してるのか?」
カナタはその言葉を聞き流そうとしたが、胸の奥で何かが引っかかる。確かに、努力しても異物を使えない自分には、他の者たちのような力は手に入らない。だが、それでも諦めるつもりはない。
「俺には、俺にできることがある。」
そう言って、カナタは無理に笑顔を作った。
「別に、お前たちの言うことは気にしてないよ。俺は自分のペースでやるだけだから。」
少年たちはカナタの答えに驚いたような顔をしたが、すぐに無表情になり、去っていった。カナタはその背中を見送りながら、再び息を整え、訓練を続けた。
「いつか、絶対に認められる日が来る。それまで、俺は諦めない。」
その思いが、カナタの中で燃え上がる。異物を使えない自分が何かを成し遂げるためには、もっと努力し、強くなるしかない。その決意は、日々の訓練を通じて、少しずつ彼を支えていた。
カナタの足音が、空っぽの訓練場に響き渡る。